元SNH48専属司会者兼バラエティー班責任者アージーさん回想録(4)

上海SNH48の専属司会者兼バラエティー班の責任者だった「阿吉(アージー)」こと張競さんが新天地を求めて運営会社を円満退社した。退職後、中国ツイッター(新浪微博)で「回想録」をツイートしている。上海SNH48が結成されたばかりの頃の様子がよく分かって、異常に面白いので順次日本語試訳する。

いってみれば阿吉さんはSNH48の歴史の証人。SNH48ファンは必読!

回想録第四回

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グループのバラエティー番組について会社には自信がなかったので、まず二回分のサンプルを撮影することに決まった。もともと僕のテーマはほぼ固まっていたけれど、当面の急務として、できるだけ早くこのグループの文化を理解しようとしていた。

ちょうど『ハート エレキ』の握手会が開催され、保安要員として初めて握手会という奇妙なイベントに参加した。本当に文化を理解するための天から与えられたような絶好の機会になった。マスクをした裏方の男が興味津々で、場内のあちこちをぶらぶら歩き、行列を整理する合間をぬって、みんなが握手会のときにおしゃべりする内容にじっくり耳を傾けていた(正直に言えば盗聴というべきだろう)。

当時、ファンと握手券の販売規模は大きくなかったので、握手会もさほど広くない劇場の中で行われた。一番下の立見席にメンバーが一列に並んで、ファンは全員三階から入場し、両側の座席の通路に並ぶ。スタッフが自分の目で確認して、順にお目当てのメンバーに握手をさせた。

この小劇場にはかつてまだ記憶に新しい経歴があったので、握手会について僕が想像していたことは悲惨なものだった。何といっても僕は面接の当日、あの恥ずかしそうにして大人しく見える男子たちが、公演が始まるやいなや僕の方が恥ずかしくなるほど強烈なホルモンを爆発させるのを目にしていたからだ!

なので僕が思い描いていた握手会の情景は、涙と鼻水を流している忠実なファンがアイドルの小さく白い手をしっかり握りしめるつつも、がたいのいい保安要員に圧倒されて、最後にやっと胸が張り裂けんばかりの悲惨さで引きはがされるといった場面だった。

この想像はたしかに行き過ぎだけれど、僕のような何も分かっていないファンにとっては本当に仕方ないことだ。MCでメンバー一人ずつに山をも動かすようなコールをしているのを聞くだけで、そういう覇王と虞姫の永遠の別れのようなことを絶対に想像してしまう。

しかし実際には、覇王は決して握手会に来なかった。やって来たのはウルトラマンや女装した男性ファンだ。女装!!!僕は女装した男性ファンを握手するメンバーがどういう気分なのか分からなかった。とにかく僕が女性だったら絶対に受け入れられないだろう。

「あなたこんなにきれいな服を着て、脚も私より長くて、私より白くファンデーションを塗って、私をバカにしに来たの?!」それから、少なくともストッキングをはく前にすね毛を剃って、敬意というものを示せないんだろうか?!!それからウルトラマン。真昼間からマスクをかぶって強盗でもしたいのか?

奇抜な服装をこんなにたくさん目にして、それに加えて大勢のデブヲタがやって来て、万一騒ぎでも起こったらおさめられるわけがないだろ?すぐに僕のプレッシャーは高まり、大敵に向かっているような気分になった。

ところが意外なことに、その場の秩序はとてもよく管理されて、ファンはきっちり順番に従って、我慢強く順番を待ち、楽しくほのぼのした雰囲気で、ウルトラマンや女装した男性ファンでさえ僕に対して礼儀正しくふるまってくれた。高貴な身分から半歩たりとも踏み越えようというつもりは全くないようだった。僕は心配だった気持ちを、ようやく落ち着かせることができた。

行列がしっかり管理されているので、僕も安心して巡視(盗聴)できた。

これも意外だったのは、握手会といいながら、実は多くのファンは手を触れることに決してそれほど興味はなく、みんなの関心はおしゃべりの内容にあるということだった。しかもおしゃべりのポイントは必ずしもメンバーについてではなく、多くのファンのおしゃべりは自分の学業や仕事、生活の中で起こったことだった。

ファンのみなさんがそんなふうに心を開いて、昔なじみの親しい間柄のように自分のいろいろなことを話しているのを見て、さらに安心してお互いのやりとりの過程を聞くことができた。本当に何年も会っていない友だちが、ついに再会したような感動的な様子だった。

唯一奇妙なことといえば、お互いを隔てている立見席の鉄柵がややその場にしっくりこないことだ。そうやって巡視していると、一瞬自分がいったいスタッフなのか刑務官なのか分からなくなった。

最も印象深かったのは、こういうファンの人たちだった。あるイケメンで明るい少年は、十数枚とかなりの金額の握手券を持って、スタッフに渡したあと、前に出て握手をしておしゃべりするのではなく、振り返って列の方に呼び掛けた。ほどなく、列の中から一人のおばさんが出てきて、少年の手引きでメンバーとおしゃべりし始めた。なるほど、この少年は母親を連れて握手しに来ていたんだ!

そのお母さんがこう言っていたのを覚えている。「あらまぁ、お嬢さん、あなたの公演を観たことがあるのよ、いつもダンスがお上手ね、今日は息子が私を連れてあなたを応援しに来たの…」、しばらく握手をして、そのお母さんはすこし少し申し訳なさそうにメンバーの手を放し、少年とスタッフを見た。少年は微笑んで、のんびりした様子で言った。「お母さん、握手を続けなよ。まだ60秒あるよ!」。お母さんはまたメンバーをおしゃべりを続けた。最初から最後まで、少年は自分でまったく握手をせず、ただ別れ際にメンバーに「これからも頑張って、僕もお母さんも応援してるから!」と満足気に母親を連れて帰った。

もう一人のファンは、ずっと黙々と列に並んで、自分の番がまわってくると、早くも恥ずかしさで顔を真っ赤にして、どうしていいのか分からずうろうろしていた。僕が「君が握手したいメンバーは今空いてるよ」と言うと、彼は震えながら二枚の握手券を取り出した。自分の手でもみくちゃになっている握手券を僕に渡し、僕が受け取ろうとすると、またためらって手をもどした。

ほとんど聞き取れない早口で僕に言ったのは、「もしよければ…後ろの人に先に握手してもらっていいですか?僕…まだ何を話すか決めてないから…」、そう言って懇願するように頭をあげて、まるで悪さをした子供のように僕の答えを待っていた。僕の答えは当然、いいよ、だった。その瞬間、彼の姿は突然自分が初めて女の子に片思いしたときの状態を思い出させた。あのためらいと緊張、あの気づまりで不安な気持ち、あの一生に一度しかないような男の子の気持ち。

最後のファンは、分厚い束になった握手券を持って、何度も列に並んでいた。というのは、あのとき彼のお目当てのアイドルの列に並んでいるファンは決して多くなかったからだ。それで彼は一回、また一回と列の最後にもどって、また並びなおした。そうやって彼のアイドルの名前が呼ばれるたびに、列の誰かが大声でこたえる状態を確保していた。

最後に、一人では実際に列を作れないので、他のファンに握手券をプレゼントして、彼のアイドルの名前が呼ばれたとき、みんなが手分けして一回ずつ握手するようにしていた。彼の気持ちに動かされて、僕もいっしょに他のメンバーのファンに、まず空いているメンバーと握手をしてくれませんかと売り込むのを手伝った。あの日、彼が汗びっしょりで駆け上がったり下りたりしている様子を、僕はずっと忘れない。彼がみんなに手伝いを頼んでいたアイドルは、みらい(蔣蕓)だった。

握手会が終わるとともに、僕のアイドル文化に対する理解は、尋常ではなく大きく進歩した。まさにあの日以降、僕はグループバラエティーのサンプルを撮影するなかで、必ずみんなにそういう愛すべきファンの様子を見せたいと思うようになった。