SNH48「総選挙」を政治的文脈で語りたがる日本人

「中国は選挙がないのに、SNH48の総選挙があるのはすごい」など、いまだに勘違いしてる日本人が多すぎるので、まとめておく。

「総選挙」を政治的文脈で語りたがる日本人の「上から目線」

現地メンバーやファンには、当然、中国以外の国で総選挙という制度があることを知っている人はいる。ただ「総選挙」は単なるイベント名で、いちいち民主主義を連想しているわけではない。

日本のAKB48ファンは「総選挙」を民主主義的なイベントだと思っているんだろうか。そう思っているファンは小学校の社会からやり直そう。

SNH48「総選挙」の正式名称は「総決選」だ。SNH48メンバーにもAKB48ヲタはいるので、彼女たちも現地ファンも「総選(总选)」という言葉をよく使うが、政治的意味でつかっていないのは、日本の48系ファンと同じ。

日本人よりマジメに勉強している中国人の学生さんたちは、ホンモノの選挙が1人1票しか入れられず、金を出せば1人で何票も入れられるイベントがホンモノの選挙ではないことくらい分かっている。

日本で言う金権政治も1人1票だから必死で利益誘導するわけで、金さえあれば1人何票でも投票できるなら大金持ちを1人買収すればいい。また中国にも政治家や官僚の腐敗があることは中国人自身が知っている(表立って言えないだけで)。

中国人は民主主義や選挙について無知だとか、素朴なあこがれを持っているとかいうのは、日本人の単なる勘違い、思い上がりだ。

ましてSNH48「総選挙」を、現地ファンが政治とむすびつけて考えているというのは、現地SNH48ファンのような中国の一般市民感覚に無知すぎる。

「総選挙」は単なる商品の売買

秋元康が総選挙のパロディーとして「総選挙」を企画したと、本気で信じている日本人がいることにも驚く。キャバ嬢に貢ぐ行為や芸術科のパトロンを組織化・商業化してたようなビジネスを「総選挙」と称しているだけで、パロディーでも何でもない。

(それからAKB48「組閣」も組閣のパロディーではない。ただ「ドラフト」はもしかするとホンモノのドラフトのパロディーと言えるかもしれない)

48系の総選挙は、お金を払って「自分が応援するメンバーの知名度が上がってうれしい」という商品を購入する、単なる購買行動にすぎない。政治的な含意はまったくない。それは48系ファンがいちばん分かっていることだろう。

「総選挙」では日本ならまず日本円を「票」という通貨に両替する。レートは約1,000円=1「票」。そして1「票」で「推しメンの知名度が上がってうれしい」という商品を購入する。自分の経済力の範囲内でたくさん買えば買うほど、消費者として得られる満足も上がる。

中国のSNH48「総選挙」ならレートは約35人民元=1「票」だ。

AKB48よりはるかに効率的なSNH48「総選挙」

SNH48「総選挙」はAKB48「総選挙」よりはるかに効率的に運営される。人民元をWeChatやAlipayの電子マネーにしておけば、CDの実物を購入することなく、すべてウェブで完結できる。

中国人はCDを1枚1枚開封し、ウェブサイトから1票ずつ投票させるなどという、非効率でアホらしいビジネスはやらない。

1票の価格はじっさいには78元から35元まで幅がある。一度に48票まとめて購入すると35人民元にディスカウントしてもらえるためだ。当然、消費者には48票まとめて購入したいというインセンティブが働く。

その結果、各メンバーの応援会は両替のレートを有利にする、つまり「票」単価を下げるため、クラウドファンディングで集金して投票をとりまとめる。

クラウドファンディング・サイトを利用するので、各メンバーの応援会の集金状況が公開される。結果発表の前から応援会はお互いに「票読み」できることになる。

集金活動そのものをゲーム化するSNH48メンバーの応援会

その状況を利用し、応援会どうしが協力して集金活動そのものをゲーム化している。

人気のレベルが同じ、つまり「総選挙」最終結果の順位が近いと予測されるメンバーの応援会どうしが、投票期間中にたとえば7日間と期限を区切って、集金額を争うゲームのルールを設定する。

このブログでも以前ご紹介したが、限られた期間、限られたメンバーだけで「ミニ総選挙」をするイメージだ。

たとえば毎日集金額が最下位のメンバーの応援会は淘汰されてゲームから退場させられるが、ゲームの参加料として一定額をディポジットすれば敗者復活し、そのディポジットは最終結果の順位で各応援会に分配されるなどなど、さまざまなルールでゲーム化される。

各応援会は中国のチャットソフト「QQ」に応援会のサークルを作って、応援会内部でリアルタイムで入金を呼びかける。

現地ファンの中でプログラミング技術がある人が、クラウドファンディング・サイトへの入金をリアルタイムで「QQ」へメッセージで送信するプログラムを書いている。

誰かがクラウドファンディング・サイトへ入金すると、「QQ」の応援会チャットサークルに入金したファンのハンドルネームと入金額が自動ツイートされる。それを見てチャットサークル内のファンが「○○さんありがとう!」「もっと行けるぞ!」と盛り上がる。

クラウドファンディング・サイトの利用にしても、その入金状況をIFTTTっぽくチャットソフトの「QQ」へ連携する点についても、SNH48「総選挙」では運営会社も応援会もITを駆使する。

「ミニ総選挙」でさえ勝てない応援会は、じっさいの「総選挙」でも勝てない可能性が高まるため、これら「ミニ総選挙」でも各応援会は半分ゲームを楽しみつつ、半分は本気で集金活動する。

全メンバーの集金状況は中国2ちゃんねる(百度貼吧)で現地のファン全員が共有する。

各メンバーのファンどうしが、ライバルのメンバーの集金状況を把握し、応援会が「QQ」のチャットサークルでさらに入金を呼びかける。

ただし、あえて応援会に入らず、単独で大量投票をする「富豪(土豪)」がいるので、集金状況が日々共有されていても、最終結果を完全に予測することはできない。この予測不可能性が集金ゲームをさらに面白くする。

たとえばSNH48運営会社は、メンバーによる公式アプリの生放送機能(日本でいうShowroom)にも投票機能を追加している。単なる応援アイテムではなく、じっさいの投票ができるのだ。

生放送中の投票数の上限は1回あたり99票に設定されているが、「富豪」がメンバーの生放送中に突然あらわれて、99票を連投し始めると、その生放送を見ているファンがびっくりする。隠れたパトロンの存在が明らかになるからだ。

99票は3,465人民元、日本円で約5万5千円。メンバーがShowroom的なサイトで生放送していると、「富豪」ファンがいきなり5万円単位のお金を次々に投げ込んでいくというわけ。

こういう伏兵の「富豪」がまた中国2ちゃんねるで一つのニュースとして共有される。

それでもSNH48「総選挙」を政治的文脈で語る意味はあるか?

各メンバーのクラウドファンディング・サイトによる集金状況が、現地ファンに共有され、集金行為そのものがゲーム化されている。そのゲーム化に、運営会社も現地ファンもITを駆使している。それがSNH48「総選挙」の本質なわけだ。

お互いの手札を見せたり、隠したりしながら、掛け金を釣り上げていって、最後にプレーヤーが得るのは現金ではなく、単なる満足感でしかないが、ゲームのプロセス自体を楽しむことが、毎年夏の一大イベントになる。

もちろんSNH48グループのメンバーたち自身も、このゲームのプレーヤーだ。

選挙期間中、各メンバーも自分や他のメンバーの応援会の集金状況を把握できるため、公式アプリ生放送や中国ツイッター(新浪微博)を通じたファンへの投票の呼びかけ、または、わざと呼びかけないなど、さまざまな戦術をとる。

これでもSNH48「総選挙」を政治的文脈で語る意味はあるだろうか?

SNH48「総選挙」を政治的文脈で語る日本人は、中国人がくり広げる「総選挙」のマネーゲーム感覚について無知すぎるのだ。