SNH48が中国版『マリ・クレール』に登場、長文のSNH48批評を日本語試訳

SNH48メンバーが中国版女性ファッション誌『マリ・クレール』に登場。中国では「嘉人」という名前。

ちなみに『マリ・クレール』はフランスの雑誌。(フランス語専攻だったので学生のときはよく読んでました)

読み物は硬派なので、育成系アイドルとしてのSNH48について、非常に詳しい文章が添えられている。さすが『マリ・クレール』

↓左は二期生テテちゃん(黃婷婷)、右はキキ(許佳琪)

↓左から、二期生シャオスー(林思意)、カチューシャ(李藝彤)、テテちゃん(黃婷婷)、一期生キキ(許佳琪)、二期生ユーミー(趙粵)

文章の部分を日本語試訳しておく。

一期生SAVOKI(趙嘉敏)の退団に運営会社が実は苦慮していることや、三期生ドゥードゥー(陳怡馨)の退団の件についても書かれてある。さすが『マリ・クレール』。

失顔症を引き起こすといつもからかわれる少女グループ、口パクもあり、音も外す、ポジションにも空きがあり、顔面偏差値が平凡という疑いまであるが、”アイドル養成”の実写版ゲームが億単位の現金を引きつけている。

”バタン”と、丸テーブルに座って休んでいた22歳のメンバー林思意が突然地面にどっさりと倒れた。40キロしかない華奢な体とハイヒールで地面に倒れた。

スタッフがすぐに助けに来て、立ち上がった後、痛みに顔をしかめ、裸足で冷たい地面に立ち、逆に人を慰めるように、「大丈夫、徹夜しただけ、夜通しリハで」。

彼女が言っているのは、上海東方衛星テレビの2017年年越し特番のリハのことだ。

実際、SNH48は大衆に注目されるようになると、「四千年に一人の美女」と話題の鞠婧禕を除いて、2016年は江蘇衛星テレビ、上海東方衛星テレビの年越し特番にも出演、この女性グループは歌唱力をからかわれている。

しかしそのことは彼女たちの人気にまったく影響しない。2017年まであと5日、SNH48の5名のメンバーは約束の時間にかなり遅れて我々の撮影現場、上海の繁華街の中心にある画廊にやって来た。

彼女たちの平均年齢は20歳余り。美しい女子大生を思い起こさせ、驚くような美女とは言えないが、年末の仕事は満杯でコラーゲンたっぷりの顔にも疲労が見える。

トップメンバー、2016年第三回総選挙第一位の鞠婧禕は現れなかった。撮影現場で最も人気の高い第二位の李藝彤、第三位の黃婷婷。前者は長身にくりっとした瞳、おどけた身振りで、とっても活発、そして後者は物静かで言葉少なく、まるで隣の家の女の子のよう。

日本のAKB48の中国姉妹グループとして、上海絲芭文化伝媒(以下絲芭文化と略)は四年をかけて作り出したSNH48を養成系アイドルと称しており、ファンが自らお金を投じているアイドルだ。

絲芭文化CEO陶鶯(タオ・イン)女史はSNH48のビジネスモデルを次のように説明している。

「SNH48は決してCDや、コンサートの収益に頼らず、劇場を中心に、ファンに対する深掘りと半径からなるファン経済という環境の上に成立しています」

年度総選挙ひとつを取ってみても、2016年SNH48の総選挙の上位48名の票数は176万票。票の平均コストが30人民元、絲芭文化の売上はそれだけで5000万人民元(約8億円)。第二回とくらべて252.47%の伸び。

さらに、撮影に参加した李藝彤、黃婷婷のそれぞれの票数は169971.4票、130258.3票。2人だけで絲芭文化に900万人民元(約1億4000万円)の売上をもたらした。

彼女たちはどんな魔力で、ファンの大金を勝ち得ているのか?

2016年12月28日午前、上海虹口区ハルピン通りと嘉興路の交差点にあり、周囲は古い住宅街、無数の電線が目の前の景色をさえぎり、物干し竿が家の外に突き出て、色とりどりの下着や靴下が干してある。

そんな場所に、小さな建物があり、”星夢劇院”とある。ここがSNH48公演の劇場の場所だ。住宅街とSNH48のスター製造工場の対比は、幻が現れたような感覚がある。

劇場の外はひっそりしており、SNH48のポスターが貼られ、キャッチコピー「中国トップの女性アイドルグループ」。ドアを開けて入ると、黒いスーツを着たスタッフがちょうど条件に合ったファンに電話をしているところだった。

100公演以上を観覧したファンは事前に予約をして2017年1月7日にSNH48リクエストアワー・ベスト50コンサートの後、アイドルと集合写真を撮影するチャンスがある。

養成系アイドルとして、SNH48は一連の運営機構を持っている。毎週7回の劇場公演はファンがアイドルと接触するもっとも重要なチャンス、毎年真夏の総選挙はファン最大のお祭り騒ぎ。

ファンは握手会を通じて、直接会う形式でアイドルとゼロ距離の接触をし、消費を通じて異なる等級のファンクラブ会員になり、より多くの恩恵を受ける。

例えば消費額が2万元を超えると「ゴールド会員」となり、劇場公演チケットの割引優先購入権や、アイドルに自分の誕生日を祝福してもらえる。

7時半の開場前、劇場外には20歳前後の男性ファンでいっぱいになり、女性ファンは数えるほど。入場口は整然としている。300人収容の劇場は簡素なミニシアターのように見え、緑色の鉄柵が舞台に最も近い立ち見席を囲っている。1~5列目の青い椅子はVIP席、6~10列目の赤い席は普通席。

その晩は人気最高のチームNIIの公演で、空席なし。場内全体が暗転し、スティックライトが光り出し、ファンはどっと沸く。最初は三人のダンス(訳注:前座曲のこと)、メンバーは日本式の二次元少女の衣装で、雰囲気は爆発。

次の15人の仮面舞踏も、同じような少女っぽいミニスカートで、ポジションに空きがあるし、口パクが疑われるが、ファン全体の掛け声は歌声を上回り、全員の気分が一気に高まる。

ファンが心の底から喜んで応援しているのは、48系の日本のプロデューサ秋元康の「原石」という理念を踏襲して、アイドルとファンの距離の障壁を取り去ったからだ。少女アイドルグループに選抜されたメンバーは全員専門的なパフォーマンスのバックグラウンドがない素人で、そこからキラキラ輝くスターを作り出すのだ。

メンバーたちは毎週小劇場で二時間の公演を行い、ファンとアイドルが同じ空間を共有し、家族のような感情の絆で結ばれる。

あるファンは趙粵にこう言って励まされたという。「私が卒業したら上海に出てこようかためらってるって、握手会の時に彼女の話したら、彼女は私だって出てきたんだから、あなたも試してみたら?っって」

パフォーマンスの間のトークショーがMCコーナーで、メンバーは舞台でグループ漫才のように話し、ファンはときどき大爆笑する。このときアイドルの個性が容易に見て取れる。

ファンが「愛してる」と叫ぶと「出て行け」と言い返すのは非典型的なアイドル趙粵。また李藝彤は、タクシーの運転手がクリスマスイブの夜に仕事に出かけた彼女に意味深な話をしたというネタ。

意外なのはメンバーの張雨鑫が舞台のメンバーと一人画風が食い違っていて、ファンに「不用品アイドル」と呼ばれていること。彼女の滑稽な話もファンの喝采を得ていた。

二時間の公演を見てみると、最も心を動かされるのは決して美少女の舞台上でのパフォーマンスではなく、一種の「みんなでいっしょに」という集団の盛り上がりだ。こういう感情に感染することで、都市で孤独な生活を送る青年が大きな慰めを得ていることは疑いない。

少女の青春、活力、夢が、ファンにとって巨大な魅力となり、これも絲芭文化がSNH48メンバーを選抜するときの基準の一つだ。

少女たちはネット募集を経て、人手でふるいにかけられてオーディションに進む。さらに何度も募集の関門を抜けた後入団する。若くて可愛いことが第一条件だが、SNH48と養成系アイドル文化に一定の理解があること、パフォーマンスに一定の感染力があること、家族の同意があること、心理的な素質が大きいことも条件に加わる。

陶鶯にとって、「プラスのエネルギー、青春は、私たちのグループに対する最初の定義です。プラスのエネルギーがなく、夢もなければ、どうして維持できますか?

私たちは養成系アイドルで、三ヶ月後には、必ずデビューします。一人きりでもあり、16人のうちの一人でもあります(16人は1グループの人数)。ファンは必ず比較します。ウェイボー(訳注:中国ツイッターの新浪微博のこと)でアドバイスをして来るので、それを受け入れる必要があります」

失顔症、この少女たちと対面すると誰もが口に出す言葉だ。どうすれば夢を売るメンバーたちの中で突出することができるか?SNH48のメンバー一人ひとりが自分独自のファンを虜にする武器を持っている。

李藝彤はいわゆるSNH48の女性版「薛之謙」、ネタ(段子)でファンを囲い込む。以前チームNIIの補欠だった彼女は舞台に上がるチャンスがほぼゼロだった。

そこで知恵を働かせ、ネットスラングを自由に使いこなして長いツイートを書いた。それが大好評となり、長文ツイートネタの名手という人物設定で、トークショーのMCコーナーでも頭角を現した。最終的に、彼女は2016年総選挙で第二位を獲得。

勤勉で、感情を出さず、控えめな黃婷婷は最初、李藝彤に押されて人気が高まった。あるファンから見ると、黃婷婷は、たとえ舞台の隅で水かきをしていても(サボるという意味)、公演の高い出席率で幅広いファンの支持を得た。

第二回総選挙のとき、黃婷婷はじっさい第一回の圏外から第四位へと「逆襲」を果たした。好成績を目にして、彼女は椅子の上で緊張のあまり過呼吸になり、舞台を降りて救急処置を受けてから舞台に上がって感謝の言葉を延べた。

今年、彼女は冷静に舞台に立ち、「ライトをもうちょっと明るくして、私にしっかり当ててくれますか。私のファンにはっきり見てもらいたいんです。私がここに自信を持って、キラキラ輝いて、喜んで立っている姿を」

そして趙粵はダンスと男装のコスプレが自分の武器だとはっきり分かっている。彼女はいつもダンスの動画を制作してファンを喜ばせ、割れた腹筋で「女の子をとりこにしている」。

それに、彼女はファンとの距離を近づけることも分かっている。「握手会のとき、私は今日ご飯食べた?手足が冷えるときには、干しナツメを食べるんだよって言うんです。ときどき悪口を言い合うこともあります。

ファンが、今日は目が小さいねって言うと、私はあなたの目も小さすぎてどこにあるの?って言い返します。おたがいツッコミ合って、それで親しくなるんです」

「シャオスー」という愛称の林思意の「売り」は気持ちがまっすぐで、自虐ネタを好み、ファンは「彼女の中には優しい男が住んでいる」と評する。『極品家丁』に出演したとき、ファンはシャオスーの誕生日に撮影現場を訪れた。

「ケーキやプレゼントを置いて、こっそり私の様子を見に来てくれたんです。私たちは規則でファンとプライベートでツーショットを撮ってはいけません。遠くから駆けつけたファンを思って、スタッフと交渉しましたが、説得するのは難しくて、結局ファンのみんなはおとなしく、帰った後でした」

片親の家庭出身の許佳琪は2016年SNH48第三回総選挙で第11位を獲得、競争がさらに激化する状況下で、2015年より9位ランクアップした。彼女のウェイボーのトップにはファンが自分のために投票してくれた感激のツイートが固定されている。

彼女はファンをとりこむ秘訣をこうまとめてくれた。「MCコーナーで、もしファンがどの男性スターと共演したいか質問したら、ドラえもんとか答えるのがいいですね。誰もが好きな男性スターの名前を答えたら、ファンはかんたんに傷ついてしまいます」

伝統的なアイドルと違って、SNH48は厳格な「会いにいけるアイドル」という運営方式を守っている。アイドルを高々と神秘的に持ち上げるのではなく、まるでいっしょに育った幼なじみや、久しぶりに会う友だちや、隣のクラスの同級生のようだ。

毎年総選挙やリクエストアワーの後の「大型握手会」は、日本中国ともまったく同じ方式で行われる。このような大型握手会は毎年三回行われ、通常2日間続けて行われる(一日は握手会、一日はツーショットとサイン会)。

それぞれ六時間、メンバーは統一された衣装を着て、にっこりと笑顔で、ファンと立って握手をし、あいさつをし、ハイタッチし、ツーショットを撮影する。

ファンはEPを購入した時に付いて来る握手券で入場し、握手券一枚で10秒間握手できる。一人あたり一回最大で10枚まで握手券を使える。

握手を秒単位で計算しても、やはりファンの熱意には抵抗できないようだ。

「今は列に並ぶのも大変です。いちばん長い列は七、八時間でやっと自分の番。会ったときには、みんな感激して、泣き出したり、怖がったり、緊張で何も話せない人もいます。

そういうとき私は自分から話しかけます。初めて来たの?とか、どこから来たの?とか、今日は列に並んでお疲れ様でしたとか……」黃婷婷はそう話した。

握手会ではスタッフが横で時間を計っている。「時間が限られているのに手を放さなかったらどうするの?」「大多数のファンは礼儀正しいですが、もし手を放さなければ、スタッフが無理やり連れて行きます」。アイドルにとっては、同じように禁止事項がある。

彼女たちは一本の木になってはいけない。全体で森のように冷淡でなければいけない。公平の原則として、会社はメンバーがプライベートでファンと連絡を取ることをはっきりと禁止している。ウェイボーや掲示板などのSNSでファンに返答したりコメントをつけたりすることも禁止されている。

ファンがアイドルと近距離の接近をする経路は運営の許可を得ている必要がある。公演、握手会、ツーショット会、サイン会など、決してプライベートで会ってはいけない。アイドルと親密な関係を得るために、ファンは自分でお金を出して、さまざまなランクがあるチケットを購入する。

違反者は大きな代償を払うことになる。吳哲晗は第一回総選挙のトップだが、ファンとプライベートに連絡をとっていたことが明らかになり、2015年四期生に降格された。その年の第二回総選挙は圏内に入れず(32位以下)、2016年総選挙で第23位に返り咲いた。三期生の李璇も同様にファンと私的に連絡をとり、連続二回処罰を受けた後、最後には退団を余儀なくされた。

インターネットとファン経済のコンセプトを熟知している絲芭文化は、アイドル養成のゲームのルールを中国で極限まで発揮するだろう。ファンはお金をさまざまな応援チケットに交換し、それによってメンバーを弱小な立場から強大な地位へ押し上げ、幼いアイドルから成熟したアイドルへ育てる。ファンも実写版の養成ゲームから抜け出せなくなるのだ。

SNH48にとって、毎年の一大イベントは夏に行われる総選挙だ。総選挙のランキングがそのままメンバーの次の一年のチャンスにつながる。

誰がCDを出せるか、映像作品に出演できるか、バラエティー番組に出演できるか、グッズを発売できるか、すべてはファンの票数の支持にかかっている。

総選挙は表面上アイドルどうしの比較のように見えるが、実はファンの間の財力の比較である。

SNH48第三回総選挙で、ファンたちは公式オンラインショップを通じて総選挙EPを購入し、投票を行う。EP一枚に投票券1枚、投票ページで好きなメンバーに1票を投じることができる。

標準版EPの価格は78人民元、デジタルEPは50人民元。あるいは応援版1680元を購入すると、48票付属するので、1票あたり35人民元。

陶鶯にとっては「この一年で最大のイベントのために、私たちは一年で最大の作品を市場に投入します。メンバーは投票を呼びかけるオンライン生放送を自分で行います。

総選挙期間は40日前後で、公式に速報、中間発表、最終発表を行います。ファンも自分のアイドルのために応援会を結成して、総選挙期間中はプロモーション企画を運営し、千倍以上の宣伝効果に相当します」

ファンの応援会は半ば公式のような運営団体である。黃婷婷応援会を管轄するファンは金融業に勤務する男性で、黃婷婷を空港で見送ってから戻ってきたばかりだ。

別のファンは彼について印象深いのは、「毎回空港で黃婷婷を見送っています。黃婷婷の上海でのイベントのとき、ファンを組織して写真撮影をとりまとめます。みんな彼のことを虹橋一兄と呼んでいます」。

彼は見た目は穏やかで理性的で、非常に運営能力がある。「それぞれの応援会は、アイドルのマネジメント会社のようなものだと思っています。結局運営会社はこんな大勢のメンバー全員の面倒を見ることはできません。それぞれのメンバーの応援会がいて初めて、すべてのリソースを動員してメンバーの発展を助けることができるんです」

ファンはあらゆるアイデアを尽くしてアイドルをPRしようとする。一票一票すべてがアイドルの命運にかかわるからだ。

「公演のとき大声でメンバーの名前を呼ぶのが好きなファンもいますし、団体を組織するのが好きなファンもいます。メンバーをPRするために、宣伝活動をするのが好きなファンもいますし、ウェイボーでメンバーをプロモーションするのが好きなファンもいます」

2015年最終発表が出る前、彼は黃婷婷の票読みをしていた。「悪くないと思っていました。でも公の場ではみんなにもっと投票するように言いました。金持ちのファンは私のツイートを見てWeChat(微信)で、もう1000票投票したよと言ってきました。

最終的に彼が「黃婷婷推し」をとりまとめ、2015年総選挙で黃婷婷をランク外から第四位に押し上げた。彼はそのときがファンになって以来いちばん幸福なときだったと言う。

張語格の90年代生まれのファンは、2016年総選挙でアイドルのために投じた金額を票数に換算すると、張語格の得票数のおよそ1%になる。これは事務員の仕事をしている彼にとって、年収の五割以上だ。

彼はいつも身近な人に張語格を売り込み、数十枚のEPを購入して投票し、投票し終えるとEPを身近な人たちや遠方のファンにプレゼントする。

ある趙粵のファンはファンになって三年で、2015年総選挙が彼女が最も力を入れた年だった。

もとは100票を投票するつもりだったが、後半になってあと一歩だとみんなが言っているのを聞き、最終的には800票余りを投票した。お年玉や大学在学中のアルバイト収入も含めて、ほぼ彼女の年収に等しい金額だ。

しかし趙粵は2015年と2016年の総選挙で第9位の順位のままだった。彼女はそれでも「価値があった」と感じている。

このようにお金をかけて、アイドルの背後にいる会社のために働いている感覚はないのだろうか?

「そういう考え方もありますが、もし彼女(訳注:趙粵)が進歩しているのを見たら、やっぱり……」「バカ」それ以上彼女は話さなかった。

しかし彼女は率直に言った。「そういう気持ちはあります。でもこのお金を出さなければ、私のアイドルは順位を得られず、さらに良くなることができません。現場の雰囲気は強烈で、競争するにはあれこれ考えていられません。競争心が消費を促すんです」

すでに半分無給のスタッフのような立場でありながら、さらにアイドルの「ファン」をするためにお金を使う先ほどの黃婷婷ファンは、アイドルの「ファン」をするコストをどのように考えているのだろうか?

彼は笑って言った。「何をするにしてもお金は必要です。ゲームをするのも同じでしょ?楽しければそれでいいんです」

絲芭文化の事務所は星夢劇院から一筋離れた小さなビルにある。2階の廊下はキャビネットや透明なケースが整然と設置され、その一つ一つにマジックでメンバーの名前が書かれている。

ドアを開くと、大きな部屋はまるで縫製工場のようだ。これがSNH48の衣装工場である。少女力爆発の衣装は、多くがここで作られる。光り輝くアイドルの生産工程を垣間見ると、このように繊細で、細々した作業の部分もあり、しばらくあっけにとられてしまう。

もう一つのドアを開くと、大勢のスタッフがいるオフィスで、普通の事務所と変わらない。SNH48のメンバー全員が写った新年のポスターがデスクの上で目を引く。

その向かいに座っているCEOの陶鶯は薄い化粧をしており、2016年の総選挙でメンバーの歌唱力に疑いを持たれたことを質問されると、耳の後ろへ髪をかきあげながら、意外だという表情をした。

「そう?そうなの?」彼女はインターネットの運営会社出身で、絲芭文化の設立者である王子傑とともにSNH48を設立した。正直に言うと最初は非常に困難で、劇場もなく、会社と一期生は前途がどうなるか分からなかったという。

四年を経た後、絲芭文化は前後してレジェンド・キャピタルと創新工場から億クラスのシリーズB投資を受け、また黎瑞剛率いる華人文化の出資を得た。傘下にインキュベートしている絲芭影業(Studio48)は多くのネット小説の映像化プロジェクトを得ている。

昨年2016年は、大きな売上を達成し、劇場外の仕事でも多くの収益を得て、2017年は「全国三大衛星テレビの年越し特番に、約80人のメンバーを送り込みました」と語った。

「SNH48で最初に村から出た」と言われる鞠婧禕は多くの人気ネット小説の映像化ドラマ作品に出演し、人気急上昇のエンタメ業界の若手女性俳優となった。

鞠婧禕について、絲芭文化は専属のマネジメントチームを作り、自社のスターマネジメント部門を結成した。それによってメンバーを村の中のアイドルから人気スターへと変身させるためだ。

「SNH48は全国どこに行ってもライバルがいません。ライバルは自分たち自身です」とCEO陶鶯は言う。いまSNH48グループは北京、広州、瀋陽にあり、メンバーは約150人、スタッフは300人。

2017年1月初め、絲芭文化は進化系青春男性アイドルグループN2Mの結成を発表、正式にメンバー募集計画を開始し、ファン層を野心的に拡大しつつある。

ここまでは順調に見えるが、アイドルは流れ作業の商品ではない。大多数が20歳に満たない大多数のメンバーは、普段は上海宝山区の生活センターに住んでいる。絲芭文化は地元上海の中学高校と提携して、メンバーが学業をおろそかにせず仕事を兼務できるようにしている。

彼女たちの心理的プレッシャーも注目を集め、毎年総選挙の期間は、メンバーたちは外界の巨大なプレッシャーを受けている。第三回総選挙ではすでに専門の心理カウンセラーがいたが、三期生の陳怡馨は最近重度のうつ症状で退団した。

本当の意味で焦りにつながるのは、人気が二極分化していることと上昇する余地が限られていることだ。2016年総選挙の上位三名は2015年と変わりない。

2015年に総選挙トップだった趙嘉敏は2016年総選挙に参加せず、2016年の上位三名は2015年の第二位から第四位で、アイドルの逆襲はますます難しくなっている。

CEO陶鶯は人気の二極分化は自然な選択だと認めている。「グループの運営には必ずこの種の分化が現れます。私たちのイメージ作りもクラス別に分けています。最終的にSNH48はピラミッド型になります。第一線のスタークラスのメンバーがいて、劇場だけでパフォーマンスを行うメンバーもいます」

ただし先ほどの趙粵のファンから見ると、ファンの絶対的な権力によって、ファンとアイドルが会社の権力の板挟みになってしまっているようだ。

「アイドルが少し何か言うと、ファンはアイドルに何があったのか推測し始めます。ファンの中には一途なファンもいて、アイドルが何をしようと正しい、私のアイドルを悲しませるのは、みんなが間違っているからだと言う人もいます」

CEOの陶鶯はファンが絶対的な発言権を持っているとは思っていない。「運営を行っているのはやはり会社の運営です。実は私たちの最終目標はファンと同じで、アイドルをより良くすることです」

「でも趙嘉敏は2016年の総選挙に参加しませんでした。どうお考えですか?」

陶鶯は表情を曇らせて答えた。「その話はしません」

趙嘉敏は2015年の総選挙でトップになり、2016年は中央戯劇学院の入試のため、学業を理由に公演と2016年の総選挙に参加せず、SNH48の名前を冠したツイートを2016年6月14日で停止、7月22日に個人のアカウント「趙嘉敏兒」でツイートを開始した。人気は決して衰えておらず、毎回のツイートの「いいね」は軽く一万を超える。

今のところ趙嘉敏の八年間の契約はまだ四年残っており、絲芭文化の処分方式は給与を停止するだけにとどまっている。内情に詳しい人物によれば「四年後中央戯劇学院を卒業するとき、契約がちょうど切れる」とのこと。

しかしSNH48はまだ公然と契約違反をしたメンバーはいない。彼女たちは入団時に八年間の契約にサインし、違約金は500万人民元に達する。

韓国の人気グループメンバーが契約違反で退団したことが、明らかに前車の轍になっている。CEOの陶鶯はその点は心配していないと語る。

「SNH48グループでは、それぞれのファンが応援するメンバーは違います。いったん外で仕事をしても、グループ全体のファンが応援してくれます。SNH48の代表だからです」

彼女の答えはあまり説得力がないように見える。2016年総選挙の上位三名の票数は上位48名の票数の3割以上、人気のマタイ効果(訳注:二極分化)は更に一歩はっきりしてきた。

ましてや、ファンは今までもアイドルだけに忠実であって、会社に忠実なのではない。趙嘉敏の件がこのことをよく説明している。

メンバーの収入については、絲芭文化でもメンバーたちの間でも触れてはいけないことになっている。驚いたことにチームNII公演のMCコーナーでは、テーマがずっと「貧乏」にまつわるものだった。

例えば銀行口座の残高が50元しかないとか、メンバーに3000元の借りがあるとか。これが実生活なのかテーマの必要性からなのか見分けがつかない。

「いくら儲けてるの?」
「そんなに。部屋を改装するのも大変だよ」
「契約するとき八年間って知ってた?」
「契約したとき、頭がぼーっとしてて、八年かどうか気にしなかった。八年ねぇ、考えてみたら今も恋愛しちゃいけないし」

突然ミンクのコートを着た画廊の支配人風の男がドアを開けて入ってきた。五人のメンバーは驚いて顔を見合わせ、驚きと羨ましさを隠せない。

支配人風の男が出ていくと、彼女たちは顔を見合わせて笑った。ひとしきり大爆笑になったが、手に持っていたミルクティーを置き、新しく着替えた服装を整え、鏡に向かって化粧直しをし始めた。そして最後ににっこりと笑顔でレンズの前に立った。

以上。記事の締めくくりの部分の描写がスタイリッシュ。