元SNH48専属司会者兼バラエティー班責任者アージーさん回想録(5)

上海SNH48の専属司会者兼バラエティー班の責任者だった「阿吉(アージー)」こと張競さんが新天地を求めて運営会社を円満退社した。退職後、中国ツイッター(新浪微博)で「回想録」をツイートしている。上海SNH48が結成されたばかりの頃の様子がよく分かって、異常に面白いので順次日本語試訳する。

いってみれば阿吉さんはSNH48の歴史の証人。SNH48ファンは必読!

回想録第五回

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いま思い出すと、その後だんだんと花開いて、自然に他の人たちより輝き出す彼女たちだが、もし僕に超能力があれば、いちばん留めておきたいのは、きっと彼女たちが未熟だった時のことだ。

最初に総選挙の政見放送を撮影したとき覚えているのは、収録の日程が立て込んでいて、みんなも経験がないので、当時はメンバーだけでなく、僕でさえ落ち着かなかった。

ただmomo(莫寒)やシャオスー(林思意)はあの数日間、生まれつきのしゃべりの上手さでいいスタートを切った。メンバーはみんなリラックスし始めて、一人ひとりの収録が佳境に入り、まだ夜も更けないうちに、仕事はまもなく順調に終わろうとしていた。カメラマンと僕、それからあの掃除スタッフはお互い笑いあって、満面に喜びを浮かべていた。

ところが黃婷婷のとき、何度呼んでも遅々としてやって来ない。僕らは不審に思って振り返った、あの場面は本当にとても正確なひとことで表現できる。何も分からない新人が隅っこでびくびく震えている。彼女があんなに緊張しているのを見て、僕らはみんな腹が立つやらおかしいやら。

そこで僕は彼女に駆けよっておしゃべりした。じつは初めて公演を観たとき、彼女は少し印象に残っていた。明らかにやせ細って華奢な手足なのに、とても真剣に力いっぱいダンスをしていた。すっきり素朴な顔立ちだけれど、何とも言えずちょっと美人だと思った。うん、要するに、この女の子は見ていて気持ちよかった。

でも当時の彼女自身はきっとかなり気分が悪かったに違いない。雨に降られたように汗だくで、居ても立っても居られない様子だった。僕は言った:「緊張しなくていいよ、リラックスして自己紹介して、自分の目標を言えばいい」。

「でも、私、何を話したらいいか分かりません…」、テテちゃん(黃婷婷)はどうしようもなくいじけていた。

「もう少し自信を持ちなよ。ほら、僕は一度しか公演を観ていないのに、君のことを覚えてるんだよ」

「えっ、そうなんですか?まさか、どうして私のことを覚えてるんですか?」、テテちゃんは顔を上げて、少しいぶかるような、でも少し興味を持ったように僕を見た。

「ほんとだよ」、僕はなぜか知らないけれどネタを一つ思い出した。「だって君の眉毛は特徴があるだろ、8時20分って知ってる?」

「8時20分?」、テテちゃんはとまどって頭を横に振った。たぶん彼女はこのおじさんの思考回路は、あまり正常じゃないと思ったんだろう。

「8時20分になると、分針と時針の角度が君の眉毛と同じになるんだ。ハハハ…」、実はいま思い出すと少し怖い、女の子の機嫌をとるのに、こういうジョークは素人すぎる。ほとんどの女の子は激怒しなければまだマシというネタだ。

「うん…」、テテちゃんは何を考えているようだった。そしてすぐに彼女のトレードマークになっている天を仰いで肩をそびやかした大笑いを始めた、「ハッハッハッ…8時20分…ハッハッ」、笑い終わった後、彼女は明らかに気分が良くなったようで、スタジオにあった操り人形を指さして言った。「スタッフさん、あの人形使っていいですか?」

「もちろんいいよ!」

「じゃあ私、カメラテストしてもらっていいですか」とだけ言って、テテちゃんはカメラの前に座った。

少し意外だったのは、カメラに向かったテテちゃんが、まったくそれまでのように緊張していないことだ。逆にスラスラと政見放送の収録を終えた。こういう、舞台の下ではとても緊張し、不安だけれど、いったん舞台に上がると突然自信をもって安定した状態になるのは、彼女がこのずっと後、『吐槽大会(ツッコミ大会)』という番組に出演したときにそっくりだった。

いわゆる「初心は変わらない」というのは、彼女にもっともふさわしい例えだろう。

僕は、生まれつきのタレントの素質があると思う。

タレントの素質と言えば、もう一人のメンバーに思い当たる。女性タレントとしては、自然に顔面偏差値や、ファッションなど示すのは重要だが、何事にも例外がある。たとえばアイスバケツ・チャレンジが流行った年、SNH48もこの活動の招待を受けて、メディア部の同僚たちが記者をわざわざ宝山区の生活センター(訳注:メンバーの宿舎)に連れてきて撮影し、何人かのメンバーが全グループ代表して勇敢にもチャレンジした。

でも当時撮影したあの写真は、多くのアンチファンから非難され、例えば「猫頭板」(訳注:中国5ちゃんねるのAKB48ファン掲示板、SNH48に敵意を燃やしている(笑))にたくさんスレッドが立った。

議論のポイントはアイスバケツでびしょぬれになったメンバーたちが、明らかに普段と顔面偏差値が違いすぎるというものだった。ファンのみなさんの用語で言えば「崩れ」すぎということ。そこから整形してるんじゃないかとか、顔面偏差値はメイクだのみだといったコメントがいろいろと書き込まれ、世間のウワサの中心に巻き込まれてしまったのが、当時人気が最高のメンバーだった趙嘉敏だ。

同僚によれば、メディア向けの企画だったので、当時特別にスタイリストを手配して、メイクの時間も十分とってあったが、趙嘉敏が最後に現場に着いたときは完全なすっぴんのままで、メガネまでかけていた。同僚はじっさい見ていられずに、彼女に化粧直しをさせるように言ったが、彼女は頑として拒否した。

なぜか知りたかったので、その後撮影があったときに、僕はその時のことを彼女に聞いてみた。彼女の答えはとてもシンプルだった。「だってあのイベントは疾病基金募金のチャリティー活動ですよね、だから自分のいちばん真実の姿で参加したかったんです」

こんなに誠実な理屈だったとは、みんな思いもよらなかっただろう。

あれからずいぶん経ったけれど、僕はやっぱり当時スレッドを立てたスレ主たちにひとこと言いたい。最も美しい時期の少女で、アイドルタレントでもある女の子が、自ら望んで華やかな姿を捨てて、まじめにチャリティー活動をしているのに、君たちはディスプレイの前で悪意に満ちた嘲笑をしていた。本当に軽蔑すべきことだ!

学業が理由で、僕と趙嘉敏が接触する機会は決して多くなかったけれど、その数回の仕事の中でも、彼女はいつも素晴らしいプロ意識を持っていた。ここで彼女が将来学業を成就して、仕事の面でも再び頂上へ昇ることを祈りたい。

それからもう一人、特に重責を担ったメンバーは、莫寒だ。僕の仕事の最も大きな支えになってくれたメンバーをあげれば、莫寒、陸婷、張語格、そして錢蓓婷、孫芮、汪束、彼女たちに抜きには語れない。ただ、いちばん最初に仕事をしたメンバーといえば、莫寒その人だろう。