上海SNH48姉妹グループ広州GNZ48が、最近イメージキャラクターになったばかりのポカリスエットの仕事をキャンセルすると正式発表した。
最初に書いておくが、この件「GNZ48が中国政府支持の立場でポカリスエットの仕事をやめた」といったシンプルな話ではないのでご注意を。世の中、そんなに単純ではない。
中国ツイッター(新浪微博)での正式発表はこちら。
弊社および所属のタレントは一貫して中国政府の制定する各種国策を固く守り、国家の平和と安定に影響するあらゆる行為に決然と反対しています。
当社はポカリスエットの下した決定を非常に遺憾に感じ、ポカリスエットの上述の決定は弊社の事業提携の基本的な条件に重大な打撃を与えました。
本日より、弊社および所属タレントは直ちにポカリスエットとの全ての提携を停止し、関連する事業提携による動画を撤収します。
広州GNZ48運営がこの発表をした理由は、香港のテレビ局TVBが、「引き渡し条約」に反対する学生を鎮圧した警官を支持すると放送したことから始まっている。
これに関してFacebookのポカリスエット香港アカウントがユーザからFacebookのメッセージ機能で問い合わせを受け、TVBへの広告出稿を停止すると回答したとされる。
つまり大塚製薬の香港子会社が、反中国政府の意見を表明したということになる。
いくつかのネットニュースが報じているが、たまには英語ニュースから。
‘Hong Kong Broadcaster Accused of Pro-Beijing Protests Coverage’ (Bloomberg 2019/07/10 15:51JST)
このBloombergの記事でも引用されているFacebookのメッセージ画面が中国のネットに流出し、一部で話題になり、それを受けて広州GNZ48が冒頭の発表をしたという流れだ。
この話を聞いて、日本人的には「ポカリスエット香港は反中で偉い」、中国人的には「ポカリスエットの広告を取り消したGNZ48は偉い」というシンプルな理解をしてはいけない。
まず冒頭のGNZ48の中国ツイッター(新浪微博)での発表を、フォロワー数871万のアカウントがGNZ48 Team NIIIの写真を添えて紹介した。なんでTeam NIIIだけ(笑)。
このツイート、まず871万もフォロワーがいるアカウントなのにコメントが378件しかない時点で、いかに注目を集めていないかが分かる。
また、GNZ48偉い!というコメントは、Yahoo!ニュースのコメント欄と考えればよく、中国人の普通の感覚にいちばん近いのは下図の真ん中あたりにあるコメントだ。
当然、今回ポカリスエットの広告を取りやめることで広州GNZ48運営は損失をこうむるわけだが、中国人全員が「GNZ48偉い!」と手放しで支持してくれるわけではない、ということだ。
(なお上のコメント部分の画面ショットの一番上は、SNH48ファンにはおなじみのアカウントだが「みなさんコメント欄でメンバーのPRはしないように注意を」と冷静な呼びかけをし、GNZ48ファンもそのとおりPRを控えている。さすが「S1」、いつもはメンバーのスキャンダルを暴露しまくっているが、本当に重要な時には頼りになる)
結果的にGNZ48はこの件に乗じて知名度をほとんど上げることはできず、ポカリスエットが香港TVBの広告をとりやめたことも中国ツイッターで大した話題になっていない。
その後、Facebookのポカリスエット香港アカウントがFacebookの現地時間2019/07/10 21:30の投稿で、あいまいな謝罪をしている。
「7月9日の弊社の回答がご不便をおかけして申し訳ありません」というものだ。
このあいまいな謝罪を中国ツイッターの環球時報アカウントがツイートしているが、同アカウントのフォロワーは2,151万もいるのに、そのツイートには450強のコメントしかない。
やはりこの件に対する中国側の関心は薄い。中国でのポカリスエットの知名度なんてその程度ということだ。
知名度が低いからこそ、広州GNZ48のような知名度しかない女性グループでもポカリスエットのTikTok広告の仕事をとれた。
ここまで考えてくると、そもそも広州GNZ48が大塚製薬中国に断りなく、一方的にポカリスエットの広告をとりやめたと考えることに無理があることが分かる。
大塚製薬は中国に10社以上の関連会社をもっている。中国で展開している事業はポカリスエットだけではない。
というよりポカリスエットのような一般消費者向け商品より、医療関連事業の方がビジネスが大きいに決まっている。
そして広州GNZ48の知名度も大塚製薬は分かったうえで、ポカリスエットのTikTok広告をつい最近展開し始めた。
そんなところに香港からヘンなウワサが中国まで流れてきてしまった。
ポカリスエット香港のFacebook担当者が勢いで書いたメッセージの画面を、わざわざコピーして中国に流されてしまった。
メッセージには「通常(テレビ局の広告停止の)手続きは約2週間かかります」と英語で書かれている。
つまりこのメッセージ自体、「広告停止が実際に行われるどうかは2週間たたないと分かりません」と書いているわけだ。
おそらくポカリスエット香港のFacebook担当にこういう返信を「書かざるを得ない」ような問い合わせをしたのは、香港の反中過激派か、さらにウラを読めば中国政府側の人間だ。
そんな面倒な政治問題には、大塚製薬も広州GNZ48も巻き込まれたくない。
さてどうしたもんでしょうか。
大塚製薬と広州GNZ48の相談が始まる。
大塚製薬は事を穏便にすませたいので、中国で政治的なメッセージを出したくない。
広州GNZ48はポカリスエットの広告を続けることで、中国国内で叩かれたくない。
両者が話し合えば落としどころは比較的かんたんに見つかる。おそらく広州GNZ48が発表を出す前に両者はすでに結論を出していたはずだ。
広州GNZ48がポカリスエットの広告打ち切りを正式発表する、という解決法だ。
大塚製薬としても、GNZ48の広告を打ち切る程度で、中国でのポカリスエットの売上に大きな影響が出るわけではない。それよりもこの件のせいで必要以上に中国で注目を集めるのを避けたい。
逆に、広州GNZ48はポカリスエット広告の露出がなくなるのは痛いが、愛国グループという建前を使えば少なくとも叩かれることは避けられる。
大塚製薬は広州GNZ48に違約金を請求するわけでもないし、もちろん広州GNZ48がグループのイメージを棄損されたうんぬんで大塚製薬を訴えるわけでもない。
そうやって最終的に出てきたものが冒頭のGNZ48の正式発表だと考えると、いろいろとつじつまが合う最適解だと分かる。
あとは両社とも、騒ぎがおさまるのをじっと待つだけ。
それがビジネスの世界というものだろう。