元SNH48専属司会者兼バラエティー班責任者アージーさん回想録(3)

上海SNH48の専属司会者兼バラエティー班の責任者だった「阿吉(アージー)」こと張競さんが新天地を求めて運営会社を円満退社した。退職後、中国ツイッター(新浪微博)で「回想録」をツイートしている。上海SNH48が結成されたばかりの頃の様子がよく分かって、異常に面白いので順次日本語試訳する。

いってみれば阿吉さんはSNH48の歴史の証人。SNH48ファンは必読!

回想録第三回

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チームSIIが俗世間に降りてきた仙女のようだとすれば、チームNIIは部屋いっぱいの朗らかな妖精たちといった感じ。僕にとって唯一変わらなかったのは、両チームのメンバーたちが全員似たような顔に見えたこと。うん。僕が言っている意味は、レッスンで座っているときのこと。例によって、先輩社員が僕を紹介し終えて、レッスンを始めようということになった。

人情の常として、女性が集まると、ぺちゃくちゃおしゃべりが始まるのは仕方ない。MCレッスンの教師として僕は自然と自分なりのやり方を持っていた。チームSIIに対しては、「みなさんこんにちは」と言い終わると、わざと数秒沈黙してぐるりと見渡して、何人かのメンバーが機転を利かせてお互いに注意し合うと、部屋の中はすぐに静かになった。この方法は、司会をするときにも役立つ。僕はこれを「節奏」でその場をコントロールする、と呼んでいる。そこでチームNIIに対しても、自信をもってこの使い古した方法を使った。

(訳注:「節奏」は日本語に訳しづらい。「リズム」の意味だが、もともとスラングで「~的節奏」は「~になる流れ」という意味だった。しかしその後MMORPG由来で「帯節奏」が「あえてケンカを売る」「相手の怒りをあおるようなことを言う」の意味になり、いまSNH48ファンの間ではこの意味で使われている。阿吉さんが後者の意味で使っていることは間違いないので、ここでは「あえてこちらが黙ることで、相手も黙らせる」というくらいの意味)

「みなさんこんにちは」!自分って何て落ち着いてクールなんだろうと思いながら、胸の前で腕組みして、例によって黙ったままぐるりと見渡した。

「先生こんにちは!」「ああっ、レッスンだって!」「あ~あ、さっきダンスレッスンが終わったばっかりでおなか減った!」「出前とって食べる?」「みんなどうして食べても太らないの?!」「はははは…」「おやつ持って来ようよ!」「あらら、ファンデを前髪まで塗っちゃった」「先生どうして黙ってるの?先生もおやつ食べる?」「先生もポテチ食べる?」…

… …

時間は一秒一秒と過ぎていった、しかし、部屋はまったく静まらない。逆に僕もいつの間にか、この何とも言えず楽しい雰囲気に入り込んでしまっていた。笑顔ながら礼を失しないように、親切にすすめられるいろいろなおやつを断っていた。

しかし…

なんで僕におやつを食べさせようとするんだよ?!僕がぐるりと見渡したのは君たちを静かにさせるためで、食べ物を探しているわけじゃない!僕はMCのレッスンをしに来たんだよおおお!!!

その瞬間、がやがや騒がしかった部屋と少女たちがまるでますます大きくなり、僕の方がどんどん縮まっていくような感じがした。ついには抵抗する力もなくなり、おやつやポテトチップスやうどんが沸き上がる泥沼にはまり込み、抜け出せなくなった。先輩社員は他人の災難を見て喜ぶように僕を見つめ、僕は恥じ入りながらも谷底へと巻き込まれていった。

レッスンはついに終わった。どうにかこうにか入社して最初の仕事を達成したわけだ。帰っていく途中、先輩社員は深々とため息をついて質問してきた。「やれやれ、あの2チーム、違うでしょ?」

「ふふっ、あまり同じとは言えないですね…」、僕はその場をとりつくろったが、内心ではあの泥沼の悪夢からなかなか抜け出せないでいた。

悪夢はすぐに過ぎ去ったが、両チームには巨大な違いがあり、かえって僕を好奇心で満たした。僕がつづけて質問すると、先輩社員は率直に話してくれた。一期生が入団したとき、たしかに物理的にいろいろな面で条件が限られていて、メンバーのレッスンと社員の仕事で場所がぎゅうぎゅうだった。

ただ管理とレッスンについては、非常に厳しい海外のやり方にそったもので、一人ひとりに対して規定とレッスンが決められていた。歌とダンスのレッスンの量が非常に多いだけでなく、会社の規定にしたがった髪の長さや髪の色のヘアスタイルにされ、メイクもスタイリストが決めたとおりにされていた。マイクロバスに乗るとき、運転手に「お疲れさまです」とひとこと言い忘れただけで、すぐにマネージャーが飛んできて罰としてスクワットをさせた。

この最後の話はただのこぼれ話だけれど、当時の厳格な制度の一端をうたがえる。だから、それでも頑張り続けることができたメンバーは、必然的に意志力とチームワークが非常に強い雰囲気に育成されていた。

しかし、何といっても中国式の一人っ子と海外の子供では育った環境が違う。チーム意識の差が大きすぎる。初期のメンバーがごっそり退団した後、会社はマネジメントの人員を世代交代させて、二期生が入団したときには、レッスンと規定は以前ほど厳格ではなくなっていたが、かなりの制度の権威も失われてしまった。

もっとも素晴らしい時期の女の子たちが、あの想像を絶する辛さと苦慮の時間をどうやって過ごしたんだろうか。僕は以前想像してみたことがある。非常に規律と団体意識が強力だと言い伝えられていたチームは、優勢を得た時期であっても、心に秘めた人を恐れさせるような闘志とパイオニア精神を無意識のうちに見せていた。

彼女たちをあまり理解していない新しいファンにとっては、こういう一致団結の意識は近寄りがたく思えるかもしれないけれど。

一方自由な表現と奔放な性格のチームは、劣勢の時であっても、依然として遠慮することなく色とりどりの活力をほとばしらせる。あきらかに、新しいファンにとって、個人の多彩な魅力は間違いなく人目を引くだろう。

では、同じアイドルとして、違った経歴をもち、それによって決まったスタイルも大きな差がある二つのチームのメンバーたちの運命は、実はどの段階でより多くの人たちが新たにこのグループのファンになったかによって、大部分が決まることになる。

それに加えて、強者が勢いを失い、弱者が逆襲するというのも、中国の大衆がもっとも歓迎するストーリーでもある。

しかし感慨深いのは、こうした勝敗を決める要素は、彼女たちが経験した苦難の量と無関係だということだ。

僕も社員バージョンの二期生で、もう他人の脚本どおりではなく、自ら手探りで進んでいく当時の仕事の雰囲気と、それと同じように自由な個性でたくましく成長するチームNIIを熱愛していた。

でも僕はやっぱりここで、チームSIIに真摯な敬意を表明したい。