AKSの中国姉妹グループは『私と私の祖国』を歌えるか?

AKSが中国に作る姉妹グループの成否は『私と私の祖国』を歌えるかにかかっている。

2016/12/10(土)AKB48ファンミーティング当日のゴタゴタを振り返ってみる。

例によってレコードチャイナが「上海で渡辺麻友らファンイベント、AKB48の中国進出発表、会場外には反日活動家らの姿も―香港メディア」(2016/12/11 11:10)という記事を「Mathilda」名で出している。

北京BEJ48チームEサンサン(蘇杉杉)の画像を使ってくれたのはSNH48グループ・フォロワーとしてはありがたいけれど、ただしこの記事の最後の部分は、やや問題あり。

「会場外に反日活動家が集まり、AKB48のボイコットを叫ぶ一幕も。AKB48メンバーが自衛官募集のCMに出演したことを、特に問題視したものだった。しかし、集まったAKB48ファンとの間でゴタゴタが発生し、ファンが活動家から中国の国旗を取り上げ、ゴミ箱に投げ捨てる場面も見られている。」(同引用)

実態は次のとおり。

・現地AKB48ファンのごく一部は、活動家はSNH48ファンで、彼らが自分で国旗を捨てたと主張。
・SNH48ファンのごく一部は、活動家は自分たちではなく、AKB48ファンが国旗を奪い取って捨てたと主張。
・現地AKB48ファン、SNH48ファンの大部分は「バカな騒ぎはやめろ、いい迷惑」という感想。

その証拠に中国ツイッター(新浪微博)の過去24時間のトレンドの画面コピーをこの記事の最後に貼っておく。

この騒ぎは中国全体としては何の話題にもなっていない。

中国全土の若年のごく一部でしかないAKB48ファン・SNH48ファンの、さらに一部の人たちの単なる内輪もめ。

もともとAKB48ファン、SNH48グループファンは、中国全体から見ると超マイナーな部分集合にすぎない。その小さな小さな仲間うちでお互い罵り合っているというまったく下らない状況。

なお「#AKB48中国不欢迎你#」AKB48を中国は歓迎しない」タグでツイートしているユーザをざっと調べてみたが、このタグトピックを作成したアカウント以外に、SNH48ファンを見つけられなかった。

中国ツイッター(新浪微博)はアカウント名にマウスを当てるだけで基本情報が表示され、自分と同じアカウントをフォローしていると「共同関注」と表示される。

筆者はSNH48グループメンバー200名超を全員フォローしているため、「共同関注」が出てくればそのアカウントはSNH48ファンだとすぐに分かる。

たとえばこんな感じ。

筆者とこのアカウントの「共同関注」は歌手ステファニー・スン(孙燕姿)と、女性タレント小S(徐熙娣)だけ。つまりこの「AKB48を中国は歓迎しない」ツイートをしている人はSNH48ファンではない。

しかも、このタグトピックが作られたのは2016/12/07 11:29で2016/12/10(日)より前。今回の騒ぎとは無関係だ。

今回の騒ぎの後に「AKB48を中国は歓迎しない」タグでツイートしている各アカウントは、過去のツイート数がほぼ2ケタで、どれも休眠アカウント。

こういう反日騒ぎがあったとき、便乗して適当に反日ツイートをする別アカウントばかりと思われる。

仮に中国政府からアルバイト料をもらって反日ツイートをする、いわゆる「五毛党」が動員されたら、この程度のツイート数では済まない。

しかもAKB48(China)の上海本社は国有企業で、自分の子会社の重要な記者発表会をつぶすような「五毛党」動員をするはずがない。

ただし、ここからが問題だ。

今後もAKB48メンバーが来日して活動するたびに、この種の騒ぎが起こる可能性は十分にある。

その騒ぎを非難する中国人は間違いなくあちらで「漢奸(売国奴)」扱いされるため、AKB48(China)の上海本社「中財金控文化有限公司」は表立って「反日活動家」の騒ぎを抑えることはできない。

その最悪の結果は、現地AKB48ファンはマイナーな存在なので、逆に現地で非難されずに済んでいるが、この種の小さな騒ぎの積み重ねで少しずつ本格的に「売国奴」あつかいされていくことだ。

SNH48グループはAKSとの決裂後、すでに「中国大型女性アイドルグループ」を全面に押し出している。

たとえ自分たちのファンが今回のような「反日」活動をしても中国国内的には「愛国無罪」の理屈が通って、少なくとも致命傷にはならずにすむ。

SNH48グループは、日本系アイドルグループという理由で中国国内の非難を受けないようにするため、地味な努力をしていることは、このブログでも以前から触れている。

冒頭にご紹介したSNH48運営制作の『私と私の祖国』オリジナルMVもその一つ。これは今年の国慶節(中国の建国記念日)のため。

昨年2015年の国慶節には、SNH48メンバーが下図のような写真をツイートした。

中国の民間企業と契約しているタレントである彼女たちが、国慶節にこの程度の愛国心を示すのは普通で、「反日活動家」でも何でもない。

ただ芸能活動をする企業として、SNH48運営会社は国慶節にこうしたクリエイティブを出さざるをえないし、いわゆる「南京大虐殺記念日(南京大屠杀纪念日)」(12月13日)には「国辱の日を忘れるな(勿忘国耻)」というツイートをリツイートせざるを得ない。

さもないと中国国内で芸能活動を続けられなくなるからだ。

ましてやAKB48(China)の上海本社「中財金控文化有限公司」は国有投資会社「国投中联投资管理」が投資する企業だ。

「国投中联投资管理」の経営陣は、AKB48系グループが何物かまだ分かっておらず、無害な日中友好文化事業の一環くらいにしか思っていない可能性がある。

AKB48(China)の上海本社は、国慶節に毛沢東像に敬礼する写真をツイートし、南京大虐殺の日に「国辱の日を忘れるな」ツイートをリツイートする、そのていどの愛国心の表現は絶対に避けられない。

それさえ出来ず、イベントを打つたびに何か騒ぎが起こったり、ネットでちょっとした炎上が起こったりする、そんな企業に国有投資会社が1億2000万人民元の投資を続けてくれるだろうか。

そして「反中嫌韓」率が高い日本のAKB48グループファンのみなさんは、AKSが中国に展開する姉妹グループ、BJN48だかGZH48だかが「南京大虐殺」『私と私の祖国』を歌うことを許せるだろうか。

そういう中国姉妹グループの公演に、AKB48のトップメンバーがたびたび訪れることを許せるだろうか。

SNH48運営会社は民間企業として、中国で「売国奴」の非難を受けずに、いかに48系アイドルグループを展開するか、ギリギリのところでいろんな工夫をしている。

それもこれも、SNH48運営がいまや完全に「本土化」「中国化」しているからこそできることだ。

それがAKSに出来るか?

まず明後日の12月13日南京大虐殺の日に中国ツイッター(新浪微博)アカウント@AKB48-CHINAは何をツイートするか。

来年の9月18日(柳条湖事件)や国慶節に、AKSは何ができるか。

万が一、AKSが日本政府と共同で中国当局にAKB48の活動を打診済みで、AKSが中国で運営する姉妹グループの中国人メンバーが、何があっても現地で「売国奴」されない合意ができているのだとすれば、筆者はこの記事を全面的な間違いだと認めざるをないけれど。

【資料一覧】

問題の2016/12/10(土)AKB48ファンミーティング会場外の抗議活動の様子。

中国ツイッター(新浪微博)の「AKB48を中国は歓迎しない」タグツイート画面キャプチャ縦長図はこちら

2016/12/11(日)18:00時点の過去24時間のタグのトレンド。

↓新海誠の『君の名は。』が堂々第6位!(第7位のアイコンも『名探偵コナン』だし)

↓第110位にやっと航空自衛隊「妨害弾」に対する中国国防省の抗議ニュース。

↓第121位に「AKB48に会いたい」のタグ。

↓第190位にSNH48二期生チームNIIメンバー・カチューシャ(李藝彤)12月23日誕生日おめでとうのタグ。

以上のように、タグのトレンドランキングをどこまで降りても「AKB48を中国は歓迎しない」タグは見つからず、まったく中国では話題になっていないことがわかる。