テテちゃん(黃婷婷)が運営会社に表立って抗議した件、たまたま最近の例ということでご紹介したが、他のトップメンバーでも同じようなことがある。というより最近増えている。
姉妹グループのメンバーについて書かないのはわざとではなく、運営会社に抗議するだけの組織力がないだけ。今回のテテちゃんのケースは、彼女の応援会がそれだけ強大だという証拠だ。
これは純粋に個人的な意見だけれど、SNH48運営会社のタレント・マネジメントが本当に全然ダメなら、他の芸能事務所に移籍する選択肢がある。中国で全国区のタレントが契約している芸能事務所は複数ある。たとえば北京光線伝媒など。
ご承知のように、SNH48運営会社と各メンバーが結んでいるタレント・マネジメント契約は8年の縛りがあり、メンバー側の都合で解約すると以下の違約金を課せられると言われている。
契約から3年以内:500万人民元
契約から3~5年:800万人民元
契約から5年以上:1,000万人民元
実際には過去、裁判所の裁定でこれ以下の金額になる。そして、一期生の趙嘉敏は逆にSNH48運営会社を訴えている。本当にSNH48メンバーを欲しがっている事務所があれば、この金額なら負担するだろう。
または、自分でマネジメント会社を作る選択肢もある。たとえば日本での活動から帰国したalanは「阿蘭工作室」という事務所を作って活動している。同様のタレントは他にもいる。
そして、キクちゃん(鞠婧禕)のようにピンで活動できるメンバーについては、運営会社が正式に卒業のルートを作るべきではないかという、現地ファンの意見もある。ただ、そう簡単に手放さないだろう。
個人的に思うのは、トップメンバーの応援会がSNH48運営会社を表立って攻撃して、いったい誰が得するんだろう?ということだ。
SNH48運営会社は上場企業ではないが、投資ラウンドのシリーズCを終えており上場一歩手前だ。
そんな同社にとって当面もっとも重要な利害関係者は、当たり前だが、投資家である。投資家にいかに安定した配当や、株価の上昇による売買益を与えられるか。
各姉妹グループふくめ、「ファン経済」から得られる収益の伸び率は、これまでのように150%ペースで伸び続けることはない。
日本のように広告代理店が主要メディアを握っている環境と異なり、48系グループの「ファン経済」は中国ではサブカルチャーから脱するのは難しい。その限界を運営会社は理解している。
たとえ「ファン経済」の成長が続くとしても、株主に安定した収益配分をするには、「ファン経済」だけに依存する事業モデルはリスクが高い。
そのリスク分散のため、ネット映画やネットドラマを制作して版権収入を得る「IPビジネス」や、不動産ディベロッパーと提携してSNH48グループ自体をコンテンツとして提供、不動産収益の配分を受ける「文化地産」などに事業を広げている。
特定メンバーのファンが運営会社に抗議しても、現時点の収益を別のメンバーから付け替えるだけで、収益自体が増えるわけではない。
逆に、応援会が騒ぎを大きくして内紛を明るみに出し、「ファン経済」というビジネスモデルのリスクの高さを外部に広めれば、SNH48運営会社に新たに投資する投資家がためらい、「あんな面倒なグループのファンになりたくない」とファンも増えなくなる。
その結果、パイ自体が増えず、最終的に損するのは各メンバーであり、その応援会だ。
本当にメンバーの資源を増やしたければ、応援会は「内紛」の騒ぎを大きくして「ファン経済」の社会的評価を下げるのではなく、組織力を活かして地道に外部にSNH48の魅力を発信するのが賢明だろう。
…と考えるのは、筆者だけだろうか。「村の外」の投資家から見れば合理的だと思うのだが。
P.S.「文化地産」の投資スキームはたぶんこうじゃないか、と考えてみた。
単にビルの一角を借りて劇場を開業する場合、開業時に劇場建設のまとまった投資をする。
開業後、チケットやグッズ販売などの売上から、家賃や人件費などを引いた残りの利益で回収する。初期投資を回収できたら、その後は利益がそのまま運営会社の利益になる。ローリスク・ローリターンの投資で、インカムゲインのみ。キャピタルゲインは無し。
一方「文化地産」の場合、劇場建設投資へ不動産会社からの投資を受けるかどうかと、入居する不動産自体に投資するかどうかの組み合わせがありそう。
どちらもやらないなら、単にビルの一角を借りるのと同じなので、文化地産のスキームは3通りになる。
劇場建設の投資へ不動産会社からの投資を受けるには、自社がそれだけの信用があることが前提になる。劇場建設へ投資を受ければ、開業後の劇場からの収益も不動産会社と分け合うことになり、インカムゲインは減る。
初期投資が抑えられる代わりに、インカムゲインも減るので、投資が回収できる期間は短縮できない可能性が高いが、バランスシートを膨らませなくて済む。要するにリスクが低い。
そして入居する不動産自体に投資する場合は、完成前と完成後でさらに2通りに別れる。
不動産の完成前ならプロジェクト・ファイナンスに参加することになるし、完成済みの不動産なら「文化地産」としての投資を募集していれば証券化されているはずなので、証券を購入して部分的な所有権を得ることになる。
この場合は、通常の劇場経営によるインカムゲインの他に、入居した不動産の価値が上がれば、所有権(証券)を売ってキャピタルゲインを得て、投資の回収を早めることができる。
また、自社の努力で劇場が入居したことによってさらに不動産の価値が高まれば、自社が得られるキャピタルゲインもそれだけ大きくなる。
ただしキャピタルゲインはマイナスになる可能性も当然あるので、ハイリスク・ハイリターンのスキーム。
女性アイドルグループというコンテンツが、劇場を出す環境にどれだけ合っているかを考えて、これらのうちから投資スキームを選ぶことになる。
当然、SNH48のコンテンツとしての価値も上げる必要があり、それにはメンバーが芸能界で活躍する必要があるが、運営会社から見ればそれが誰であろうと関係ない。
運営会社が「資源」という単語を使うので、ファンは運営会社がメンバーに個別に「投資」して回収していると錯覚するが、タレントにかけるお金は投資ではなく単なる費用だ。各メンバーが個別の投資項目なわけではない。
運営会社はメンバーにどう費用を配分すれば、全体として収入が最大化できるかを考えているのであって、個々のメンバーの事情は関係ない。
育成系アイドルグループでは、各メンバーに飛び抜けた才能があるわけではない。メンバーを個別に見れば人気が出れば出るほどギャラが増える余地は小さくなる。かつ、一人のメンバーの稼働時間は当然最大一日24時間。
運営会社が300人ものメンバーと契約しているのは、合理的に考えて、ギャラの増える余地のあるメンバーを育てて収入源にすることが目的だ。
資本家が合理性に行動しているところへ、ファンが感情的に駄々をこねたのでは、メンバーも応援会も運営会社も全員が損をする。
応援会として合理的な行動は、人気のないメンバーに資源が配分され、そのメンバーが新たに収益源になった結果、運営会社の収益の合計、つまりパイ全体が大きくなり、その収益が資源(費用)として自分の応援するメンバーに回ってくるのを待つことだ。これなら三者が全員得する。
これ以上合理的な行動があるだろうか。