SNH48版『ヘビーローテーション』はなぜ重く聞こえるのか?

SNH48の中国語版『ヘビーローテーション』が、中国のAKB48系ファンにやや評判が悪い理由は主に二つあるようだ。
一つは中国語の歌詞がヒドいということだが、これはSNH48の運営が言っているように、秋元康氏が日本語の歌詞の意味を忠実に再現するように、という意向らしいので仕方ない。
以下、百度掲示板から拾った中国語の歌詞と試訳を貼っておく。公式の歌詞ではなく、メンバーのコメントによれば数か所間違いがあるらしいので、あくまで参考まで。

1! 2! 3! 4!
I want you!
I need you!
I love you!
你像是我脑海
铛铛奏响那动听的歌
Heavy Rotation
(君はまるで頭の中で)
(ガンガン鳴ってる感動的な歌のよう)
像爆米花一样
热烈般的爆炸
喜欢的字符跳着舞不散场
(ポップコーンが弾けるように)
(好きという文字がいつまでも踊る)
为你心情跌宕
我的脸变好烫
这是不是传说中意乱心慌
(君のせいで心が落ち着かない)
(顔がほてって)
(これが例の居ても立ってもいられないということ)
这样的心情真的不可言喻啊
你让我变成幸福的人
(こんな気持は本当に言葉にできない)
(君は僕を幸せにしてくれる人)
I want you!
I need you!
I love you!
每一次见到你
咚咚心跳证明靠近的距离
Max High Tension
(君に会うたびに)
(ドンドン踊る気持ちが距離が近づいたことの証明)
I want you!
I need you!
I love you!
这满满的心意
迸发出无穷无尽爱你的热情
Heavy Rotation
(この溢れる気持)
(尽きることなく溢れ出す君を愛する情熱)
世界上每个人
一生中的缘分
总是不轻易的爱上几个人
(この世界の誰もが)
(一生の縁のうち)
(いったい何人を真剣に愛せるだろう)
但只要这一次
让我忘怀不能
恋爱成功就让我满足万分
(でもこの一度だけ)
(忘れられない)
(恋が成功すれば私は十分満足)
这样的心跳让我如此感觉到
花儿呀 也可以微笑吧
(そんなときめきがこんなふうに私に)
(花も微笑むことができると感じさせるんだね)
I feel you!
I touch you!
I hold you!
就算是在梦中
砰砰不断扩大爱情的想象
是我的imagination
(夢のなかででも)
(パンパン大きくなっていく愛情の想像)
(それが僕のイマジネーション)
I feel you!
I touch you!
I hold you!
这就是我的爱
迫不及待想要你全部都知道
Heavy Rotation
(これこそが僕の愛)
(君に全部知って欲しくてたまらない)
一直听的那首歌
Favorite song
像那首最爱的歌一样
(ずっと聴いてたあの曲)
(あの大好きな曲のように)
二十四小时都播放
它带我一直飞翔
只要有你在列表中回荡
(24時間ずっとかかって)
(僕を連れてずっと飛んでいる)
(君さえリクエスト曲の中で響いてくれればいい)
(※くり返しは省略)

確かに、できるだけ日本語の歌詞に忠実に翻訳しようとしているので、完全に押韻できていないし、中国語の歌詞に必須と言える対句表現が全くない。
この「無理やり中国語にしました」という感じが、中国人が書いた中国語らしい歌詞を聞き慣れた中国人にとって、聞くにたえないものだろうというのは、何となく想像できる。
また、僕にはいまだに聞き取れないのだが、中国語の歌は歌詞の四声とメロディーの抑揚があるていど関連しているらしい。しかしこの無理やり中国語に翻訳した『ヘビーローテーション』の歌詞の四声は、たぶんメロディーと著しく不一致を起こしていると思われる。
もう一つ、やや評判が悪い理由は「重口味(味付けが濃い)」というもの。
僕はAKB48のファンではないので(嫌いという意味ではないが)、今回あらためて『ヘビーローテーション』をくり返し聞いてみた。
SNH48版『ヘビーローテーション』が30秒だけ公開されたとき、中国のファンが言っていた、冒頭の「1, 2, 3, 4」がヘンだという意見は当たっていないと思う。拡声器を通したようなモノラルでダイナミックレンジの狭い音は日本語版も中国語版も全く同じだ。
で、なぜ味付けが濃いとか、重いという感想になるのか、その理由について、最初僕は中国語版だけに男声コーラスが入っているからかと思ったら、そうではなかった。AKB48の原曲にも男声コーラスがちゃんと入っている。
言語が違うので、男声コーラスは録音し直しているはずだが、AKB48の原曲と声質に違いはない。
ただ、SNH48版の方が男声コーラスがよく聞こえる。そのために全体的に中音域と、もともと伴奏に強めに入っているバスドラムやベース、低音域のギターが目立ち、重く聞こえる。
なぜSNH48版の方が男声コーラスがよく聞こえるのかと言うと、メンバーの歌い方に大きな違いがあるからだろう。
まず、AKB48の歌唱法はかなり極端に子音を強調している。ビジュアル系バンドがよくやる歌い方だ。
例えば「顔や声を/想うだけで」の最初の音「カ」は明確に「キャ」と歌われている。たぶんAKB48のメンバーの誰かの歌い方だと思うのだが、「か」行の音はすべて中国語でいう有気音(送气音)になっている。
中国語の標準語では、有気音とそうでない子音とで言葉の意味が変わってしまうので、たぶん極端に子音を強調する歌い方がそもそもできない。
それから、日本語の特性として、中国語よりも母音の「i(イ)」がはっきり響く言葉が多い。中国語の歌詞は、例えばワンコーラスめでは「ang」、ツーコーラスめでは「en/eng」で押韻しているので、文末が柔らかい響きになっている。
このように有気音が多く、母音の「i」がはっきり響くと、全体としてキンキンとした高音が目立ち、鋭く聞こえる。
また、SNH48の歌にはビブラートがほとんど入っていない。これはたぶん録音が初めてのメンバーがほとんどなので、技術力の問題だと思う。
AKB48の方は、メンバーの誰かは知らないが、極端にビブラートを効かせている人が一人いる。そのためビブラートのない男声コーラスと重なっても、メインボーカルが明瞭に聞こえる。
最後に、やはりボーカルのパワーがAKB48の方が強い。ただ、これはもしかするとレコーディング・ディレクターの方針かもしれない。
SNH48のメンバーも、本気を出せばもっと強烈な声を出せると思うのだが、SNH48版のボーカルは全体的におとなしく美しくまとまっている。
集団でボーカルを録音するとき、一人ひとりが個性を主張するように録音するか、全体として調和がとれるように録音するかは、どちらか良い悪いというより、考え方の違いだろう。
AKB48系のグループとして求められているのは前者だと思うが、SNH48のメンバーはいっしょにレッスンするようになってまだ2か月強で、メンバーの人間関係もお互いまだ手探り状態のはず。一人だけ目立たせるのは賢明ではない。
その証拠に、陳思(チェン・スー)の特徴的な声(娃娃音)が何とか聞き取れるのは、サビのコーラスのごく一部だけだ。その意味で、SNH48の歌にはまだ成長の余地があるということだと思う。
最後に純粋に技術的なことで気になったのは、ワンコーラスめのサビの前、「僕はついているね」の二つの「い」と同じタイミングで、AKB48の原曲には「ピー」という非常に高い効果音(?)が入っているが、SNH48版では全く聞こえない。
これもレコーディング・ディレクターの方針かもしれないが、仮に伴奏が原曲と同じ音源なら、ノイズとして削除されてしまった可能性がある。
AKB48の原曲の録音が、ほとんど雑音にしか聞こえない高音部分、他にもディストーション・ギターのノイズなどがあるが、こうした「雑音」をあえて残してあるのに、それをSNH48版の録音の時にカットしてあるのだとすれば、全体として味付けが濃くなり、華やかさが弱くなるのは当然だろう。
この最後の点については、僕が聞いているSNH48版の音源が125kbpsで、AKB48の原曲がダウンロード購入した318kbpsなので、SNH48をもう少し高音質で聞いてみないと分からない。
以上、いずれにせよSNH48の歌にまだ成長の余地があることは確かだ。ということで、なぜSNH48版の『ヘビーローテーション』が重く聞こえるのかについての、個人的な感想だった。