上海SNH48をフォローし始めてから一度もなかったことなので記録のために書いておく。
SNH48メンバーのInstagramをフォローしている方は、SNH48二期生で第五回、第六回総選挙を連覇したカチューシャ(李藝彤)の、「私は香港警察を支持します」という赤地に白い文字の投稿に驚いたかもしれない。コメント欄もかなり荒れている。(「What a shame」は「恥を知れ」ではなく「残念だ」の意味)
これまでSNH48メンバーが中国ツイッター(新浪微博)で「定例行事」として、満州事変(九一八事変)など抗日戦争にかかわる日に「国辱を忘れるな」式のテンプレ「愛国ツイート」をすることはずっと行われてきた。
以前からここで書いているように、これは一種の「免罪符」で、中国で活動するタレントにとっては予防線だ。
あるビジュアルで台湾の青天白日旗を持ったTWICEのツウィや、東京国際映画祭で台湾独立支持ととられかねない言行をしたビビアン・スーは、大陸側で大きな批判を浴び、芸能界からしばらく干された。
そうならないための免罪符が「愛国ツイート」である。
しかし今回、カチューシャ(李藝彤)やアキちゃん(劉增艶)がInstagramで香港警察支持の投稿をしたのは、次の2点でSNH48結成以来初めてである。
(1) わざわざ中国のネット規制(グレートファイアーウォール)をかいくぐって投稿している点。
(2) 運営会社ではなくメンバー個人の意思で、過去の歴史的事件ではなく、現在進行形の問題について発言している点。
まず(1)について、SNH48メンバーのInstagram利用は運営会社も黙認しているが、本来、メンバーの情報発信は中国ツイッター公式アカウントと、公式アプリ「Pocket48」内の「メンバーの部屋(掲示板)」に制限されている。
メンバーのInstagram投稿は、そもそも中国のネット規制をかいくぐっているため、運営会社のコントロール外、メンバー個人の意思という建前だ。
運営会社が公式にグレートファイアーウォール外のYouTubeなどのサイトを利用するときは、毎週の劇場公演と総選挙コンサートのライブ放送など、SNH48のオフィシャルな海外活動だと宣言して行っている。
次に(2)についてだが、免罪符としての「愛国ツイート」は、すべて過去の歴史的事件についてであって、現在進行形の問題は注意深く避けられている。
広州GNZ48がポカリスエット広告停止をアナウンスしたことでさえ、この点で異例だった。
(広州GNZ48運営会社がポカリスエット中国のTikTok(抖音)CFを停止した件は、このブログの過去記事参照)
他には、退団したSNH48二期生ルーリー(曾艷芬)が雨傘運動を報じるメディアの画像を添付したツイートをしたり、北京の幼稚園で児童虐待が疑われた事件に言及、実際に同幼稚園まで園長に会いに出かけるということがあった。
SNH48一期生チェンスー(陳思)もごくたまに中国国内の社会問題につっこんだツイートをすることはあるが、ルーリーほど敏感な問題に思い切ったツイートをはない。
かつ、チェンスーはあくまで中国ツイッター(新浪微博)だけだが、ルーリーはFacebookも利用していた。
ルーリーが退団、というよりフェードアウトしたのは、運営会社の公式見解とは無関係な「不規則発言」が多すぎたことも理由の一つだと筆者は考えている。
ただ、今回の現在進行形の問題については、SNH48運営会社もメンバーも中国ツイッターで明確に香港警察支持、つまり香港特別行政区政府の支持をツイートしている。
それでも香港警察支持のInstagram投稿は、メンバーが少なくとも建前上、自分の意思で、国外へ向けて、かつ、運営会社の黙認の下、現在進行形の問題についてはっきり立場を表明した点で、SNH48結成以来初の出来事だ。
このことは、芸能界が自ら踏み込まざるを得ないほど、中国国内で香港の一部活動家に対する反対が強まっていることを示している。
もちろんSNH48だけでなく「火箭少女101(ロケットガールズ)」、TFBOYSメンバーも同じリツイートをしている。
何らかの形で香港警察支持、香港行政府支持を表明するのが、ここまでデフォルトになっている状態で、注目すべきはAKS中国再上陸の上海AKB48 Team SHとなる。
これが非常に微妙な対応になっている。
以下、中国ツイッターのAKB48 CHINAと、AKB48 Team SHのアカウントを見比べると分かる。
AKB48 CHINAのツイートは、間もなく開催のAKB48 Group Asia Festivalに関連し、本部、東南アジア、台北の姉妹グループメンバーを一人ずつ紹介している。
AKB48 Team SHのツイートは、メンバーが登場するファーウェイ(華為)のスマホ「HONOR(榮耀)」の公式ツイートのリツイートだ(かなりおいしいお仕事)。
微妙な対応の違いは、ツイートの冒頭のアカウント名に、中国国旗アイコンがあるかないかである。
AKB48 Team SH運営の公式アカウントは、中国で人気のネットドラマに登場した地図で、台湾が中国に含まれていないことに抗議する中国中央電視台のツイートをリツイートしており、すでに台湾が中国の一部だとオフィシャルに意思表示している。
だが今回はこの記事を書いている時点で「香港警察支持」のリツイートをしていない。
その代わりなのだろうか、突然アカウント名に中国国旗のアイコンを付けている。AKB48 Team SHメンバーも全員それにならっている。この意思表示の仕方はかなり微妙だ。
そして香港に登記されている持ち株会社AKB48 CHINAの公式アカウントは、上図のように中国国旗さえ付けておらず、もちろん香港警察支持のツイートもない。
今後の香港問題の動向や、それに連動して蔡英文が支持を伸ばした台湾総統選も、AKB48 Team SHにそれほど楽観できない影響をおよぼすおそれは十分ある。
なぜならこれらは中国側にとって「内政問題」だからだ。
「内政問題」なので、日本側が露骨に香港の引き渡し条約反対、あるいは台湾独立派支持を表明するなど「内政問題」に踏み込まないかぎり、中国と日本の関係には影響しない。
なのでAKB48 Team SHもSNH48グループも日本での活動は問題ない。SNH48グループには台湾出身メンバーがいるが、完全に中国側になっているので問題は起こらない。
ただし、AKB48 Team SHとTeam TPとの活動には今後少しずつ影響が出る可能性が高い。どちらもあくまでAKB48の姉妹グループで、AKSであれ、AKB48 CHINAであれ、いずれは「踏み絵」を踏まされるからだ。
これを書くとまた批判をうけるが、改めて、「だからAKB48と決裂したSNH48運営は正しかった」。