上海SNH48社長・王子傑がKONAMIの偉い人から『エクスビート』運営会社社長になった頃のお話

上海SNH48グループ運営会社社長の王子傑が、SNH48を運営する前、ゲーム開発企業家としてどういう経歴をたどったか、中国ウィキペディア(百度百科)から抄訳してみた。

誰でも自由に編集できるのでどこまで正確か分からないが、良くも悪くもSNH48の現状と似ている。

筆者はヘビーゲーマではないのでマルチプレーヤー・オンラインゲームの歴史は分からない。

今でこそ中国のテンセント(騰訊)が『PUBG』の運営をしたり、パクリゲーと言われつつネットイーズ(網易)もマルチプレーヤーゲームを運営するのが当たり前になっている。

しかし今から15年前、王子傑の経営する「久遊網」が日本で『リズミィ』『ダンシングパラダイス』『X-BEAT』と呼ばれていた『Audition』の版権を韓国から購入し、人気ゲームとして運営することに成功したのは、中国では「先駆者」と言えるだろう。

その後、2010年に入って「久遊網」が没落したのは、クオリティの低いゲームを次々リリースした久遊網自体の原因もあるが、中国IT業界が三大企業「バイドゥ(百度)」「アリババ(阿里巴巴)」「テンセント(騰訊)」の寡占状態になってしまったこともある。

それら大資本がオンラインゲーム市場に参入することで、「久遊網」のような中堅企業が駆逐されてしまったと言える。

アメリカで例えれば、グーグルやヤフーが直接オンラインゲーム市場に参入するようなもので、とても勝ち目はない。

中国におけるこれら三大企業のプレゼンスは、XBOXでゲーム市場に参入したマイクロソフトの比ではない。

久遊網がたどったこの流れは、SNH48とよく似ている。

久遊網にとっての韓国T3が、SNH48運営会社にとってのAKSで、ビジネスモデルや版権を購入した後、その「続編」、SNH48で言えば北京、広州の姉妹グループを中国国内でリリースして独立した。

ところが中国動画サイト最大手が、韓国『Produce101』のパクリ、または正規の版権でアイドルグループ・オーディション番組を次々と放送し、日本の48系アイドルは中国でブレイクできなかった。

ここでもテンセント(騰訊)のような大資本が『Produce101』の版権を購入し、K-POPスタイルの女性アイドルグループ「ロケットガールズ」をデビューさせ、SNH48運営会社のような48系アイドル運営の中堅企業を圧倒してしまった、という流れだ。

あえて久遊網とSNH48運営の違いをさがすとすれば、オンラインゲームはとても広い概念で、大資本もふくめて技術力さえあればどの会社でも参入できる。

他方、日本式の48系女性アイドルグループはかなり特殊なコンセプトのコンテンツで、少なくとも中国ではSNH48が市場を独占している。(AKB48 Team SHの現状の規模は小さすぎて話にならない)

2017年ごろまでSNH48に追いつこうとした中国の48系女性グループ、「1931」「蜜蜂少女隊」「SING」「ATF」「Idol School」などは、倒産するか、コンセプトを変更するか、ほぼ活動停止状態のいずれかになっている。

SNH48がこの独占状態を利用してうまく運営し続けられるか、自らコンテンツの質を落として久遊網のような失敗をくり返すか。王子傑社長しだいだ。

王子傑さんがんばって下さい(汗)。

では、ここから日本語抄訳スタート。

王子傑(百度百科)

1963年生まれ、原籍:浙江省寧波。(訳注:後述するように日本国籍)

上海復旦大学本科卒業、日本・同志社大学修士号取得。「久遊網」代表取締役および総裁、およびアジア地区の著名なITインタラクティブ・エンタテインメント技術のエキスパートであり、企業家。

職務経歴

2003年初め、上海に中国最初のITインタラクティブ・エンタテインメント・ポータル「久遊網」を創設、代表取締役兼総裁を担当。

同社を率いることで、健全でファッショナブルなネットゲームのサービスコンセプトにより、中国国内のインタラクティブ・エンタテインメント産業の発展に非常に大きな影響を与え、業界や一般市民に認められた。

かつ、自ら『超級舞者 Audition』『超級楽者 O2Jam』『瘋狂飆車』などのオンラインゲームシリーズを開発した。

数年の発展の後、久遊網は2007年度オンラインゲーム営業収入で中国シェア第5位を獲得、マルチプレーヤーオンラインゲーム分野では連続第一位を獲得した。

2008年2月末までに登録ユーザ数2.8億、同時オンラインユーザ数最高100万で、中国国内のインタラクティブ・エンタテインメント産業のリーダーの一人となった。

日本での努力

王子傑は、1963年生まれ、原籍は浙江省寧波だが、生まれは上海。

1981年、上海復旦大学数学科に入学。卒業後、上海市計算技術研究所の実習研究員に任命された。(訳注:当時の中国では大卒生の就職先は多くの場合政府が割り当てた)。

当時の計算技術研究所は、米国ITDC (International Technology Development Corporation)との合資で上海凱斯特ソフトウェア有限公司を設立、資本金は50万ドル。

計算技術研究所は株式の75%を保有し、中国と海外の合資による初のソフトウェア企業だった。

王子傑氏は1987年5月、ソフトウェア研究開発エンジニアとして米サンフランシスコのITDC社で、PCソフトの開発業務に一年間従事。

1980年代後半、上海では日本留学熱がおこり、日本の工業化に対する中国の好奇心は旺盛だった。

1990年2月、王子傑は同志社大学大学院に留学し、ロボットの自動制御システムを研究した。

修士課程を修了し、修士号を取得した後、1993年4月にKONAMIの神戸にある技術研究所に入所、フットコントロール型業務用ゲーム機の開発を担当、その後、研究所副主事に昇格した。

1996年8月から王子傑氏は新たな挑戦を始める。

KONAMIグループのアーケードゲーム機事業本部アーケードゲーム機事業部主任として、主に海外市場業務を担当。このときゲーム開発者から、事業家に転身した。

この時期、KONAMIの事業上のプレッシャーは大きく、アーケードゲーム機から家庭用ゲーム機への転換期にあった。

王子傑氏は引きつづき『ときめきメモリアル』などの作品を中国市場へ輸出した。

1998年3月からKONAMIの家庭用ゲームソフト事業本部アジア市場総責任者となり、同時にKONAMIグループの執行役の一人となった。

2000年4月、中国でKONAMIソフトウェア(上海)有限公司の設立責任者となった。

これはKONAMIが米国についで海外に設立した2社目の家庭用ゲーム開発子会社だった。その後、王子傑は同社の代理総経理となった。

1999年に上海依星ソフトウェア有限公司という会社を設立している。主な事業はゲームソフト開発で、オフラインPCゲームと2つのオンラインゲームを開発し、日韓のオフラインゲームの中国国内最大の代理店となった。

この時期、中国国内のゲーム市場は明らかにオンラインゲームに転換していた。

王子傑氏は2003年初めに上海潤星網絡科技有限公司を設立、これが後に久遊網となる。

このとき、中国国内のオンラインゲームの主流はMMORPGだった。この種のゲームはユーザの粘着性が強いが、モンスターを倒してレベルアップするという形式は、かならずしも全てのゲームファンが好むものではなかった。

業界の内情に詳しい王子傑は、当然それ以外のチャンスがあることを知っていた。それはカジュアルゲームだ。MMORPGの一種だがコンテンツには大きな違いがあった。

2003年、中科英華(600110.SH)は子会社の上海科潤投資グループを通じ、久遊網に2,400万人民元を投資した。中科英華の支配株主は杉杉集団で、この件は同集団代表取締役の鄭永剛の決定に違いない。

2,400万人民元はオンラインゲーム企業にとって、大した金額ではなく、すぐに使い果たしてしまった。

つづいて米国のカーライル・グループ、招商局阜新資產管理有限公司と、韓国政府の情報産業部をバックとした中韓無線創業投資基金が1,400万ドルを融資した。

融資後の改組で久之遊信息技術(上海)有限公司が成立し、これが久遊網の事業主体となる。

その後、Dragon Grooveが初期投資として500万ドルを投資した。

Dragon Grooveは日本のアジアングルーヴが中国に設立した投資基金管理会社で、管理資金は約2億ドル。同社の責任者・孫泰蔵はソフトバンクグループ総裁・孫正義の弟だ。

2005年久遊網は韓国O2Media社の『O2Jam(勁楽団)』と、T3 Entertainmentの『Audition(勁舞団)』を同時に輸入した。

(訳注:『Audition』は日本では『リズミィ』『ダンシングパラダイス』『エクスビート』などと呼ばれていたWindows用ゲーム)

当時『O2Jam』は世界初のMP3音楽によるカジュアルゲームで、2005年2月24日に中国国内で運営を開始、6月には同時オンラインユーザ数30万を突破した。

Audition(勁舞団)の運営

このオンラインゲーム『Audition』では、アイテム課金が明らかにビジネスモデルの鍵となっている。

2008年6月、久遊網の総裁・吳軍がインタビューを受けたとき次のように話している:ゲーム内のアイテムは200~300人民元で、リアルな世界の洋服より高額だが、この価格はゲーム内のごく少数のヘビープレーヤーに向けたもので、プレーヤーの月平均消費金額は50人民元前後だ。

オンラインゲームのプロモーションには一定の規制があり、2004年4月12日、国家広電局はテレビ局にPCゲームの番組を放送してはいけないという通達を出した。

しかし久遊網は別の道をさぐり、上海東方衛星テレビの『舞林大会』という番組と提携。

この番組は一躍人気番組となり、そのPR原稿には「オンラインゲーム業界のプロモーションに新たなモデルを作り出した」とある。

『Audition』運営開始後、ユーザ数は直線的に増加し、2005年5月、同時オンラインユーザ数は8万人、一年後の2007年3月には80万を突破。中国オンラインゲームでユーザ数最大のカジュアルゲームと呼ばれた。

この時期、久遊網は広く注目を集め、2006年1月、『FORTUNE』中国版の「もっともクールな企業」に選ばれ、同8月にはIT情報サイト「Red Herring」の2006年度「アジア最優秀企業100強」に選ばれた。

王子傑氏自身も、2006年に上海市白玉蘭記念賞を受賞。この賞は上海の経済と社会の発展に貢献した外国籍の名士を表彰するものだ。

(訳注:このときの受賞者リストに王子傑が日本国籍であることが明記されている)

上場計画の頓挫

2007年6月15日、久遊網はIPOを確定、7月12日に日本の大阪証券取引所への登録と、初回10.67万株の発行を計画した。募集価格は1株あたり20万円、213.4億円を調達する計画だった。

しかしこの重要な時、7月3日にT3 Entertainmentが突然中国メディアに「久遊網が我々を裏切った」と書簡を送り、久遊網を提訴するとした。

T3 EntertainmentのCEO Kiyoung Kimは、「この数週間、我々は何度も誠意をもって、支払いの遅れている大量の債務について久遊網と協議した。大変遺憾である……」

久遊網は『Audition』で成功を収めた後、「その後の心配」を解決するため、自ら『超級舞者 Super Dancer Online』『超級楽者 Burst A Fever』を開発、公式サイトで「『超級舞者』はすでに北米、欧州、東南アジア、インドなど全世界41の国と地域への輸出契約を締結している」と紹介していた。

しかし状況は変化し、2007年5月21日第九城市(訳注:上海のゲーム開発企業)は『勁舞団2』の中国国内独占運営権を獲得した。『勁舞団2』はオンラインコミュニティ・ゲームを指向していた。

久遊網は『超級舞者』『超級楽者』を必死でプロモーションしたが、やはり『勁舞団(Audition)』が営業収入に占める割合は変わらなかった。

2007年7月、「大度咨詢」はオンラインゲームに関するレポートで、『超級舞者』『超級楽者』のオンラインユーザ数は10万前後を維持しているが、『Audition』のオンラインユーザ数80万と同じクラスのゲームではないと指摘している。

7月30日、事態は進展を見せ、T3 Entertainmentのパブリッシャーであるイェダンは一方的に久遊網との提携を解消した。

(訳注:この件は4Gamer.netのこちらの記事でも報道されている。「Nineyou」が久遊網)

第九城市はそれに続いて、イェダン、T3と契約を締結、中国国内、香港、マカオで『勁舞団(Audition)』の独占運営権を獲得したと発表した。

久遊網は直ちに『Audition』の中国語登録商標を所持していることを発表、中国大陸での合法的な商標の使用者だと強調した。

同時に、T3とイェダンが中国・台湾地区で『勁舞団』の商標を無断使用していることで提訴した。第九城市は、いかなる企業も『勁舞団』の中国語商標を有していないと反応。第九城市も申請中であるとした。

8月21日、中科英華は、16.97%の株式を保有している久遊網が、8月16日に日本の大阪証券取引所に上場撤回の申請を提出し、すでに同取引所の承認を得たと発表。

その後、紆余曲折をへて、9月21日、久遊網はすでにT3と和解し、『勁舞団(Audition)』代理運営権を獲得、2010年8月まで提携を行うと発表。

その原因は、第九城市が期日までに最初の契約金を支払わず、『勁舞団(Audition)』の代理運営権を失ったためと言われている。

金額ももう一つの重要な側面だった。9月13日、久遊網副総裁・吳軍は騰訊科技の取材を受け、次のように話した。

久遊網は、第九城市が支払うと回答した3,820万ドルよりさらに高い4,500万ドルを最低保証金として支払った。久遊網は2年以内にこの費用を支払う。

我々も譲歩した。彼らも譲歩した。我々は価格の面で譲歩し、彼らはいかなる理由があろうと、我々の上場に不利な状況を作り出してはいけない。

久遊網とイェダンの和解協定には、双方が共同で『Audition』の商標所有権を持つと規定されている。

そして再度係争が起こるのを防ぐため、協定には双方が互いに顧問を派遣し、ともにゲーム運営面で「不透明になっている問題を透明化する」ことと定められている。

ゲーム業界関係者・王楽が指摘するのは、久遊網と韓国T3、イェダンの和解は、米IDGとソフトバンクに代表される二大利益集団の博打の結果であるということだ。

今回の係争は久遊網とG10グループの上場計画をともに頓挫させた。G10グループはIDGが韓国で合資により設立した会社で、最終的な和解は予想されていた。

劇的な2007年を経験した後、王子傑は久遊網の新年会で経営の成果を振り返っている。

「登録ユーザ数は2.8億を突破、運営収入と純利益は2006年度比で100%以上の増加。社員数は1,200人に達した」

業界では同社の収益を約9億人民と見積もっていた。

「低俗ゲーム」の評価

文化製品は単にビジネスの性格だけでなく社会的な性格もある。ユーザ規模が拡大するにしたがって、社会がオンラインゲームに注目するのは必然だ。

ChinaJoyの前夜のことだった。

(ChinaJoyとは中国国際デジタル・インタラクティブ・エンタテインメント・プロダクトおよびアプリケーション博覧会のことで、中国国内のゲーム業界でもっとも重要な博覧会だ)

2007年上場を阻止され、2008年に王子傑と久遊網は再び「低俗化」によってさらに注目されてしまう。その事件の起こりは次のようなものだ。

2008年7月14日文化部文化市場司、国務院新聞辦公室網絡局が開催した「オンラインゲーム監督強化連絡会議」において、典型的な問題として通達があった。

「『Audition』など一部のオンラインゲームは、運営プロセスで有害情報を完全にスクリーニングしておらず、ゲームデザインが低俗化に向かっており、ゲームのプロモーション活動もプレーヤーに対して有害な誘導をしているなどの問題がある。

法制度の政策に違反し、社会道徳に背いている。こうした現象はすでにプレーヤー、とくに青少年の健全な成長に危害を加えている。」

この2日後、王子傑は第6回ChinaJoy開催期間に次のように発表している。

「『勁舞団(Audition)』はオープンなプラットフォームであり、参加者がゲーム内で何を話しているか、我々はすべて公開している。

したがって文化部の言うような状況が発生することはありえない。今回名指しで批判されたことを、我々は我々自身への警告とし、改善をすすめる。

『勁舞団(Audition)』が「一夜の愛情」を売りにしているというのは、完全なデマ、誹謗であり、ライバル企業の悪意による競争であることを排除しない」

実際、2008年以来、久遊網と『勁舞団(Audition)』についての論争は絶えず起こり、久遊網にも弱みがあった。大型カジュアルゲームには青少年という明確なターゲットがあったためだ。

史玉柱と彼の経営する上海征途網絡科技と巨人集団のゲームは、史玉柱の多弁な性格のためメディアからの何重もの攻撃に包囲されたが、過度なプロモーションはかえって同様の疑念を持たれなかった。

史玉柱が強調したのは、オンラインゲームの成人向けの性質は、たとえばレーティングのような考え方で、企業にとっての非常に高い利益が社会に与える影響を中和するということだった。

あるメディアは『勁舞団(Audition)』の「七つの大罪」を次のようにまとめている。

サブカルチャーの標榜、ゲーム内の下品な言葉の氾濫、未成年への恋愛の推奨、「一夜の愛情」の温床、プレーヤーの見栄の張り合いを促すこと、青少年の恋愛観のかく乱、ネットカフェの騒音源。

久遊網副総裁・吳軍は『上海商報』の取材でこれに答えている。

「1990年以降に生まれた若者の考え方を尊重し、久遊網は下品な言葉を使うプレーヤーに、まず警告し、その後アカウントをブロックする措置を採用している。

ごく少数の事例が過度に拡大され、『勁舞団(Audition)』のプレーヤーの消費がゲーム業界の下流と位置付けられてしまっている。」

彼はさらに指摘した。

「一部の青少年のプレーヤーがゲーム内で交流することで、その価値観に一定の影響を与えるかもしれない。

しかし学校、家庭、友だちから受けるさまざまな内外の要素による感化に比べれば、大多数のプレーヤーがエンタテインメントから受ける影響はその一割にも満たないだろう。」

2008年6月18日『広州日報』は『オンラインゲームの日々の売上は”わいせつと暴力”によっている』という文章を発表した。そこに次のように書かれている。

「『Audition』のゲームの流れは、出会い⇒チャット⇒結婚⇒対面⇒ベッドイン⇒お別れ⇒バイバイ」、「ラッパーの重要な役割は公然と”一夜の愛情”の相手を募集するための、わいせつで暴力的な広告欄だ」

久遊網はこれに続いて強い反発を示し、この文章は「事実を歪曲した悪意による誹謗だ」と答えている。

そして『勁舞団(Audition)』が2006年10月に重慶アニメ・ゲーム博覧会や『課堂内外雑誌』で”健全なオンラインゲームTOP10”に選ばれていることを強調し、『広州日報』に文章が事実でなかったことを、第1面や、国内外の大型メディアで公に認めるよう求めた。

セカンドライフ

オンラインゲーム会社について語ってきたが、オンラインゲームは久遊網の一事業にすぎず、王子傑の願望を完全にカバーしているわけではない。

実際、最初から久遊網の事業はオンラインゲームだけでなく、自らを中国国内初のインタラクティブ・エンタテインメント・ポータルと位置付けている。

久遊網にアクセスすれば、オンラインゲームの他にも、ブログ、動画、音楽、メール、アルバム、映像作品、さらにコミュニティ機能まであることに気づく。

”コミュニティ+オンラインゲーム”というコンセプトは、久遊網が早くから実践している。

その利点がはっきり表れているのは、まず、コミュニティを通じて大量のユーザを引き付けること。

ユーザがネットを通じてお互いの関係を作れば、離れていることがコストになり、そうして特定のゲームにライフサイクルが生まれる可能性が出てくる。

しかし久遊網は新しいゲームを提供した。じっさい、同じコミュニティで生活すれば、共通の話題が必要になり、そこから同じようなオンラインゲームを受け入れるようになる。

第6回Chinajoyの「中国デジタルインタラクティブ・エンタテインメント産業サミット」で王子傑は、バーチャル・コミュニティがインターネットのエンタメ産業で、次の発展段階の中心的なトレンドになると語っている。

さらに、次の発展段階では、ゲームユーザーの間の交友関係、経済的な関係、サービス関係のすべてを兼ね備え、シェアできるコミュニティのメカニズムを実現できるだろう。そうやって初めて本当にユーザを獲得できる、と話している。

2003年7月、米サンフランシスコLinden Researchがオンラインゲーム『Second Life』をリリースした。

自分の第二の人生を創造できるという意味だ。バーチャルな社会で特定のキャラクターを演じ、ゲーム内で商売、仕事、果てはナイトクラブにまで行くことができる。

登録ユーザの増加と、ゲームのルールの改善にともない、人々はバーチャルな社会と現実の世界の境界線があいまいになることに気づいた。

ゲーム内のLindenドルが米ドルと交換できるのであれば、”Second Life”での収入は現実のものになる。

2008年2月、久遊網は”インタラクティブ・エンタテインメント・コミュニティ2.0運営企業”へ全面的に転換する戦略を正式に発表した。

久遊網は対外的に自社開発した3Dインターネット・バーチャル・コミュニティ”九遊GT(GTOWN)”がまもなく完成すると発表した。

王子傑は『21世紀経済報道』のインタビューで次のように説明している。

「Second Lifeは各次元が同じ世界になっているが、久遊網のGTOWNは一つの統一された空間の中で、お互いがつながっている個別のオンラインゲームから成り立っている。これら内部にあるゲームは個別の独立した空間になっている。」

「まずユーザがいて、コミュニティ機能はその後にある」という点は、『Second Life』の「まずコミュニティ機能があり、ユーザは後からそこにエントリーする」という仕組みに対応している。

もちろんGTOWNはさらに大きなユーザベースがあり、ユーザはもう一つのバーチャルな人生に徐々に適応していく。

他のオンラインゲーム運営企業はの参入は難しかった。業界関係者によれば、MMORPGはストーリーのバックグラウンドが強調され、かつ、ユーザはゲームのエンディングを重視している。そのためゲーム間の相互接続は難しいとのことだ。

久遊網はChinaJoyで正式に『GTOWN』を発表した。

王子傑はメディアに対するプレゼンテーションで、すでに400人余りの研究開発要員がGTOWN関連のカジュアルゲーム開発にあたっており、近日中に5~6種類を発売すると語った。

もちろん、王子傑には願望を実現するための十分な資金があった。

3月20日、久遊網は国際的に著名な投資機構、シンガポールのテマセク・ホールディングスなどから1億米ドルの投資をうけており、すべての投資関連手続きは完了していた。

吳軍がその後明らかにしたところによれば、このときの投資はテマセクともう一社の投資会社からのもので、双方合わせた持分は十数パーセントから二十数パーセントにおよんだという。

『勇士OL』

2010年04月02日のメディア報道で、国内初の3D横スクロールオンラインゲーム『勇士OL』が正式にアルファ版の段階に入り、王子傑はメディアの取材をうけて次のように語った。

↓『勇士OL』

「『勇士OL』の研究開発には紆余曲折があり、約4年間をかけ、クオリティを高めた。満足がいくまで簡単にテスト版をリリースしないという考え方で、ブレイクスルーとオリジナリティを追及し、多くの企画上、技術的な困難を克服した。

コンテンツの上でできるだけ基礎固めをし、既存のゲームの良さを活かした。加えて、ダブル3Dデザインによってアクションゲーム市場が発展するポテンシャルを引き出そうとした。この点で、『勇士OL』発売後の売上には十分な自信を持っている!」

王子傑は詳細な議論をつづけた。

「『勇士OL』のダブル3Dデザインは、主に3D視覚効果と3Dゲームエンジンで開発するアクションの制作によって実現されている。

『勇士OL』は業界内で率先して”3D視覚特殊効果”シーンを打ち出し、プレーヤーに大量の立体視ゴーグルを提供することで、プレーヤーがオンラインゲームで3D視覚特殊効果を体験したいというニーズにこたえる。

アクションオンラインゲームはレスポンスに対する要求が高いため、市場の同種のゲームの多くは2Dデザインを採用している。しかし『勇士OL』は4年前に全3DのGamebryoエンジンを採用することを決め、研究開発の過程でレスポンスタイムを高める技術的な困難を克服した。

研究開発要員はスムースな動きと、ヒット感など、基本的なクオリティが確保できるという前提で、3Dデザインを採用した。それによって画面の効果を高めるだけでなく、さまざまなアクションの特殊効果と、3D装備の効果を実現した。

しかも、アクションと特殊効果の制作効率を、2Dデザインと比べて少なくとも数十倍に高め、コンテンツのバラエティーを豊富にし、バージョンアップや話題のテーマをゲームに取り込むスピードは、市場の同種のゲームを大幅に超えている。

『勇士OL』によって、ダブル3Dデザインの先見の明が実証され、横スクロール3Dオンラインゲームのマイルストーンになると期待している。」

久遊網の没落

2009年7月14日、久遊網は6大ゲーム、『GTOWN Audition 2』『俠盜金剛』『神兵伝奇』『藍海戰記 Florensia(魔法航路)』『勇士OL』『勁爆籃球 Extreme Basketball』をリリースした。

↓『機戰世紀Online』(訳注:『俠盜金剛』は香港・台湾で『機戰世紀Online』)

↓『藍海戰記 Florensia(魔法航路)』

当時王子傑は自社で育成した研究開発人材によって、久遊網を新しいマイルストーンへもう一度推し進められると信じていた。しかし久遊網は「人事を尽くす」前に、最も困難な時期をむかえる。

まず2009年の『GTOWN Audtion 2』『Extreme Basketball』のリリースで、開発不足により次々と半製品を市場にリリースしてしまい、冷たい反応にあった。

2010年初め、半製品の『勇士OL』が再びネガティブな報道の焦点となり、一時期、久遊網の名が世間を騒がせた。

2010年4月に開始した『神兵伝奇 Weapons of the Gods』初期テストは、市場でホットな話題となり、注目を集め始めた。

久遊網の企業ブランドは一度は最高ランクに達した(中国検索エンジン「百度」ランキングで「神兵伝奇」という検索ワードは1か月連続TOP3、「久遊網」というワードは1か月連続TOP3)。

↓『神兵伝奇』

このような状況で2010年9月『神兵伝奇 Weapons of the Gods』はテスト版をリリースしたが、決して人々が想像したようなホットなゲームではなかった。原因は次のようなものだ。

1、ゲームは依然として半製品で、バグが多く、プレーヤーが不満に思う部分が多すぎ、プレイ方法が理解できないプレーヤーが多かった。
2、ゲームショップが不適切で、まだ正規バージョンになっていないのに、アイテムを大量にリリースしすぎ、馬でさえ利用回数に制限があった。
3、ゲームのバランスが悪すぎた。ゲーム内に各種強化アイテムが氾濫し、ゲームが「金持ちの戦士が天下を取る」ような状態になった。
4、プレーヤーがログインできなかった。久遊網の内部関係者によると、プレーヤーからのフィードバックのうち、ログインできないというクレームが連続一週間60%を占めた。

2010年11月28日、同社最大の株主、中科英華(杉杉集団)が16.97%の持分すべてを1500万米ドルで売却した。

(抄訳おわり)