広州GNZ48初の全曲オリジナル公演チームNIII『第一人称』に好き勝手コメントしてみる(2)

広州GNZ48として初の全曲オリジナル公演チームNIII『第一人称』の各曲に好き勝手コメントする記事の続き。

ちなみになぜチームN”III”なのかというと、上海SNH48二期生のチームが結成されたときは、まだSNH48運営がAKB48グループのことを意識していて、NMB48のチームNの次ということでチームN”II”になった。

ただその後はご承知のとおりで、新潟NGT48チームN”III”よりも後にできた広州GNZ48のNのつくチームは、同じくチームN”III”になっている。

そんな話はどうでもよくて、今回はユニット曲から。

M05.妖精(精霊)

くり返しになるが、これはエイプリルフール特別公演で、セットリストが16曲目から1曲目まで逆順に上演されている。なのでこの曲のセンターのナオナオ(卢静)は、いつもは背中に付けている大きなリボンを胸につけている。

この曲はお聴きなってすぐ分かるように、オーケストラル・アイドル・ポップ(そんなジャンルがあるのか知らないけれど)として、完璧な編曲。歌詞なしで最後まで「ラララ」だけでも、十分鑑賞に耐える曲になっている。

イントロの管弦楽アレンジから、Aメロで楽器の数が一気に減り、しかも「ダダダダ」と「ララララ」と、歌詞までシンプルにされている。Bメロでやっとバスドラムが入る程度。

AメロとBメロがセットでくり返されて、サビに入る直前のストリングスのピッチカートもうっとりする。

そしてサビで一気に伴奏が分厚くなり、Cold Playの『Viva La Vida』そっくりにティンパニの強打で盛り上がる。

ただ、Cold Playの『Viva La Vida』を今回聴き直してみると、ティンパニが印象的なサビの楽器はほぼすべてアコースティックで電子音はない。

それに対してこの『妖精』は、ティンパニの音色が使われているが、ティンパニと同時に鳴るリードも含めて、その他の音はすべて電子音、16分音符で細かく鳴っている分散和音も電子音と、編曲の考え方は『Viva La Vida』と全く違う。

(個人的にサビでティンパニが思いっきり鳴るポップスでは、Dream Academyの『Life In The Northern Town』の方が先に思い浮かんだけれど)

ツーコーラス目の前の間奏のストリングスとフルートの音階の駆け上がりと駆け下り、その背後で鳴っているホルンのロングトーンというのは、ありがちだけれど、「どうせアイドルの曲だし」と油断して聴いていると、不意を突かれて、感動して涙が出そうになる(笑)。

ツーコーラス目のAメロは最初からクラップもコーラスも入って、ポップスらしいアレンジになり、エレキベースもはっきり聴こえてくる。

それでもストリングスの編曲ははっきりしていて、全体としての美しさや端正さは損なわれていない。

ツーコーラス目終わりの間奏、ストリングスの細かい音符の上で、ホルンがシンプルで力強く鳴る部分も、とてもアイドル曲とは思えない天国的な美しさ。

ちなみに股割りをしているのは、りんたん(肖文鈴)。

この曲だけで半年くらいは生きていける感じがする。

調性がかろうじて残っているくらいの後期ロマン派のクラシックが大好きな筆者としては、単なるアイドルポップでここまで美しい管弦楽編曲をされてしまうと、何も言うことがない。

今までのSNH48グループのオリジナル曲の中で、アイドルらしい可愛らしさと、管弦楽の荘厳さを両立させている奇跡という点で、個人的には今のところベスト。


M06.Pink Sniper

ガラッと雰囲気が変わって、現地ファンのいう「校園歌曲(キャンパス・フォークソング)」。もちろん文字どおりの意味ではなくて「エロい曲」ということ。

たぶんもとはAKB48チームK 5h『逆上がり』公演の、セクシーな3人用ユニット曲『抱きしめられたら』からの着想。

SNH48全曲オリジナル公演には、すべてこの種の「エロい曲」が入っている。

SNH48チームSII『心の旅程』は『新世界』という4人ユニット曲。

SNH48チームNII『専属派対(僕らだけのパーティー)』は『Don’t Touch』という3人ユニット曲。

SNH48チームX『ドリーム・フラッグ』は中東風の『Monster』という4人ユニット曲。

北京BEJ48チームE『ティアラ・ファンタジー』も中東風の『千夜一夜』という4人ユニット曲。

SNH48チームXII『コードXII』には、なかった。やっぱりチームXIIは清純派アイドルのイメージを維持したいらしい。

そして今回の広州GNZ48チームNIII全曲オリジナル公演『第一人称』では、この3人ユニット曲『Pink Sniper』。『第一人称』の予告編映像で使われていた曲。

この曲は、この種の曲としてはおそらく典型的なアレンジなのだと思う。マイナーコードで、ピアノの低音をベース代わりに使い、トランペットが鳴るイントロ。

Bbマイナーの曲だが、イントロのピアノの低音がトニックのBbからGbまで上昇進行になっている。

編曲で個人的に好きな部分は、イントロの低音が上昇進行なのに、Bメロの途中でピアノとストリングスがいっしょにDd⇒C⇒B⇒Bbと下がっていくところ。

よくある、メロディーが乗った状態でベースが半音下がるコード進行とは無関係なところで、メロディーも何もないのに、ベースラインの編曲だけが不意打ちで半音下降し、それが曲全体のテーマにもなっている、低音の上昇進行と逆行しているので、すごく気持ちがいい。

サビでは、イントロの伴奏がそのまま使われているので、やはりこの曲全体のテーマはこのベースラインの上昇進行。

言うまでもなく、右から左へ飛んでいくヘリコプターや、その他、パトカーのサイレンなど、きめ細かく環境音が入ってくるのも、編曲の作り込みがていねい。

M07.上下左右

この曲はメンバーの人選からして、キュートなアイドルポップ狙いで、その狙いどおりに作られている。

この曲も手抜きがない。

Aメロから直接サビになるシンプルな構成。Aメロ冒頭の「右边的是我」の部分の伴奏で、循環コードにない変わったコードが使われている。また、サビ前に2拍余分に入っている。

サビも、さらっと聴くとただの8ビートに聞こえるけれど、よくよく伴奏のブラスの音を聴くと、16ビートだったりする。

ツーコーラス目のAメロ前半で、キンキンと細かい音符が鳴り、バスドラムも細かいビートで、ギターも細かいカッティングで入ってくる部分は、ほんの10秒弱だが、ものすごくきめ細かく編曲されている。まさに神は細部に宿る感じ。

こういう編曲は、きっと聞き流されるだけなんだろうけれど、最終的には楽曲のクオリティの印象を確実に上げるので、制作チームの努力にはただただ敬服。

そしてツーコーラス目終わりのRAP。ここでRAPが来るとは誰も思わない(笑)。作曲の勝利。

アウトロも手抜きなし。

M08.暴走少女

この曲と、この後の『Mario, My Love』に、日本の1980年代サブカルチャーへの屈折した追想がいちばんよく現れていると思う。

もちろんAKB48的には、この『暴走少女』という曲は、メンバーが「特攻服」をモチーフにした衣装を着ていることからも、AKB48の『マジすか学園』がインスピレーションの元。

メンバーには当然AKB48ヲタがたくさんいるので、メンバーにとっても『マジすか学園』の雰囲気たっぷりのユニット曲を歌えるのは、とてもうれしいはず。運営の狙いもそれ以外の何物でもない。

メロディーも編曲も、コテコテの1980年代の日本のアイドルポップで、1970年代生まれの日本人にとっては、とても懐かしい曲調だと思う。

マイナーのメロディーは、AメロからサビのCメロまで、日本人ならどこかで聴いたことのあるメロディーばかり。たとえばチェッカーズの『ジュリアに傷心』とか。バッキングのギターは、1960年代のサーフ・ミュージック。

そういう1980年代のコテコテのアイドル曲を、「特攻服」を着て、中国の女性アイドルグループが歌っているという、この屈折ぐあいをじっくり味わうべき曲(笑)。

09.Mario, My Love

そして、ピーチ姫からマリオへのラブソング。非常に美しいソロのバラード曲。リカちゃん(唐莉佳)が歌っているのがぴったり過ぎるくらいぴったり。

この曲もストリングスのアレンジが非常に素晴らしい。華麗なストリングスのイントロから、Aメロ冒頭で、1小節の一拍目だけにピアノの和音が鳴る究極のシンプル編曲への、突然の展開も、鳥肌モノの素晴らしさ。

くり返しのないAメロから、たっぷりのブレイクを置いて、いきなりサビに入る展開も美しい。サビは再びただただ美しいオーケストラ編曲。

ワンコーラス目終わりの間奏、オーボエのメロディーで、すでに泣ける。ここまでドラムスが全くなく、本当に管弦楽だけの編曲。

そしてツーコーラス目のAメロで、ドラムス、エレキベース、エレキギターが入ってくるというお約束の編曲。コーラスもしっかり入る。

ツーコーラス目のサビへのつなぎはブレイクなしで入る。オーケストラ変奏にエレキギターのアルペジオが重なって、次の間奏では、分厚いストリングスの上に、ディストーションギターが本格的に鳴り始める。

このパターンのバラード編曲としては、完璧すぎて非の打ちどころがない。

最後のサビのリフレインの冒頭で、再びピアノ和音だけの伴奏に静まってから、再び壮大な伴奏、そしてアウトロへ向けてのサビの終わりの部分がくり返される。

これも定番の作曲構成だけれど、こういう定番を編曲も含めてきっちりはめ込むことができているのがすごい。

なのでBメロがなくても、4分間のバラードとして完全に成立している。

ちなみにリカちゃん(唐莉佳)は、公演ではマイクをオフにして、口パクで歌っている。

しかし、SNH48公式アプリ「Pocket48」のオンライン生放送で、伴奏も何もなしで、彼女がバラード系の曲を歌っているのを何度も聴いているが、たぶん広州GNZ48チームNIIIの中では、歌唱力がもっとも安定しているメンバー。

なのでソロ曲に起用されているのは、とっても妥当な人選。

以上でユニット曲は終わり。

驚くべきことに、この広州GNZ48チームNIII『第一人称』公演、ここまで捨て曲なし。

ちょっと聞き流しそうな曲でも、きっちりと狙いどおりに、あるいは編曲の細部まできめ細かく作り込まれている。

これだけクオリティの高いアイドルポップを聴けて幸せだ。

はっきり言って、香港、台湾、マレーシア中華圏を除く、中国大陸部のポップスの作曲・編曲のレベルは、21世紀の今にいたっても聞くに堪えないものばかりだ。

某TFBOYSの楽曲なんて、作曲からして聴けたものではないが、中国大陸ではそういう低レベルな洗脳曲の方がヒットする。聴衆の耳のレベルも低いので、洗脳曲ばかりヒットするのは仕方がない。

そういった音楽環境の中で、SNH48グループの公演曲は、たぶん品質が高すぎる。一般人の耳のレベルを遥かに超えている。

きめ細かい編曲がいかに曲の最終的な完成度に貢献しているか、自分で音楽制作をやったことがない中国の若者には、おそらく感じることも、理解することもできないだろう。

J-POPの精緻な編曲は、黒人音楽が基礎になっている欧米のポップスとは全く違うので。

日本でSNH48グループのオリジナル公演曲を聴いて、一人で感動に打ち震えている筆者って、何なんでしょうね(笑)。