広州GNZ48一期生(SNH48七期生相当)チームZルイツ(龍亦瑞)の中国ツイッター(新浪微博)のツイートがふと目にとまったのでご紹介。
彼女がGNZ48一期生オーディションを受けたときのエピソード。
最初オーディションに参加するとき、ずっと応募しようか悩んで、書類選考の締め切り二時間前にやっと書類を送信したら、幸運にも、通った。
二次選考に参加した時は超緊張して、『眉間雪』を歌うときものすごく震えてダメで、『MASAYUME CHASING』を踊ったら三小節で止められた。
(訳注:『眉間雪』はオンラインゲーム『剣網三』の主題歌で、原曲は香港の女性歌手・吳雨霏(ウー・ユーフェイ)『生命樹』。『MASAYUME CHASING』はBoAの2014年のシングル)
合格者名簿が読み上げられたとき、最後の最後で名前を呼ばれて、幸運にも、通った。
最終選考のとき学割区間外の電車の切符を間違って買ってしまって、代わりに立ち席を買おうと思ったけれど持ち合わせのお金が足りなくて、切符売り場でめちゃくちゃ泣いてたら、親切な女の子が代わりにお金を払ってくれて、やっとのことで上海に行けた。
(訳注:下に切符の画像があるが、広州~上海まで高速鉄道ではなく普通の列車で行くと20時間以上。しかも立ち席で、2016/07/07の暑い車中、地べたに座ったまま20時間以上かけて上海に来たことになる。広州~上海南駅の立ち席は201人民元、約3,300円。その切符も買えない現金の持ち合わせで、一人で上海に来たわけだ)
最終選考の結果が読み上げられる前、部屋から呼び出されて、本人より写真のほうが美人だと言われた。でも幸運にも、やっぱり通った。お披露目のとき意外にも注目されて、ずっと自分の外見にあまり自信がなかったから、実は身に余ることだと思った。
ずっと今までやってきて、ダンスの基礎のおかげでポジションをもらった以外は、全部ちょっとしたラッキーのおかげ。でも運っていうのは雲をつかむようなものでしかないから、ちょっとしたラッキーで生きて行きたくはない。
入団前は全然アイドルのファンじゃなくて、このグループのこともあまり分かってなくて、入団した最初の思いはただ舞台で輝きたいということだけ。でも今は私が引き受けている視線が、私をもっと前へ、もっと高く進めと突き動かしている。
年越し公演のとき、私は新年の願いは自分がいろんな方面でもっと優秀になることだって言ったけど、実は願いとは言えなくて、もう引き受けていること、必ずやり遂げなきゃいけないこと。
私のファンは多くないけど、一人ひとりが私のパワーになっている。今まで誰に対しても塩対応なんてしたくないのは、一人ひとりが私にとって大切だから。もっと強くなってみんなも口に出して自信を持って言えるようになりたい。みんなと知り合ってまだ時間はそんなに長くないけど、私は信じてる、成し遂げる時間はまだ十分あるって。
彼女のフォロワーはまだ15,000ユーザくらいだけれど、このツイートには400もコメントが付いている。
オーディションでオンラインゲームの歌を歌い、BoAのダンスを踊ったので、たしかに入団前は48系グループのことをあまり知らなかったのだろう。それでも、ただ舞台の上で輝きたいという夢のために、広州から電車で20時間以上かけて上海の最終選考に参加する。
そしてその必死さに切符売り場で泣きじゃくっている彼女に、切符のお金を出してくれる若い女性がいる。そういう彼女を他人じゃないと思える、通りすがりの人がいる。
ここでいきなり社会学の話になるけれど、この「困っている人がいたら他人事とは思えない」というソーシャル・キャピタルが、まだ広州のような大都市にさえ残っている。それが日本との大きな違いだ。
もちろん中国にも人を騙す悪人は山ほどいるだろうが、十代の女の子が中国版Uber(滴滴)を使っても、それほど危険な目に遭うこともなく(最近広州GNZ48チームGのキツネ(高源婧)がぼったくられたようだけれど(笑))、まだ「おたがい他人ではない」という共同体感覚が残っている。
当然この濃密な共同体感覚のベースは、中国語という言語の、簡潔すぎる文法と、それに反して深すぎる含意だ。
それがSNH48系グループの各メンバーの応援会の濃密な連帯感や、悪い面としては、応援会どうしの対立、運営会社の失敗に対する激しい非難のベースになっているんだろうと思う。
この共同体感覚は、日本の都市社会とは明らかに違う。
特定の人間関係の範囲内で、かなり強力な紐帯や共同体感覚があることを、肌で分かっていないと、SNH48に限らず中国でいろんな組織の運営をするのはきっとかなり難しいんだと思う。
AKB48運営が最初の中国進出で、まさにこの点で躓いているということに気づいているんだろうか。
中国でやり直すなら、まずやるべきことは国営企業と権利や金銭的な契約だけの関係を形式的に結んで、粛々と事業を進めることではないだろう。
ルイツ(龍亦瑞)のような若者の夢にかける情熱を、20時間以上かけて立ち席で上海まで最終選考にやって来るような情熱を、「中国語で」汲み取って自分たちの共同体にしっかり引き入れること。
それをメンバー一人ひとりに対しても、組織化されたファンに対してもできるかどうかが鍵になる。
現地ファンはたぶん、自分たちが日本社会よりもはるかに分厚い、そうしたソーシャル・キャピタルの上にSNH48グループやファンのコミュニティーが形成されていることに、かなり無自覚だ。
彼らは自国の分厚い社会的資源に無自覚なまま、日本のアイドルグループの運営を理想化する傾向がある。
上海の某Schoolという48風アイドルグループなどは、日本の組織運営方式を盲目的に理想化してコピーしている点で、日本人から見ると滑稽でさえある。
日本の芸能界は日本の通常の産業界と異なり、少数の大手メディアと少数の大手芸能事務所による寡占体制であり、白昼堂々の談合である。有名プロデューサが売り出すタレントは、最初からものすごく高い下駄を履かされている。
そこにアイドルグループ運営の日中共通の理想形を見るなんて、バカじゃないかと思う。日本の芸能界の寡占体制・談合体質の上に初めて成立するAKB48の運営を、中国でも通用する理想形として、できるだけ忠実に反復すべきという考え方はバカげている。
ルイツ(龍亦瑞)のツイートだけで、いちいちこういう下らないことを考えてしまう筆者であった。
でもこのルイツ(龍亦瑞)のツイート、単純に泣けますよね。