広州GNZ48 3rd EP『たんぽぽの足跡(蒲公英的脚印)』MV詳細解説

今回は広州GNZ48の三枚目の全曲オリジナルEP『I.F (Immortal Flower)』より、選抜メンバーによるメイン曲『たんぽぽの足跡(蒲公英的脚印)』の歌詞とMVをじっくりご紹介。

いつもながら広州GNZ48の映像作品のクオリティの高さに驚く。今回のMVも期待を裏切らない。

申し訳ないけれど、ほぼ過去のドキュメンタリー映像を編集でつないだだけの上海SNH48『お互いの未来(彼此的未来)』のMV、北京BEJ48の三枚目の全曲オリジナルEPタイトル曲『マニフェスト(宣言)』のMVとは比較にならない。

さて、現地ファンも指摘しているが『たんぽぽの足跡』のMVは明らかに日本の坂道系(乃木坂46、欅坂46)のMVを意識している。

たんぽぽがキーワードになっているため、乃木坂46『気づいたら片想い』のMVと類似は顕著だ。

ただし、乃木坂46『気づいたら片想い』は小学生が見ても物語が分かるように、ドキュメンタリー風の具体的な映像なのに対して、広州GNZ48『たんぽぽの足跡』は全編がメタファー(比喩)になっており、理解が難しい。

また乃木坂46『気づいたら片想い』のたんぽぽの綿毛は西野七瀬の生命の具現化だが、広州GNZ48『たんぽぽの足跡』のたんぽぽの綿毛は、人の思いを伝える媒介の具現化と、同じたんぽぽでも意味が全く違っている。

この『たんぽぽの足跡』のMVの物語、解釈は人それぞれ何通りもあると思うが、筆者の解釈を以下、延々と書いてみる。歌詞の日本語訳は記事の最後につけてある。

主役は広州GNZ48チームNIIIキャプテン・ミッフィー(劉力菲)と、チームGのエース・レイレイ(謝蕾蕾)の2人。

広州GNZ48は2nd EPまでレイレイ(謝蕾蕾)が選抜メンバーのセンターだったが、今回の3rd EPでは初めてミッフィー(劉力菲)がセンターを務めている。この事実も物語と少しだけ関係する。

まず、MVの時間軸は衣装が5パターンあることから整理できる。

衣装パターン1:パステルカラーのワンピース。崖の上のダンスシーン。

衣装パターン2:白のワンピースドレス。ミッフィーとレイレイの2人だけ。

衣装パターン3:砂浜のダンスシーン。レイレイは不在。ただしミッフィーの衣装は衣装パターン2と同じで、前髪を上げただけ。

衣装パターン4:衣装パターン3のバリエーション。ビスチェと言うんだろうか、その重ね着が特徴的。

衣装パターン5:ここでネタバレすると面白くないので、最後まで読んで下さい(笑)。

カットバックで時間軸を行ったり来たりするので分かりづらいが、時間軸はこの順番。

以下、一つひとつシーンを説明。

冒頭、波に洗われている方位磁石。進むべき方向は分かるけれど、波の中では飛び立てないということ。

ミッフィーとレイレイの対話のシーン。左がミッフィー(劉力菲)、右がレイレイ(謝蕾蕾)。衣装パターン2。上述のようにミッフィーの衣装はパターン3と同じだが、前髪を下ろしている。

レイレイ:ねえ 海のあっちには何があるの?
ミッフィー:知らないよ
レイレイ:すごく知りたい
私を連れてって
私には時間がないの

次のタイトルカット。前髪のないミッフィーの似顔絵とたんぽぽの綿毛。たんぽぽの綿毛はもちろん作り物で、MVの演出上、カメラに映るようにわざと大きく作ったという理由もあるが、大きく作ってあることにはもう一つ理由がある。それは以下、少しずつ説明する。

なお、このオープニングのタイトルと歌詞の字幕は、すべて広州GNZ48チームNIIIチェンチェン(劉倩倩)が書いた文字。

次の夜の海辺の逆光のカットは後半で分かるが、衣装パターン4。いきなり時間軸が未来に跳んでいる。

次の山並みの遠景で夜が明けた後、衣装パターン3のチームNIIIリカちゃん(唐莉佳)のアップ。彼女がわざとイヤリングに触れているが、このガラス玉はすぐ後に出てくる。

チームZキャプテン・シャオユー(張心雨)が、画面左に見切れているミッフィーに手渡している洋書の題名は不明。この伏線だけが回収されていないが、理由は不明。単なる編集のミスかもしれない。

チームG・リーロン(黃黎蓉)は貝殻を耳に当てている。この伏線は後で回収される。

チームZ・ルイツ(龍亦瑞)が不機嫌な表情で古地図を持っている。この伏線も後で回収される。

チームG・つき(羅寒月)が海に向かって立っているカット。この伏線も後で回収される。

チームZ・ワイワイ(王盈)がチームNIII・はるか(熊心瑤)と背中合わせで立っている。この伏線も後で回収される。左がはるか。

ワイワイとはるかの立ち位置が2つのカットで一致していないが、二人の顔を見せるためなので細かいことは気にしない(汗)。

次の砂浜のミッフィー(劉力菲)の足元のカットの次のカットからダンスが始まる。

ミッフィーは衣装パターン3。編集ではミッフィーを仰角で見上げるカットを、横からの望遠のカットにつないでいる。カットを割るだけでなく画角が大きく変わっている点は、熟考された演出

ミッフィーがハイタッチするカット。後ろ姿は左がリカちゃん(唐莉佳)、右がチームG・soso(張瓊玉)。

波の中から方位磁石を拾い上げる手。これで方向を確かめながら「海の向こう側」へ歩き出せる。

ガラス玉にとじこめられたたんぽぽの綿毛。これを持っているのは袖の長さからミッフィー。それを受け取ったのはsoso(張瓊玉)。

ガラス玉の向こう側のsoso(張瓊予)が逆さに映っている。このカットの別アングルは後で出てくる。

たんぽぽの綿毛は冒頭に登場した綿毛と比べてまだ小さく、ミッフィーがレイレイに伝えるべきことはまだ少ない。

方位磁石を手渡すカットに登場するのは、チームG・CK(陳珂)とチームZ・エイプリル(王偲越)。

ミッフィーがCKとエイプリルに方位磁石を手渡したと思われる。

ここでミッフィーの衣装が突然パターン4に変わり、時間軸が未来に跳んでいる。衣装パターン4は、ミッフィーが一人で「海の向こう側」へ旅立つシーケンスの象徴。

ミッフィーが旅立つなら、普通は方位磁石を受け取るのはミッフィーの方だろうと思う。

しかしこの衣装パターン4のシーケンスは、ミッフィー以外のメンバーはミッフィーの心の中にある様々な気持ちの具現化で、全員でミッフィー一人の人格と考えるのが妥当だ。

次の砂浜のダンスは衣装パターン3に戻っていて、時間を遡行するカットバックになっている点に注意。シャオユー(張心雨)、リーロン(黃黎蓉)も加わっている。

ここから、衣装パターン1の崖の上のダンスのカットと、衣装パターン3の砂浜のダンスのカットが交互につながれている。時間軸を行ったり来たりするカットバック。

衣装パターン1の崖の上のダンスシーンでは、ティアラをつけたレイレイと、ミッフィーもそのとなりで踊っている。

分かりづらいが下の画面ショットの右端に、ミッフィーとレイレイがいる。

この段階の衣装パターン1のシーンの前半では、ミッフィーがまだレイレイの余命が少ないことを知らず、これからも二人でいっしょにパフォーマンスできることに疑問を持っていない。

衣装パターン1と3のカットの細かいつなぎは、おそらくミッフィーがレイレイがいた頃への思いを断ち切れていない心理描写。

即物的な描写はなく、衣装の違うカットをつないで時間軸を行ったり来たりするだけで、ミッフィーの心理を抽象的に表現している。

次のドローンからの俯瞰撮影では、チームNIIIうさぎ(冼燊楠)も加わっている。いちばん左。うさぎ(冼燊楠)は同じ衣装で後で再び登場する。

このドローンが飛び去っていくカットは、実はただの視覚効果ではない。この後、衣装パターン3のミッフィー(劉力菲)は登場しない。

つまりこのドローンのカットは、ミッフィーがいよいよ「海の向こう側」へ旅立ったことを意味している。

次のカット、リカちゃん(唐莉佳)がイヤリングのガラス玉を触っている。

その直後、soso(張瓊玉)がたんぽぽの綿毛が封じ込められたガラス玉を見つめている横顔、逆行のカットがつながれている。

先ほどsosoがガラス玉に逆さに映っていたカットの別アングルだ。sosoは白いレースのチョーカーを付けているので分かりやすい。

リカちゃんとsosoは、ミッフィーからこのガラス玉に封じ込められた綿毛を受け取っている。

ここも受け取るのはミッフィーの方だと普通は思うが、方位磁石、レイレイに思いを伝えるためのたんぽぽの綿毛と、ミッフィーの心の中に「海の向こう側」へたどり着くためのアイテムが一つずつ増えているということ。

次の衣装パターン1の崖の上のダンスシーンのすぐ後、うさぎ(冼燊楠)が万華鏡を持って、ミッフィーとふざけて遊んでいる。ミッフィーの衣装はここでもパターン4。

つまりこの万華鏡もミッフィーの心の中のアイテムに追加される。この万華鏡の伏線も後で回収される。

間奏に聞こえる時計の秒針の音で、崖の上の衣装パターン1のダンスシーン。ミッフィーとレイレイが二人とも中央にいる。くり返しになるが、時間軸ではこの衣装パターン1がいちばん昔。

次のカットは衣装パターン4のミッフィー。何かを海に向かって投げているが、何かは分からない。意味があるならもう少しはっきり映して欲しかった。

上述のようにこれ以降、衣装パターン3は出てこない。衣装パターン1と衣装パターン4だけとなり、「海の向こう側」に歩き出したミッフィーと、レイレイがいた頃の回想で物語は進む。

衣装パターン4でミッフィーが崖の道を降りてくると、チームG副キャプテン・キツネちゃん(高源婧)に出会い、革のブレスレットをプレゼントする。

ここでも与えるのがミッフィーで受け取るのがキツネちゃんの方。ブレスレットが何なのかは分かりづらいが、おそらくレイレイとの想い出の象徴。

次に、チェンチェン(劉倩倩)、つき(羅寒月)の二人とハイタッチ。

このあたりのメンバーとの出会いは笑顔に満ちていて、「海の向こう側」へ行く道のりも明るいように思える。

次に再び衣装パターン1のカットバック。これら衣装パターン1のカットはすべてレイレイの想い出。

衣装パターン4に戻り、ミッフィーがチェンチェン(劉倩倩)が何かを描いているのを覗き込む。これが冒頭のミッフィーの似顔絵。まだ道のりは楽しい。

ただし、この辺りから道のりの雰囲気が少しずつ変わる。

不機嫌なルイツ(龍亦瑞)が古地図のような紙を持っているカットは、冒頭の伏線の回収。

ミッフィーはここまでしてきた事と同じように、小さなガラスの小瓶をルイツに贈ろうとするが、今度は笑顔ではない。

ルイツはミッフィーが持っている小さなガラスの小瓶を奪い取って、代わりに古地図を手渡す。

「海の向こう側」を目指すには、想い出より確かなもの(=古地図)があり、ときには日常の小さな幸福(=様々な贈り物)を犠牲にしなければならない。

引き続き衣装パターン1のカットバックが挿入される。

その古地図を持ってミッフィーは「海の向こう側」を目指すが、途中で、背を向け合うワイワイ(王盈)とはるか(熊心瑤)を見かける。ここで冒頭のこの二人のカットの伏線が回収される。

このカット、ミッフィーの髪の毛越しのフレーミングになっている点も平凡だけれど重要な演出。

目的地を目指す道のりには、些細な事で仲間どうしが対立することもある。

同時にこの二人はミッフィーの心の中の葛藤でもある。一つの考えと、もう一つ違う考えが、自分の心の中で矛盾を抱えたまま解決できずにいる。

次に、ミッフィーが青い貝殻を耳に当てるカット。ここで冒頭のリーロン(黃黎蓉)の伏線が回収される。

ミッフィーに貝殻の音は聴こえない。そこでリーロンがミッフィーの手を胸に押し当てる。

このシーンの意味がよく分からなかったが、現地ファンの解釈では「貝殻の音が聴こえなくても、あなたの心の声を聴けばわかる」とのこと。素晴らしい解釈。

自分の心の中に葛藤(=先ほどのワイワイとはるかの対立)があるときは、誰かの声(=貝殻)に耳を傾けて解決しようとするのではなく、自分の心の声に耳を傾けるべきということ。

そしてDメロ部分の次のカット。この部分がMVの中で最も重要。

夜の砂浜のダンスシーンに、突然、衣装パターン2のレイレイ(謝蕾蕾)が現れる。その周囲は衣装パターン4のメンバーたちだが、ここにミッフィーはいない。

ここで冒頭の夜の砂浜と篝火のシーンが、このシーンだったことが分かる。

このシーンで衣装パターン4のメンバーたちは、ミッフィーと独立した人格ではなく、ミッフィー自身の心の中の様々な心情であることが明確になる。

その理由は、衣装パターン2のレイレイがいるからだ。

このレイレイはミッフィーに余命が短いことを告げ、「海の向こう側」に連れて行って欲しいと話した時のレイレイであり、ミッフィーの心の中に今でも残っている後悔だ。

それはこのシーンのカメラワークでも分かる。

カメラはレイレイをズームアップではなくトラックアップしている。トラックアップならカメラは安定するはずだが、レイレイに最も近づいたとき振付けに合わせてカメラが揺れている。

たぶんこの揺れは意図的だと思う。

ミッフィーはレイレイが知りたがっていた「海の向こう側」に簡単にたどり着けないことを知った。

そんな彼女の背中を押しているのは、彼女の中で喜びだったり、ときには辛さだったり、これまでの道のりで感じ取り、自分自身に贈り物として贈ってきたすべての感情だ。

その様々な感情を、衣装パターン4のメンバー一人ひとりが表現している。

そしてそれらの感情の中央(センター)にずっと存在していたのは、レイレイ(謝蕾蕾)が彼女に残した「海の向こう側」に何があるか知りたいという願いだった。

レイレイの残した願いが最も強い動力でミッフィーを動かしていたのだ。それにミッフィー自身が気づいたことを象徴しているのが、この夜の砂浜のダンスのシーンである。

このシーンの撮影技法上、非常に重要なのは、ワンシーン・ワンカットで撮影されていること。約13秒ワンカットで撮影されており、このMVで最も長いカットのはず。

Dメロ(ブリッジ)のこのカットが最も重要であることが、カットの長さという技術の水準でも表現されている。この点からも、広州GNZ48の映像制作チームの水準が非常に高いことが分かる。

次のカットでミッフィーはメッセージの入ったビンを両手で持っている。

次のカット、つき(羅寒月)が海に向かって叫ぶシーンで、冒頭の彼女のカットの伏線が回収されている。なぜ叫んでいるのかは、すぐに分かる。

次のカットで衣装パターン1に戻るが、ミッフィー以外のメンバーは全員静止している。ミッフィーは狼狽しつつ、静止したメンバーたちの間を縫うように走る。

そこにレイレイの姿はない。ここがミッフィーとレイレイの、おそらく永遠の別れのシーン。レイレイの姿を撮影せずに、ミッフィーの動きだけでレイレイの命が尽きたことを表現している。

レイレイの死さえ、例えば病院に救急搬送され、集中治療室に入れられた本人が天井に向かって手を伸ばす主観ショットのような、即物的な手法ではなく、あくまで抽象的に表現されている。

見ている側の読解力が試される、とても芸術的で難解なMVだ。

ミッフィーがどこかへ駆け出そうとするのをエイプリル(王偲越)とリカちゃん(唐莉佳)が引き止める。

絶望したミッフィーは、もしかするとレイレイの後を追って自らも死ぬつもりだったのかもしれない。

その絶望からミッフィーを目覚めさせたのが、先ほどの、つき(羅寒月)の叫びだった。時間軸が少しずつ逆転しているので注意して観る必要がある。

先ほどの夜の砂浜のダンスシーンで、実は自分の生きる力になっていたのはレイレイだと知る。それを自分自身に気づかせる内心の叫び声が、ここから物語を推し進める。

次のカットで、つき(羅寒月)がボトルに入った万華鏡を海に投げ捨て、海へと落ちていくボトルと、仲間たちに引き止められた衣装パターン1のミッフィーがカットバックする。

ここで、うさぎ(冼燊楠)が遊んでいた万華鏡の伏線が回収される。

ミッフィーはじっさいに万華鏡を覗いていないが、万華鏡を覗けばレイレイがいた美しい過去が見えると思っていた。

しかし、たとえ万華鏡が過去の幻影を見せてくれたとしても、それはレイレイを失った喪失感の補償にはならない。

この部分で、つき(羅寒月)が重要な役割を果たしていることが分かる。いつまでも美しい過去の想い出にとどまろうとするミッフィーの心の声を、大声で叫ぶことと、万華鏡を海に流すことで断ち切っている。

次のドローンのカットも、ミッフィーの衣装パターン3の最後のドローンのカットと同じように、単なる視覚効果ではない。

ドローンのカットでお互いに手を伸ばしているのは、小さくて分かりづらいけれど、左がレイレイ、右がミッフィー。

この高速で飛び去るドローンのカットは、ミッフィーがレイレイがいた過去との決別を表現している。そしてこれは「海の向こう側」へ飛び立つミッフィーの心でもある。

しかし、過去と決別して前進するのはやはり苦しい。沈んだ表情のミッフィーの前に、チームNIII・Kimmy(鄭丹妮)が現れる。

彼女はかつていっしょに踊ったレイレイを想い出させるが、すでにミッフィーの心は「海の向こう側」へと向かっている。

そのミッフィーにより高く翔び立つ力と契機を与えてくれたのがKimmyだ。ミッフィーはすでにここでとどまることをしない。Kimmyと結んだ手をすぐに放して、ミッフィーは駆け出し始める。

このミッフィーとKimmyが互いに手を差し伸べながらも別れていくシーンは、当然先ほどのドローンのシーンでミッフィーとレイレイが互いに手を差し伸べているシーンの反復になっている。

ただし、Kimmyとの別れはミッフィーにとって心の痛みではなく、前へ進む勇気だ。

次からのミッフィーの疾走のシーケンスはその前進する勇気を表現している。

ちなみに現地ファンがこの走りを「日劇跑(日本ドラマ走り)」と書いていた。

しかし実際は、走る人物やカメラが並走して追いかける撮影方法は、カメラが軽量化されて、屋外のロケ撮影で自動車にカメラマンとカメラを同時に載せられるようになった時代、たぶん1950年代にすでに始まっているはず。

個人的にヌーベルバーグの映画で見たカットが印象に残っている。例えばフランソワ・トリュフォー(François ruffaut)『大人は判ってくれない Les Quatre cents coups』(1959年)にも、疾走するジャン=ピエール・レオを並走撮影するシーケンスがあった。

その並走撮影を日本のアニメが取り入れて、近景と遠景のスクロールの速度をずらすことで表現し、それが定番になり、日本のドラマなど実写作品に逆輸入された。そこからしか観ていない人は、並走撮影を日本ドラマの定番だと勘違いしてしまうのだと思う。

話をMVの物語にもどす。

それに続く衣装パターン1のダンスのカットはすでに夕暮れになっていて、ミッフィーが決意を固めたような表情で踊っている。これも過去の想い出との決別を表現している。

そしてここからのシーケンスは、時間軸が複雑なので分かりづらい。

ミッフィーの似顔絵から、たんぽぽの綿毛が風に飛ばされるカット。

これは冒頭の伏線の回収だが、少し前、まだ「海の向こう側」への道のりに楽観的だったとき、チェンチェン(劉倩倩)が描いていた似顔絵から飛び去っている点が重要。

この綿毛は、いまようやく全力で走り出したミッフィーを追いかけることになる。

つまり、風に飛ばされた綿毛は、ようやく過去に残る思いを断ち切って全力疾走し始めたミッフィーが、レイレイへのメッセージを運ぶ媒介になるべく、ミッフィーを追いかける。

ここまで来て、soso(張瓊玉)が持っていた、ガラス玉に封じ込められた綿毛の意味がはっきりする。

伝えるべき言葉が少なくまだ小さな綿毛は、美しい過去の想い出(=ガラス玉)に閉じ込められていた。

しかし時が経つにつれて、レイレイに伝えたかった思いも大きくなり、その思いを運ぶべき媒介も大きくなる。

そしてミッフィーが過去に残る思いを断ち切ったことで、たんぽぽの綿毛はガラス玉から解放されて、ようやく今の彼女の思いを伝える媒介になることができる。

ミッフィーが大きく手を振るカット。これは最後のシーンの伏線。

衣装パターン2のミッフィーとレイレイの二人の対話シーンも時間を遡行してカットバックされる。

こうして、さまざまな思いを抱きながらミッフィーが全力で「海の向こう側」へ疾走する。

ここに何度かインサートされる、衣装パターン1の夕暮れのダンスのカットで注意したいのは、レイレイが存在していることだ。

かつ、レイレイの髪飾りはティアラではなくなっており、ダンスの中央の位置がミッフィー一人になっている。

このインサートカットで、過去の想い出の中でも、ミッフィーにとってレイレイの位置づけが、絶対的な存在ではなく相対化されていることが表現されている。

ただ、レイレイの存在が相対化されたのは、過去の想い出の中だけである。現在の彼女を全力で走らせているのは、他でもなくレイレイの「海の向こう側には何があるんだろう」という問いに答えたいという強い思いだ。

レイレイの存在は、現在のミッフィーの心の中で、逆に中央の位置、センターを占めるようになった。

このあたりの展開が、現実にこの3rd EPでミッフィーが初めてレイレイに代わるセンターになったことと並行関係になっている。つまり現在のセンターの決意の動力は、確かにレイレイの存在ということだ。

ようやく海辺にたどり着いたミッフィーは、海に向かって叫ぶ。

ミッフィー:ここが海の向こう側だよ

ミッフィーはレイレイに伝えたかった思いと、「海の向こう側」へやって来るまでに経験した様々な出来事で豊かになった感情を象徴する、大きなたんぽぽの綿毛を抱いている。

演出だとしてもこの綿毛は大きすぎる。でも、この不自然な大きさこそが「海の向こう側」へやって来る路程にどれだけ多くの出来事があったかを表現している。

ミッフィー(劉力菲):ここまでの道のりで
私はたくさんの出会いと別れを経験した
でも今日
どうすればあなたに別れを告げられるのか
まだ分からない

レイレイ(謝蕾蕾)と本当にお別れをするために、過去の彼女に、現在の心の中にいる彼女に、どうやって言葉で伝えればよいのか分からない。

だとすれば言葉以外の何かで伝えるしかない。その言葉以外の何かが、たんぽぽの綿毛だ。

「たんぽぽの足跡(蒲公英的脚印)」は、普通に解釈すれば「たんぽぽが地面に残した足跡」という意味だが、おそらく違うと思う。「私がたんぽぽに残した足跡」という意味だろう。

つまり、伝えるべき思いに言葉は見つからなくても、言葉の代わりに、今まで歩んできた道のりに足跡のように残してきた思いを、すべて伝えてくれるたんぽぽの綿毛がある。

このたんぽぽの綿毛に、私の思いをのせれば、レイレイに運び届けてくれるかもしれない。

たんぽぽの綿毛は、レイレイへの最後の別れの言葉の代わりであり、かつ、現在の私とレイレイを再び出逢わせる媒介でもある。

その綿毛をミッフィーが空へ飛ばした瞬間、ミッフィーの視線の先にレイレイの姿が現れる。

このレイレイの衣装が、冒頭でネタバレを避けるために意図的に説明しなかった、衣装パターン5だ。この衣装パターンはレイレイだけの衣装である。

ミッフィーが彼女から余命わずかだと知らされた衣装パターン2とも違う。二人がともに踊っていた衣装パターン1とも違う。

映像演出上、このカットを唐突に暗転させる演出は本当に素晴らしい。これ以外のどんな演出をしてもこのMV全体が台無しになっただろう。

たとえばフェードアウトや、ミッフィーとレイレイが実際に出逢ってしまうカットなど、どれも間違っている。ここは暗転が完全に正しい。

ところで、新しい衣装で現れたレイレイは、ミッフィーの心の中にいる、どのレイレイとも違う姿だ。

新しい衣装をまとった彼女は、過去の想い出の中のレイレイでもない。

どうやって最後の別れを伝えればいいか、ミッフィーを戸惑わせている、現在のミッフィーの心の中のレイレイでもない。

未来の彼女だ。これから私が歩み始めるときの、未来への希望そのものだ。

だからこそ、ミッフィーの思いが託されたのは、花を咲かせているたんぽぽではなく、たんぽぽの綿毛だった。

たんぽぽの綿毛は、次のたんぽぽを咲かせる種だ。過去への回想と、現在の戸惑いを、未来に花咲かせるための種だ。

広州GNZ48 3rd EP『たんぽぽの足跡(蒲公英的脚)』日本語試訳

飞吧 在未知遥远的旅途上
展开各自的旅程吧
乘着风 有什么 能阻挡

飛び立とう 未知の遥かな旅路で
それぞれの道をくり広げて
風に乗り 何もさえぎるものはない

飞扬 在这充满艰难 道路上 去闯
学习着 一步步 比从前 要更加坚强

舞い上がれ 困難に満ちた道へ突き進め
一歩ずつ学び 今までよりもっと強くなる

泪水落下 用汗水掩饰它
始终相信 最初的信仰

落とした涙を 汗で隠して
最後まで 最初の信念を信じよう

飞 飞到一个未知地方
不是随风飘荡而是 乘风破浪
飞 飞过海平面另一方
我们乘着风的翅膀 实现愿望

飛べ 未知の場所へ
ただ風に漂うだけでなく 勇敢に進もう
飛べ 海の向こう側へ
翼を風に乗せて 願いを叶えよう

Yi Oh Yi oh oh
Wo oh wu wo oh
Yi Oh Yi oh oh
Wo oh 实现愿望
願いを叶えよう

Yi Oh Yi oh oh
Wo oh wu wo oh
Yi Oh Yi oh oh Wo oh

飞翔 在未知遥远的旅途上
展开各自的旅程吧
就乘着风 还有什么 能将我们阻挡

飛び立とう 未知の遥かな旅路で
それぞれの道をくり広げて
風に乗り 何もさえぎるものはない

飞舞 在这闪耀舞台上
燃烧着 微弱能量 发着光
始终相信 你的爱能带给我力量

舞い上がれ 輝く舞台で
かすかな力を燃やして 光輝け
最後まで あなたの愛がくれる力を信じよう

泪水落下 用汗水掩饰它
不曾怀疑 最初的信仰

落とした涙を 汗で隠して
最初の信念を 疑ったことはない

飞 飞到一个未知地方
不是随风飘荡 而是 乘风破浪
飞 飞过海平面另一方
我们乘着风的翅膀

飛べ 未知の場所へ
ただ風に漂うだけでなく 勇敢に進もう
飛べ 海の向こう側へ
翼を風に乗せて

(飞翔吧)
(飛び立て)

延续勇气 的路途上 充满 负能量
尽情翱翔 背负使命 前途 不会迷惘

勇気を持ち続けて進む道が
悲しみに満ちていても
思い切り翔び回り 使命を背負って
前途に迷いはない

Spreading your wings
I got courage in my heart

翼を広げているのは
心に勇気をもらったから

飞 飞到一个未知地方
不是随风飘荡 而是 乘风破浪
飞 飞过海平面另一方
逆着风才能飞翔

飛べ 未知の場所へ
ただ風に漂うだけでなく 勇敢に進もう
飛べ 海の向こう側へ
風に逆らってこそ飛べるんだ

飞 飞到一个未知地方
让我们把勇气种下 来延续它
飞 飞过海平面另一方
回到最初的盼望 未曾变化

飛べ 未知の場所へ
勇気の種を植えて 翔び続けるんだ
飛べ 海の向こう側へ
最初の願いを振り返っても 決して変わらない

Yi Oh Yi oh oh
Wo oh wu wo oh
Yi Oh Yi oh oh
Wo oh 未曾变化
決して変わらない

Yi Oh Yi oh oh
Wo oh wu wo oh
Yi Oh Yi oh oh Wo oh