上海SNH48チームSII完全オリジナル公演『心の旅程』全曲を勝手に解説!(その1)

AKB48海外姉妹グループとして初の完全オリジナル公演を、上海SNH48の一期生中心のチームSIIがすでに上演を始めている。

まずはチームX四期生メンバーのフェイフェイ(馮曉菲)が、とにかく他チームの振り付けを努力して覚えまくったことが運営に認められ、正式にチームSII兼任となり、この初日にも登場したことをお祝いした。

彼女自身、強力なAKB48ヲタなので、自らアイドルとして舞台に立つ「覚悟」は四期生の中でも群を抜いているのではないか。

さて公演の楽曲だが、個人的に「AKB48楽曲よりも中国では主流の韓流や欧米ポップス風になるんじゃないか」と心配していたのだが、まったくそんなことはなかった。

むしろこんなに「コテコテ」の最近の日本のアイドル楽曲風でいいのかと申し訳なくなるくらいに、ガッツリ、日本式アイドル路線になっていた。

↓初日のインターネット生中継全編はこちらで見られる

Overtureの前

Overture前の影アナはAKB48の公演を完全に踏襲しているが、その直後に飛行機の登場窓口案内のアナウンスの英語が流れる。「SNH48のフライトは間もなくです。48番搭乗口までお越しください」という内容。

これはもちろん『心の旅程』という公演テーマに沿ったもの。

そしてOvertureの前に、オンライン生中継の視聴者と、舞台両わきのスクリーンには、ジャンボジェット機が離陸するCGが映しだされる。



オンライン生中継の画面に、生中継スタッフがその場でオーバーレイの映像を入れるのは、上海SNH48が以前から行っている「サービス」。このオーバーレイ映像を入れる生中継スタッフを、現地ファンは通称「活動三」や「gay3」と呼んでいる。

SNH48公演を初期から生中継していた中国のオンラインゲーム生放送サイト「闘魚」のチャンネル名が「活動三専用」だから(だと筆者は理解していますが、間違っていたらご指摘ください)。

そして「gay3」は、メイキング映像に登場したこの「活動三」というあだ名のスタッフの外見が中性的で、ぱっと見ただけでは男性か女性か分からないことから(笑)。

00.Overture

00.Overtureの音源はこれまでの上海SNH48のものをそのまま使っている。つまり北京BEJ48、広州GNZ48のOvertureの新規録音バージョンとは違う。

またOvertureのバックに流れるCGアニメーションも新しいものに変わっている。これが日本本部のどこかのAKB48系グループを踏襲しているのかどうか、どなたかご存じの方はご教示ください。

01.心の旅程

この曲はすでにSNH48初の全曲オリジナルEP『源動力』に収録されており、メイン曲の『源動力』よりもはるかに作曲・編曲の完成度が高いことはここで書いた。

公演で聴いてみると、なるほどオープニングにぴったり。ただし『源動力』収録と比べると間奏などがカットされ、短くなっているのがやや残念。

それから、ちゃんと読んだわけじゃないけれど、中国語の歌詞のスタイルも今までのAKB48楽曲の意訳の歌詞とは、かなりニュアンスが変わっていると思う。

単純な話、いままでの公演曲の歌詞には出てこなかったような単語がたくさん出てくる。最初から脚韻をふんで自由に作詞できるので、中国人の方が作詞はやりやすいのだろう。

また、全曲オリジナル曲の公演ということは、ダンスも当然全曲オリジナル。SNH48運営会社専属(と思われる)ダンスコーチが振り付け担当だが、これはダンスの素人が見ても、日本のAKB48系グループの振り付けとは違うのが分かる。

『源動力』MVダンスバージョンを見たときに、すでに気づいてはいたけれど、ひじから先、とくに手のひらの振り付けが、日本の振り付けと明らかにスタイルが違う部分がたくさんある。

逆に言うと、下半身のステップの振り付けは、たぶん日本の振り付けよりもかなり単純なパターンの繰り返しになっていると思われる。

でも筆者はダンスについてはまったくわからないので、この点はダンス経験のある方に分析してほしいなぁと思う。

02.時差のパスワード

テンポが速すぎてイントロで劇場のファンがMIXを打てない(笑)。たぶんAKB48本部だったらこの曲は、もう少しテンポを落とすはず。細かいところだけれど、こういうところは中国風なのかも。

03.小宇宙

タイトルから、この曲って『聖闘士星矢』じゃないか!という事前のツッコミが現地ファンからあったが、じつはそれは後で出てくる別の曲だったという、意外な展開(笑)。

この曲もJ-POPに典型的なAメロ⇒Bメロ⇒Cメロ(サビ)の展開、しかもBメロにもサビにもちゃんと転調が入っているのがポイント。しかもメジャーからマイナーへの転調というのが特徴的。とくにサビの最後がマイナーになるので、とても印象的。

ただし編曲で最初から最後までディストーション・ギターがバッキングなのは『源動力』と同じく、手抜きではないかと思う。他の公演曲もそうだが、作曲はいい線いっているのに、編曲がワンパターンということは言えると思う。

04.モナリザに自撮りはない

舞台演出でシャッター音と、フラッシュのように一瞬光るスポットライトが面白い。この曲はテンポもイントロの長さもたっぷりで、慣れてくれば観客はちゃんとMIXを打てるし、各メンバーのソロパートで「超絶かわいい○○」も言いやすいだろう。

この曲もJ-POPに典型的なAメロ⇒Bメロ⇒Cメロ(サビ)の展開で、AKB48の新公演曲と言われてもまったく違和感がない。

しかもサビに洗脳フレーズ「我要我要我要我要」「想你想你想你想你」が出てきて、これ以上ないくらいのコテコテのアイドル曲に仕上がっている。

ここまでやってくれると気持ちいいくらい。たぶん作曲家は日本のアイドルポップをかなり研究したんじゃないかと思う。それか、作曲家の方がじつは日本の女性アイドルヲタかのどちらか(笑)。

間奏でマイナーチェンジして、曲想もがらっと変わる点も、いかにもありがち。

このあたりの曲はAKB48が逆輸入して公演曲にできちゃいそうなレベル。

そしてこの曲でいちばんおもしろいのは、曲の最後に舞台中央の天井で、客席を見下ろす位置にある魚眼レンズが、メンバーと観客の集合写真を、毎回撮影して、直後のMC1前に舞台両わきの大スクリーンに映し出すという演出。

日本ではプライバシー保護の観点から運営会社が観客とのトラブルを嫌って、この種の演出はなかなか難しいのかもしれないが、面白い演出。

ところでこの舞台後方から観客席全体を視野に入れる魚眼レンズ(超広角レンズ)カメラは、いつからかSNH48公演の生中継に取り入れられた。

たしかに上海の劇場になかなか足を運べない観客にとっては、客席の雰囲気も何となく感じ取れることは重要。

このあたりもSNH48がAKB48とは「違って」、オンライン・トゥー・オフライン、つまり、まずインターネットでSNH48のことを知って、それから劇場へ誘導するというコンバージョンの経路を中心にして運営が設計されていることの現れ。

MC1

MC1は自己紹介だが、メンバー別の自己紹介が始まる前、毎回、抽選で超VIP席ではない観客が、舞台かぶりつきの最前列中央にある超VIP席3席のうち、残りの1席にすわれるという企画が、今回の新公演で取り入れられている。

↓公演初日に超VIP席に当たったのはこのファンの方。

こういう細かいファンサービスのアイデアも、スタッフがあれこれ考えて出すんだろうけれど、おそらく秋元康の「個人商店」的な色合いが濃い日本の運営よりも、中国企業らしく社員の提案が採用されやすい社風なんだろうと想像する。

05.親友のばんそうこう

一期生ダイモン(戴萌)、一期生マオマオ(李宇琪)、二期生ルオルオ(徐子軒)、四期生フェイフェイ(馮曉菲)4名のユニット曲。

この曲の振り付けは完全にHIP HOPでマオマオが本領発揮。衣装も曲調もぜんぜん違うけれど、AKB48公演で言えば『奇跡は間に合わない』的なポジションの曲。

おそらく運営会社がマオマオ(李宇琪)がHIP HOPダンスの実力を発揮できるように企画した楽曲と思われる。

この曲が宮澤佐江にとっての『奇跡は間に合わない』と同じように、マオマオ(李宇琪)の名刺がわりの曲に成長するといいなぁ。

また、四期生フェイフェイ(馮曉菲)も一期生、二期生の先輩たちにまったく引けをとらないダンスを見せているところもすごい。

06.地平線

ガラッと変わって、ゆる~い、リズムがタッカタッカと跳ねているユニット曲。伴奏にブラスが聴こえるので、どうしても『オー・シャンゼリゼ』を思い出してしまう。

一期生キキ(許佳琪)、一期生Bちゃん(孔肖吟)、一期生マネー(錢蓓婷)、二期生アイコ(沈之琳)、一期生レンレン(吳哲晗)の5名のユニット曲。

この曲のブラス・アレンジはよく出来ていると思う。やはり編曲には良い曲と凡庸な曲と、ややムラがある感じ。

07.次の駅はあなた

SNH48一期生カップリングの中では定番のシャオアイ(陳觀慧)、チェンスー(陳思)の2人による、可愛らしいユニット曲。

この2人は現地ファンが言うところの、SNH48では数少ない「清流」カップル(笑)。つまり下ネタに汚れされてないということ。

そんな2人にぴったりの曲調。こうやってSNH48メンバーのキャラに合った楽曲を、運営会社みずからコンセプトを作って書き下ろせるのが、オリジナル公演のいちばん良いところ。

この曲調ならチェンスー(陳思)の生まれつきの「赤ちゃん声」も、まったく違和感がない。むしろ曲の愛らしい雰囲気を十分に引き立てている。

*)2016/05/23追記: Twitterで@wakabakanakoさんからこの曲の歌詞の日本語訳を頂いたので転載。やっぱり2人のイメージにぴったりのかわいらしい歌詞だということがよく分かる。

08.新世界

上で、『聖闘士星矢』は別の曲でした、と書いたのはこの曲。

このユニット曲のイントロは悪く言えば『聖闘士星矢』的な日本のアニメのオープニングテーマ曲のイントロのパクリ。良く言えば、日本の戦闘ものアニメへのオマージュ。

一期生momo(莫寒)、三期生コアラ(袁丹妮)、二期生みらい(蔣芸)、二期生チュンチュン(袁雨楨)の4人。

この曲はアグレッシブなクールビューティー系の曲で、AKB48本部ならもっとヘビーなロック風の編曲にするだろう。

みらい(蔣芸)、コアラ(袁丹妮)はおへそが出ていて、かなり露出度が高めの衣装。

振り付けのポイントは小道具の小さな扇子。このあたりに少しずつ「中華風」が散りばめられている。

ただこの曲の編曲は、ちょっと薄っぺらすぎる感あり。もっと低音を分厚くしても違和感はないと思う。

09.パラシュート

やっとSNH48運営が一期生の歌姫CC(徐晨辰)のために、彼女の「持ち歌」を書き下ろしてくれました。もう一期生デビュー当時からSNH48をフォローしている筆者としては、涙が出そうなほど。

しかもブルース・スケールの欧米ポップスを完璧に歌えるCC(徐晨辰)ならではの、R&B系の曲調。この曲もSNH48チームSIIの中では彼女のキャラクターにハマり過ぎるほどハマっている。

中華ポップスの文脈で言えば、JJというニックネームの林俊杰(リン・チュンジエ 1981/03/27生)になるが、筆者の世代としてはデヴィッド・タオ(陶喆 1969/07/11生)あたりが、この種の中華ポップスの中のR&Bの先駆者。

というのは、中華ポップスを欧米ポップスのレベルにまで持ち上げたのは、間違いなくフェイ・ウォン(王菲)だが、彼女はブルース・スケールを歌えない。たとえばホイットニー・ヒューストンのカバーができない。

しかしフェイ・ウォンと同年代の順子(シュンツー)は逆に、欧米のジャズやR&Bなど黒人音楽を見事に歌いこなす。

いま中華ポップスで、R&Bをふつうに耳にするようになったのは、たぶん順子やデヴィッド・タオの功績だと思う。

そしてその流れをSNH48系グループで、しっかりと引き受けるだけの歌唱力があるのが、一期生CC(徐晨辰)。

以上がユニット曲。今日のSNH48チームSII完全オリジナル新公演『心の旅程』の曲目解説はここまで。

ちゃんと手を抜かずに解説したいので、残りは後日。