上海SNH48チームX新公演『FATE X号』初日、チームの個性を確立

上海SNH48チームXとして2つめの全曲オリジナル公演『命運的X号(運命のX号)』が2017/12/15(金)初日を迎えた。

まず全体の構成として、航海で冒険に出かけるというテーマ性が強く、統一感があるので最初から最後までスムーズに流れる。

かつ、楽曲のスタイルはチームXの1つめの全曲オリジナル公演『夢想的旗幟(ドリームフラッグ)』と同じく、J-POPスタイルがメインで、極端なロック、R&B、K-POP、ジャズがないので、現地ファンの好みにはピッタリだったようだ。

もともと48系やJ-POPが好きでSNH48グループのファンになった人が多いわけで、こういう音楽性の公演の評価が高くなるのは当然。

そして衣装が素晴らしい。衣装のクオリティの高さといえば、今までは姉妹グループ広州GNZ48の独壇場だったが、今回の公演で上海SNH48の衣装もGNZ48と同レベルになった。衣装が最大の進歩かもしれない。

今までのように16人曲で全員同パターンの衣装とか、ユニット曲でも単なる色違いとか、そういう「手抜き」がなく、どの曲も複数のパターンの衣装、ユニット曲にいたっては一人ずつ異なるパターンの衣装もある。全員が首にシールのタトゥーを付けているのがワンポイント。

全体に保守的なデザインの衣装が多いのも、現地ファンの評価が高い理由かもしれない。たとえばウエストを絞った長めのワンピースで、上半身の「スタイルの良さ」がはっきり出たり、ユニット曲のロリータ・ファッションなど。

舞台装置や小道具も、広州GNZ48を相当意識している。演出も例えば『鋼鉄之翼』などは明らかに広州GNZ48チームGの『双面偶像』のタイトル曲『双面偶像』を意識している。

1曲めの『Star River』では久しぶりに上海SNH48星夢劇院の天井吊り小道具演出が復活。以前はチームSII全曲オリジナル公演『心の旅程』でマイクを吊るしていたが、今回は星が吊るされている。

この天井からの小道具吊りは、北京BEJ48、瀋陽SHY48にはなく、広州GNZ48劇場には存在する設備で、広州GNZ48では『双面偶像』で傘を吊り下げるのに効果的に使われている。

1曲めとアンコール以外の16人曲で舞台後方に、えんじ色の幕を引いたままにしているのも、メンバーの衣装がより映えてとても良い。『Ice Queen』の氷など安っぽい大道具もあるけれど、全体的に素晴らしい。

同じ正統派J-POP路線のチームNII全曲オリジナル公演『以愛之名』で、どうして楽曲や舞台演出、衣装にあれほど手を抜いたのかが、全く理解できないほど、全体としてクオリティの高い公演。チームNIIがちょっとかわいそう。

メンバーのポジションとしては、これまでチームXのエースだったCoCo(邵雪聰)が大きくして一部の曲だけになり、前半のセンターがスイスイ(楊冰怡)、後半のセンターはランラン(宋昕冉)。ランランはソロ曲もあり、ポジションが大きく上がっている。

これは第四回総選挙のチームXメンバーの順位をそのまま反映している。チームXだけを見ると、スイスイ、ランラン、桃子(李釗)、ソクちゃん(汪束)、天草(王曉佳)、フェイフェイ(馮曉菲)、まるこ(楊韞玉)、炭酸(張丹三)、ダートウ(陳琳)の順で、CoCoは圏外だったため。

以下、各曲についてコメント。曲の後の名前は作詞・作曲・編曲の順。

01.『Star River』張鵬鵬 吳依瑄 吳依瑄

SNH48楽曲でおなじみの台湾の音楽制作スタジオ「Light Color Music Studio」吳依瑄さん作曲。

三拍子のケルティック・スタイル。この特徴的な音階はドリアンスケールというらしい。Gから始まって、G(全)A(半)Bb(全)C(全)D(全)E(半)F(全)Gという音階で特徴的なのは。航海をテーマにした公演のオープニングとしては完璧な雰囲気。

02.『指南针』(方位磁石)小7 ASPJ

2曲めはF#メジャー。Aメロ、Bメロが明快で、サビのCメロでAメジャーへ三度転調する典型的なJ-POP構成。イントロのピアノがさわやか。アレンジも明るいブラスセクションがアクセント。非常に気持いい曲。

最初の2曲の衣装はセーラー服風の大きな襟とタイ、紺色のAラインスカートで2パターンある。一部メンバーはベレー帽がアクセント。襟の刺繍はたぶんプリントではなく本物。とても広州GNZ48っぽいデザイン。

途中でメンバーが9人退場して先に衣装替えする演出なので、2曲目から3曲目はそのまま続く。

03.『艾克斯号』(エックス号)小7 鸭毛 SHIMA

パンツスタイルのボーイッシュな衣装に転換。この3曲目、4曲目の衣装は3パターンあるようだ。

EメジャーからBメジャーへ珍しく典型的なドミナントへの五度転調。サビに「Say Hey, We are Team X」とあり、チームXの旗をスイスイが振るので、チーム曲のうちの一曲。チーム曲ということで最後にメンバーが円陣を組む。

04.『命运的X』(運命のX)小7 姜帆 谢维

突然重々しいイントロでマイナーコードのハードロック。バックの液晶スクリーンの映像からすると嵐の海の航海。サビの転調もなし。SNH48のハードロックの公演曲はだいたいサビのメロディーが単純な反復でとても退屈。

間奏と後半の伴奏のハイトーンボイスは、SNH48二期生チュンチュン(袁雨楨)。彼女はチームSII全曲オリジナル公演『第48区』でも同じくハイトーンボイスを聴かせてくれている。

最後に舞台前方から布を引っ張る演出は、波にのまれたという表現らしい。

ここからはユニット曲(16人全員ではなく数人で歌う曲)。

05.『Ice Queen』

ランラン(宋昕冉)初のソロ曲。Dメジャー。転調なし。サビがコーラスで始まるので、口パクをし忘れたのかと一瞬思ってしまった。Dメロのブリッジもあり、サビの最後のリフレインでリズムパターンが変わる。やはり典型的なJ-POPスタイル。いつか生歌で歌ってほしい。

06.『Battle Cry』

この公演はイントロがきれいな音の曲が多いのも、全体的に耳障りが良い理由だと思う。この曲はイントロからポップ・ロックにいきなり雰囲気が変わるけれど。Aマイナーで転調なし。

衣装はアニメかゲームのキャラのコスプレっぽくて、3人とも違うパターン。この公演の曲の多くが、アニメのオープニングやエンディングっぽいという現地ファンのコメントには激しく納得。Dメロなし。

07.『占卜师』(占い師)

これは天草(王曉佳)がハマり過ぎるくらいハマっている曲。ロリータ・ファッションの占い師のキャラ設定は本当に彼女にぴったり。

ネット生放送で公演を観ているファンは、まさかカメラが舞台後方から現れるとは思わなかっただろう。このカメラポジションは初めて。

この曲も全体の色合いは同じで、ロリータ・ファッションスタイルだが、3人とも違うパターンの衣装。そして驚くのはBマイナーの8ビートで転調なし、メロディーラインも1980年代のコテコテの日本のアイドルポップであること。

「元ネタ」を探せばどこかから出てきそうなほど、どこかで聴いたことがあるような曲(笑)。決してけなしているわけではなくて、褒めている。良い曲って大体どこかで聴いたことがある曲なので。

と言いつつ間奏は3拍子で、ツーコーラス目は突然スカビートっぽくになるなど、編曲は何気に手が込んでいる。こういう編曲の手抜きのなさも公演全体のクオリティを引き上げている。

08.『深海之声』(深海の声)

7曲目と8曲目の転換は、間奏の雰囲気に合ったダンスの演出が良い。この曲のイントロと伴奏のハイトーンボイスも二期生チュンチュン(袁雨楨)。

衣装は7曲目同様、やはり色合いは同じで3人ともパターンが違う。

イントロとサビ後のブリッジだけ突然中東風になるが、楽曲自体の音階は中東風ではなく、この曲も1980年代のコテコテのマイナーコードのアイドルポップ。Bマイナーの8ビート、転調なしで、7曲目と全く同じなのはわざとなんだろうか?ただし、この曲は構成上Dメロが入っている。

09.『双生花』(訳注:中国の伝説上の花)

はっきり言ってユニット曲はこの曲で全部持っていかれている感じ。ここまで振り切ってくれると気持ちい。サンバのサビ始まりで、そのまま普通にAメロが始まると思ったら、まさかのRAP。

RAPの後にAメロ、Bメロがあってサビという、実はぜいたくな構成。ワンコーラス終わりで舞台から下りるのも粋な演出。F#メジャーで転調なしだが、サビ前にEメジャーを経由するところが何気に良い。

ツーコーラス目終わりにセリフがあり、しかも衣装の早替えまである。やっぱり48系公演のデュエット曲はここまでギッシリ演出を詰め込んでこそのデュエットだろう。定期公演で早替えは、やはり広州GNZ48チームG『双面偶像』に学んだんだろうか。

10.『最后的曙光』(最後の夜明け)

この曲もアニメのオープニングかエンディングになりそうなポップ・ロック。Eメジャー、Bメロの「パーン・パパン」もコテコテのJ-POP編曲。転調なし、Dメロなし。ここまで有無を言わさずJ-POP路線で来られると、逆に文句が言えなくなる。

ちょっとした小道具だが、マイクスタンドに舵が付いているのと、付いていないのとでは実はかなり違うかも。

11.『钢铁之翼』(鋼の翼)郭德紫毅 OKBOYS OKBOYS

上海SNH48星夢劇院には、広州GNZ48のような可動式液晶スクリーンがないので、こんな演出を考えてみました、的な。AメロがBm、BメロがDと、どちらもワンコードなのが特徴的。転調はないが、Dメロのブリッジがある。

個人的に、この曲には「ピポポピポピ」みたいな洗脳フックがあっても良かったのではないかと思う。

12.『石中花』郭德紫毅 SHIMA SHIMA

突然チャールストン風で、MC後のこのあたりは曲調に変化があって良い。転調なし。Dメロなし。(筆者のコメントでは平行調の転調は転調なし書いている。この曲はC#マイナーから、サビでEメジャーに転調するが、平行調なので転調なし)

この部分の衣装は3パターン。やはり衣装の改善は大きい。

13.『梦与星光的海上』(夢と星の光の海上)甘世佳 ASPJ ASPJ

ここでSNH48グループの秋元康的な位置づけの作詞家・甘世佳さんの作品が登場。楽曲としては、やはりコテコテのJ-POPスタイルのバラード。Fメジャーから、サビでGメジャーと、やや変わった転調だが違和感はない。

ツーコーラス目終わりの間奏はGメジャーで、そのままサビのリフレイン。

ポシェットがワンポイントの衣装。頭のリボン(ヘアバンド)のバリエーションを除くと、2パターン。やはり衣装は手抜きなし。

最後、舞台奥から船の舳先を引っ張り出す演出は意味がわからなかった。舳先が向こうを向いているので、ぱっと見なにをやっているのか分からない。

曲の最後に、一つ前の全曲オリジナル公演『夢想的旗幟(ドリームフラッグ)』の『未来寄語』の、炭酸(張丹三)のアカペラがさらっと入ってくるところは、ちょっと泣ける。

14.『穿过水晶的光芒』(水晶の光を超えて)小7 Mcflied chicken Mcflied chicken

ここで再び天井吊りの演出が登場。水晶?のペンダントを星にかけて、星が上がっていく。センターはスイスイからランラン(宋昕冉)に交代。

第四回総選挙コンサートでチームXがチーム衣装として着ていた軍服スタイルの衣装が運営会社に取り上げられ、いつの間にか第四回総選挙結果EP第49~66位曲『戎裝信仰』MVの衣装になってしまったが、この公演のこの衣装でそれを取り返した感がある。回転したときのスカートのシルエットが非常に美しい。

楽曲はまたまたアニメのオープニングかエンディングといったスタイル。Cマイナーで転調なしだが、ブリッジのDメロはある。編曲も普通にしっかりしている。

15.『新航路』Mia.C/吴依瑄 吴依瑄 Wave G

これも典型的なJ-POPスタイルのポップ・ロック。Fマイナーでツーコーラス目終わりの間奏だけ転調する。ブリッジのDメロあり。編曲の手抜きはない。

16.『Fire X』 吴易纬/林祐世 生命树/小王子

最後の曲がこれはどうなんでしょう、という曲(汗)。AKB48の『チームB推し』的なメンバー紹介が始まりそうな、ドラムスだけのイントロ。

冒頭の「fire fire fire fire X」という掛け声は冷静にパソコンの前で観ていると恥ずかしいけれど、SNH48運営会社がチームX公演に何を求めているかがよく分かる。

舞台のメンバーと客席のMIXやコールが一つになって公演を作り上げるというコンセプトが明確。初日の映像を観ていると分かるが、初日なのに客席からきっちりMIXやコールが入る。

チームXファンの皆さんはMIXやコールが上手い。『夢想的旗幟(ドリームフラッグ)』公演の『夢想家』が典型的。それに合わせて、今回も公演の楽曲自体がMIXやコールを入れやすいように、意図的に分かりやすく作ってある。

以上のように、『夢想的旗幟(ドリームフラッグ)』公演に続いて、ほぼ同じスタイルを継承することで「これが上海SNH48チームXスタイルです!」という打ち出しが確立した公演。こうしてスタイルが確立しているので、チームXは大丈夫だと思う。