SNH48主演映画『夢の予備校生~半熟少女』意外にミニシアター系

SNH48主演映画『夢の予備校生~半熟少女』を見た。ネット視聴料金は喜んで支払うつもりだったが、有償公開されたどの中国の動画サイトも支払いは結局「支付宝」で、中国国内の銀行口座で作られたクレジットカードしか使えないので、現地ファンの方から海賊版を提供していただいた。

以下、ネタバレせずに出来るだけこの映画の良さを伝えたいと思う。

見る前は、中国国内でも知名度のないアイドルグループSNH48が、活動の片手間に天津で撮影した映画で、せいぜいPVに毛が生えた程度だろうと油断していたが、意外に良くできていた。

画面比率はシネスコサイズという贅沢さ。シネスコである必要などあるのかと思ったが、例えばこのカット、物語上は何でもない場面でも、前を歩く教師と、タンミン(湯敏:SNH48退団済み)の距離を表現するために、この画面サイズが生かされている。



そして、アイドル映画なのに演出が全体として非常に抑制が効いている。もちろん最後の部分のカットバックなど、全く不要な演出もあるのはやや残念だが、ご覧のように画面のコントラストも、照明も、BGMも、驚くほど派手さがない。派手なのはメイクぐらいかもしれない(メイクが濃すぎる)。

下図のように、人物の影や、風に揺れるカーテンの動きもきっちり撮る映画は、基本的に良い映画だ。

そしてカット割りも、やはり驚くほど冗長な部分が少ない。ジャンピング・カットもところどころ使われているが、例えば下図の部分のように、非常に地味なジャンピング・カットがさりげなく入っている点には驚かされる。

セットや小道具のクローズアップも、きっちり撮られており、しぼりを開いたレンズのフォーカスの当たり具合も嫌味がない。

下図のように、ところどころ定番と言えるカットもある。このカットでは、台詞を話している女教師役をワンカットの中で、鏡の中の像から実物へとパンしている。こういう細部がちゃんと演出されているのは好感が持てる。

映画を通じて最も美しいと思ったクローズアップは、このSAVOKI(趙嘉敏)。このシーンでSAVOKIはタンミン(湯敏)一家の平凡な幸福を目にして、羨ましく思いつつ、自分の家庭環境と比べて悲しみも感じているが、それがすべてこの表情に現れている。

SAVOKI(趙嘉敏)の演技が上手いというより、シネスコの余白を生かしたフレーミングと、この表情をカットした編集の妙だろう。

脚本についてはネタバレになるので触れないが、2箇所だけ泣いてしまった。ともにSAVOKI(趙嘉敏)と母親の関係にまつわるカット。

脚本は、学校内で二つの女子学生ダンスチームが対決するという単純なストーリーではない。むしろこの対決ストーリーは単なる道具立て。タンミン(湯敏)と王櫟鑫のラブストーリーも中心にはなっていない。

メインになるのは、SAVOKI(趙嘉敏)とタンミン(湯敏)の友情、SAVOKI(趙嘉敏)の母娘の愛情。

AKB48系グループの主演映画ということで、SNH48運営がもっと起伏の激しい、刺激的な映画を撮らせるのかと思ったら、全く違った。

もちろん脚本や演出に一部稚拙さはあるけれども、中国の若手映画作家の良心が存分に発揮されている、ミニシアター系の良質な映画という感じ。

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