SNH48グループ5つ目の全曲オリジナル公演『ティアラ・ファンタジー(奇幻加冕礼)』に好き勝手コメントしてみる

北京BEJ48チームEの全曲オリジナル新公演『ティアラ・ファンタジー(奇幻加冕礼)』。

SNH48グループのオリジナル公演でベストかもしれないこの公演の各曲について、例によって好き勝手コメントさせて頂きます。

要するに非常に細かいところまで考え抜かれて作られている、ということが伝わればいいいです(汗)。

↓一曲ごとにバラした再生リストはこちら。

ただし2曲目と3曲めは切れ目なく歌われるので、一本の動画にしてある。

以下のコメントで特にコード進行の記述に誤りがあれば、是非指摘して下さい。基本的な進行は正しく聴き取れていると思うのですが、テンションコードや分数コード部分は自身がありません。

01. 騎士序曲

この公演のPR映像に入っていなかったが、イントロの最初がピアノになっている。まさに「序曲」といった雰囲気。Aマイナー。

ピアノの分散和音はFmaj7⇒Em7。徐々に電子音のメロディーが重なり、レーザー光線の演出で一曲目から鳥肌が立ってしまう。

アイドルポップでは、EDM(エレクトロニカ)はこういう風に使ってこそ効果を発揮する。たとえ公演のテーマがロボットであっても最初から最後まで使うものではない。

たっぷりクレッシェンドするイントロの後、サビで始まる構成が、すでに公演全体の始まりとして素晴らしすぎる。AメロまでのイントロはMIXを打つのに十分な長さになっており、観客とのインタラクション(互動)も十分考慮されている。

Aメロ後半の低音に響いてくる細かいビート、Bメロは一転してゆったりの8ビート、サビ前に1小節が追加され、サビの伴奏にはイントロのピアノに重なっていた電子音のメロディーが戻って来る。

ワンコーラス目だけで完璧な構成。

イントロも間奏もオンビートだが、リズムを間違えずにMIXを打っている北京BEJ48星夢劇院のファンのみなさんは素晴らしい。これが初日とは思えないほど。MIXが曲の一部分になっていて、作曲編曲者もそれを意図している。

そしてこの曲のボーカルは少しだけ後乗りになっており、オンビートの曲なのに重々しく聴こえる。ツーコーラス目の後の間奏のEDMに違和感がないのも、この重さがあるからだろう。

間奏の後にBメロが来て、伴奏にイントロが再度現れる。

Bメロは本来Fmaj7⇒G6⇒Em7⇒Am7のサブドミナントで始まる循環コードだが、ここでその伴奏に鳴っているイントロはFmaj7⇒Fmaj7⇒Em7⇒Em7とツーコードの交代。これをあえて重ねている編曲がすごい。

さらにこのBメロの最後が2小節に延長されており、その二小節目にディストーションギターのチョーキングがシングルトーンで鳴り響く。

アウトロ前半に女声コーラスが入り、ボカロ風のリードが入ってバスドラが一発ドスンと鳴って曲が終わる。

エレクトロニカとアイドルポップの融合という意味では完璧で、編曲が素晴らし過ぎる。比較するのはあまり良くないが、SNH48の他のEDM系オリジナル曲の編曲とは天と地の差がある。

02. 奇幻加冕礼(ティアラ・ファンタジー)

一転して軽快で可愛らしいアイドルポップ。Gメジャー。

イントロがMIXの準備の時間になっていて、その後「HA Ah Ah」でMIXが打てるように作られてある。一曲目と同様、劇場というインタラクションの空間をよく考えて作られた曲。

そしてBメロにイントロの「HA Ah Ah」のメロディーが繰り返される展開が意表を突く。普通のポップスならサビがそのままイントロになっているサビ始まりだが、この曲はBメロがイントロという意外性のある構成。

サビ前に2小節追加され、最後の2.5拍のセリフ「新开始哟!」が曲の可愛らしさを引き立てるアクセントになっている。さらにサビの部分だけでA-A-B-Aのメロディー構成を持つ贅沢な作り。

ただ、その後の間奏、開始部分のディストーションギターは良いとして、間奏の最後でB7コードの高いBの音からポルタメントで降りていくリードの編曲意図が不明。

続くサビで、3小節目、4小節目、7小節目、8小節目の歌が省略されている点も良い編曲。その後いきなり半音上がる転調も爽快。

そしてアウトロが鳴ったまま、ティアラを戴冠されたメンバーがクロークをまとって現れるところは舞台演出として素晴らしすぎてすでに反則の域。

このティアラを付けて登場するメンバーは、毎回交代するらしい。初日はライチ(李梓)、二日目はサンサン(蘇杉杉)、これを書いている今日、三回目の2016/12/30(金)は陳倩楠(チェン・チェンナン)。現地ファンとしては予想どおりの順番かもしれない。

そのメンバーが公演の正式な始まりを告げるMCで客席に呼びかけ、切れ目なしに三曲目に入る。

舞台演出と観客とのインタラクション、展開のスピード感は心底素晴らしいと思う。

03. 朝霞版図(朝霧の地)

前の曲から切れ目なくイントロが始まり、イントロでは「BEJ48」の掛け声が入る。バックビートの典型的なアイドルポップ。Eメジャー。

Aメロは8小節単位のメロディー。Bメロの最後の4小節は循環コードならFm7⇒Fm7⇒Bsus4⇒B7などがクリシェだが、経過的にCメジャーに転調してFm7⇒Fm7⇒G⇒B7。その後1小節追加されてサビ。

サビも8小節ワンセットのメロディー。サビのくり返しで一回目と二回目の間に掛け声(何と言っているのかは聴き取れない)。

ツーコーラス目のAメロ前半は伴奏が別パターン。これも定番の編曲。

ギターソロがメインの間奏の後はサビのリフレインだが、最後の音がEではなくBで終止間が無いのもよくあるパターンだが、メロディーが単調にならないための重要な点。

アウトロはイントロ同様「BEJ48」の掛け声入り。

04. 楽園

イントロのハモンド・オルガン音色が新鮮。Ebメジャー。

サビ始まりの後のイントロ後半に、「フゥッフッ」という掛け声がアウフタクトで入っている箇所が可愛らしい。

Aメロは8小節単位のメロディーで、A(2小節)-A(2小節)-A(2小節)-B(2小節)のパターン。

Eb⇒Eb⇒Ab⇒Bbと循環コードだが、最後の部分だけB⇒Db⇒からEbへつなぐ全音進行。これもクリシェだが単調さを無くすための小さな工夫。

BメロはAメロの最後のB⇒Db⇒の進行から平行調のCマイナーに転調するので雰囲気が変わる。

Bメロのコード進行がCm⇒Fm⇒Cm⇒Fm/Db⇒Db⇒Csus4⇒C7⇒と来るので、このまま平行調のFmに転調する進行だが、追加されている2小節でEb⇒Ab⇒Bb⇒と進行してEbメジャーに戻る。このあたりのコード進行もよく考えられている。

サビは典型的で特筆すべきことはないが、ツーコーラス目への間奏にイントロが再び登場。

ツーコーラス目はAメロ前半の伴奏がワンコーラス目と異質なパターンの編曲で手抜きがない。ツーコーラス目のAメロは定番どおり反復なし。

ツーコーラス目の後の間奏は、いったんイントロのハモンド・オルガンが再登場してから、ギターソロ。続いてBメロからサビが半音上がる転調。これもクリシェだが、期待どおり半音上がってくれるのが良心的。

メンバーが円形で小走りする振り付けのアウトロも、後半の伴奏が別パターンになり、最後のコードはEmaj7。

ちょっと聴いただけではごく普通のアイドルポップだが、編曲がよく考えられている。

自己紹介MCをはさんで、ここからはユニット曲。

05. 公主号(プリンセス号)

ミドルテンポの3人ユニット曲。C#メジャー。スタンドマイクの3人ユニット曲はAKB48公演ではよく見る。

センターはプディング(李媛媛)。シャオシン(頊凘煬)、ハニー(林堃)。いかにもお姫様っぽい衣装にティアラがよく似合っている。

イントロの伴奏がそのままサビのメロディーになる。イントロのストリングスも良い。

Aメロはほぼ同じパターンのくり返し、Bメロもほぼ同じパターンのくり返し。それぞれ8小節しかなく、ミドルテンポに合ったコンパクトな構成。

イントロに登場した、サビの「アイヤイアイヤア~イ」のメロディーが印象的で気持の良い洗脳フレーズになっている。サビのメロディーは4小節単位の反復。

当然サビの最後まで4小節単位だと思っていると、サビの後半「墙壁都用贝壳打造/还有萤火虫围绕/谁不听话跪地求饶」が3小節で終わる。非常に地味だが単調さを避ける構成になっている。

間奏にサビの「アイヤイアイヤア~イ」の最初の3つの音がこの曲の主題としてくり返し登場する。

ツーコーラス目のBメロとサビの間には、ワンコーラス目には無かった1小節が追加されている。この点も手抜きなし。

ツーコーラス目のサビの後半は、メロディー自体はやはり3小節で終わるが、間奏に入る部分に1小節追加されており、こちらは4小節単位になっている。

この後、ブリッジに相当する間奏の編曲がキラキラした空間になっていて美しい。F#×4小節、A×4小節の進行の後、2小節のG#7を経由してサビのC#につながるが、サビ前に1小節追加されている。構成に手抜きがない。

この最後のサビのくり返しには、今までのサビの伴奏になかったクラップと明るめの電子音が加えられている。編曲の細部にも手抜きがない。

この最後のサビのリフレインは、サビ全体が2度反復され、ワンコーラス目では3小節で終わっていたサビ後半の「墙壁都用贝壳打造/还有萤火虫围绕/谁不听话跪地求饶」が通常の4小節に戻る。

しかし最後のサビのリフレインでは、後半の同じメロディー「嘴边尝到你的微笑/像一口彩虹蛋糕/每时每刻听命就好」が再び3小節で途切れて、アウトロに入る。

アウトロで再び「アイヤイアイ」の3音(C#、B#、G#)が現れ、最後まで主題として機能している。この曲全体でC#-B#-G#のメロディーが明確な主題になっている。

地味なミドルテンポの曲に聴こえるが、ポップスなのに主題のメロディーが明確で、構成もきめ細かく作られている。編曲もワンコーラス目、ツーコーラス目、最後のリフレインで全て違う音色が使われていて、クオリティが非常に高い。

06. 暗夜脚歩声(夜の足音)

イントロはパイプオルガンの音色。パイプオルガンなのでバッハの『トッカータとフーガ』を思い出して、ディミニッシュコードかと一瞬思うが、Bb7。ディミニッシュコードを使うとやり過ぎだろうか。Ebマイナーのダンス曲。

AメロはA-A-A-Bパターンの4小節を2回くり返し、Bメロは全体でひとつながりのメロディー。「一闪而过的魅影」がシンコペーションで入るところが良い。このBメロは素晴らしい。

ドラムスだけの伴奏の1小節が追加されてからサビ。

サビはバックビートに変わり、頭のメロディーがカッコ良すぎて鳥肌モノ。Ebmのルート音を避けて5度-短7度-短7度のメロディーなので、平行調Gbとの分数コードに聴こえるからかだろうか。

伴奏にシャキシャキした音のシンセで細かいビートが入っている編曲もクール。

そしてサビの二回目の反復で「~开始侵袭我的心」の「我的心」と、「~全部都是你身影」の「你身影」の部分が、切れの良い強烈なスネアドラムで、付点8分音符、付点8分音符、16分音符の、強いビート感のある編曲になっている部分は、言葉も無いほど素晴らしい。

しかもその後、シンコペーションで侵入してくるメロディーは新しいメロディー。それでもサビに統一感があるのは、5度の音(Bb)が特徴的に使われているためだろう。

間奏はイントロ同様パイプオルガン音色。1小節追加されてからツーコーラス目。要所要所で小節が追加され、構成の単調さを避けている。

ツーコーラス目のAメロにはワンコーラス目になかったバンドネオンの音色が加わる。Bメロの編曲もワンコーラス目と別の音色やコーラスが入る。

サビ前に追加される1小節も、今度はドラムスだけでなく電子音が入る。

ツーコーラス目の後の間奏はやりたい放題の超ハードなEDM。

この後驚くべきことにブリッジのDメロまである。マイナーの美しい旋律だ。Dメロに続くサビの最後のくり返しで、冒頭の1小説で伴奏が無くなる箇所も痛快。

アウトロでリズムが突然ラテンになり、バンドネオンとパイプオルガンと鐘の音が狂ったように重なって鳴り響き、最後は鐘の音が響いたまま曲の終わり。

メロディー、編曲、曲構成すべて完璧。SNH48グループのオリジナル曲のダンスミュージックの中では最高品質の楽曲かもしれない。

さすがトップメンバーのライチ(李梓)がセンターを務める曲だけある。

07. 一千零一夜(千夜一夜)

顔にベールをつけた中東風の衣装で登場したので、客席は爆笑状態。

その理由は上海SNH48チームXの全曲オリジナル公演『ドリーム・フラッグ(夢想的旗幟)』に、『Monster』という曲があり、こちらもフェイスベールを付けた中東風の衣装で登場するため。

ただ『Monster』がツーコードだけの純粋なダンスミュージックで、使われている旋律もジプシーコードでエキゾチックなのに対して、こちらの『千夜一夜』は非常にメロディックな曲。

使われている音階は最後までCマイナーのナチュラルマイナー・スケール。イントロにバンドネオンの音色が使われている理由は謎だけれど(笑)。

Aメロは4小節で1セットのメロディーが2回反復。4小節ともオンビートで始まり、音型も全く同じマイナーメロディーで、非常にダサく聴こえる。

Bメロも4小節で1セットのメロディーが2回反復。ほぼ何のバリエーションもない。

しかもコード進行もAメロ、Bメロとも、4小節がCm(4拍)⇒Fm(4拍)⇒Bb7(3拍)⇒G7(1拍)⇒Cm(4拍)と、トニックから始まってトニックに終わる。これも超ダサい循環コード。

サビでようやくCm(4拍)⇒Fm(4拍)⇒Bb7(4拍)⇒G7(4拍)と、ややまともな進行になるが、8小節セットのメロディーがほぼそのまま反復。ただし2回めの反復の最後に1小節追加されている。

他の曲のクオリティの高さと比較すると、わざとダサく作っているか、この曲の作曲者だけ才能が無いかのどちらか。

間奏もAメロと同じコード進行。千夜一夜物語のアラビアンナイト風ということで笛の音色が入ってくる。

ツーコーラス目はワンコーラス目と全く同じ構成で特筆すべきことは無い。二度目の間奏の笛は、一度目の間奏の笛がたぶん打ち込みなのに対して、明らかに人間が演奏している。金管楽器奏者が見つからなくても、笛の奏者は見つかるらしい(笑)。

この二度目の間奏部分だけコード進行が異なり、Cm⇒Bb⇒Ab⇒Gbとベースが降りていくクリシェの進行。小節の追加なしの4小節単位の構成のまま最後のサビのリフレイン。

ここまでダサダサ、コテコテのマイナーメロディーの曲だと、くり返し聴くうちに確実に洗脳される。あまりに曲構成やメロディーやコード進行が単純すぎるからだ。

比較的複雑な構成の曲の間に、あえてこういう単純な曲を入れて洗脳効果を狙っているのかもしれない。

しかし北京BEJ48チームEのキャプテン・李想(リー・シャン)がセンターを務める曲が、この曲で良かったんだろうか(笑)。

08. 愛的魔法(愛の魔法)

Bメジャーの曲。イントロはコテコテの8ビートのアイドルポップと思わせて、シャッフルビートのサビ始まりで裏切るという、冒頭から凝った構成になっている。

イントロのメロディーはサビの伴奏にも使われており、さらにサビの後に「DA LA LA LA」と歌われる。間奏にも使われ、この曲の主題がサビのメロディーではなく実はイントロのメロディーだと分かる。

サビのコード進行はサブドミナントのC#m7から始まっている。上記の『千夜一夜』のようにメロディーがトニックコードから始まるコテコテの曲はそう多くない。

Aメロは8小節単位の反復。サブドミナント始まりの循環コード。BメロはG#の音が良いアクセントになった4小節単位のメロディー。

1小節の追加をはさんでサビ。サビは8小節単位のメロディー。間奏に主題のメロディーが「DA LA LA LA」で現れる。

ツーコーラス目のAメロはワンコーラス目と編曲が異なり、ブレイクも入っている。作りが非常に丁寧。

ツーコーラス目の後の間奏は定番のギターソロ。9小節目から現れるメロディーは主題のメロディーの変奏になっている。

そしてびっくりするのが、ここでいきなりパッヘルベルのカノンが引用されること。おそらく魔法を使う場面なので唐突に引用されているのだろう。

直前の間奏の終わりはトニックコードのB、カノンの引用の始まりはコードで言うとAの部分から。

カノンの引用の終わりはコードがA7の部分。BメジャーのままならサブドミナントはG#7のはずなので、ここでサビが半音上がる転調になっている。カノンを利用してサビの最後のリフレインを半音上げてCメジャーにする目的なのだろうか。

サビの最後のリフレインの後には、主題のメロディーが再び登場。この曲も主題のメロディーを中心に作曲と編曲が非常によくまとまった曲。

09. 灰姑娘的玻璃手機(シンデレラのガラスのスマホ)

三拍子。Eメジャー。この曲も非常に構成が良く、物語性が強いので感動的。

SNH48グループの全曲オリジナル公演で三拍子といえば上海SNH48チームSII『心の旅程』公演の『月光の下』をすぐに思い出す。

こちらの『シンデレラのガラスのスマホ』は編曲がクラシック音楽風で非常に豪華。

王子様役の陳倩楠(チェン・チェンナン)と、プリンセス役の愛ちゃん(易妍倩)のロングドレスとクラシック風の編曲がとてもよく調和している。

イントロのオーボエの音色と、ティンパニのトレモロのクレッシェンドを聴いただけで、ポップスとは別の世界に想像力が羽ばたく。伴奏のストリングスも美しい。その後のフルートの音色も良い。

陳倩楠(チェン・チェンナン)がシンプルなピアノ伴奏で歌い始めるAメロはよくあるメロディーラインだが、美しい。客席のファンのみなさんは拍手をやめてほしい。せっかくのピアノのみの静かな伴奏が台無し。

その後を追いかけるように愛ちゃん(易妍倩)がアウフタクトでBメロを歌い出す。

このAメロとBメロの対比が素晴らしい。Aメロは基本的にアウフタクトもシンコペーションも無い4分音符主体のメロディーだが、Bメロはアウフタクトとシンコペーションの両方が使われている。

王子様役は一定のリズムで歌って落ち着きを装っているが、プリンセスはその内心のリズムの揺れを感じとっている、ということを物語っているように聴こえる。

二人で斉唱するサビはアウフタクトのみ、シンコペーション無しで安定したリズムになる。これも物語性がある作曲。

サビのメロディーはトニックのEで解決するが、間奏はサブドミナントのAで終止感なく続き、A⇒B⇒A⇒B/C⇒C⇒Bm7⇒Em7/Am7⇒C⇒Bsus4⇒Bsus4⇒B7⇒B7/と末尾に2小節追加される、たっぷりとしたストリングスのメロディー。

この間奏部分は一旦Gメジャー(Eマイナー)に三度転調してからEメジャーに戻っている。

ツーコーラス目のAメロは、今度はプリンセスの愛ちゃん(易妍倩)がリード。伴奏のバスドラムが3拍目のオフビートを打ち始める。

Bメロからサビのつなぎに1小節追加されており、ワンコーラス目のように普通のE⇒C#m7⇒B7⇒というコード進行ではなく、「两个人而已」の部分でC#m7の代わりにE6/Dになっている(間違っていたらごめんなさい)。このコード進行も美しい。

二回目の間奏も、ボーカルはEに解決するが、伴奏のギターソロが一回目の間奏と同じく一旦Gメジャーに三度転調して、B7を経過してEメジャーに戻って来る。

その次のサビのくり返しでは、今まで斉唱だった冒頭のメロディーが、4小節が陳倩楠(チェン・チェンナン)、次の4小説が愛ちゃん(易妍倩)と歌詞が割り振られ、伴奏からドラムスが一旦消えてピアノとストリングスのみになる。良い編曲。

二度目のサビのくり返しの前半は「LA LA LA」のハミングに変わり、「不需要言语/就把我抱紧」と引き伸ばされ、その後「直到无尽的黎明」の部分も引き伸ばされている。まさに期待どおりの編曲で本当に素晴らしい。

アウトロにサビのメロディーが戻り、三度転調のGメジャーのドミナントコードDを経て、元の調EメジャーのドミナントB7に続き、トニックのEに解決してゆったりと終わる。

「ガラスのスマホ」って何なんだよ!というツッコミは置いておいて、本当に感動的な三拍子の百合曲。

作曲、編曲の完成度が高すぎて、SNH48チームSIIの三拍子曲『月光の下』を凌駕してしまっている名曲。

以上がユニット曲。『千夜一夜』が意図的にダサさを狙っているなら、もうこれ以上無いくらい完璧な作曲・編曲ばかり。曲調にバリエーションもあり、5曲全体で完璧な構成。

ここから16人曲に戻る。

10. 幸福密碼(幸せのパスワード)

典型的なアイドルポップ。Gメジャー。イントロはCmaj7で始まる。イントロが前半と後半に分かれているのでとてもMIXが打ちやすい(笑)。

Aメロは8小節単位のメロディーの反復。Bメロはお決まりの「パーンパパン」のリズム。サビ前に2小節追加され、B7に進行するので、サビは三度転調を期待させてGメジャーのまま。

サビも8小節単位のメロディーだが、その後半が経過的に平行調のEマイナーになる、これもクリシェだが良く出来ている。

一回目の間奏はイントロの反復。ツーコーラス目のAメロはリフレイン無しと、これも定番の構成。

二回目の間奏はGメジャーのままギターソロ。間奏終わりの最後のサビのリフレインの冒頭で伴奏からドラムスが消えるのもお決まりのパターン。

この曲はMCが終わった後の最初の16人曲なので、とにかく典型的なアイドルポップで盛り上がれば良いんです、と言いたげな曲。定番曲として良心的に作られている。公演全体の構成から見ると極めて妥当。

11. 航海の路

イントロというより前奏曲として、再びクラシック音楽からの引用。ドヴォルザークの『ユーモレスク』。

ウィキペディアによると、正確には8曲からなる『ユーモレスク』の第7曲変ト長調(Gbメジャー)とのこと。そして僕らが知っているヴァイオリン版はクライスラーの編曲で、原曲はピアノ曲らしい。知らなかった。

今風に言えば「ミディアムスィング」と呼ぶらしい、三連符の「タッカタッカ」のリズム。

日本の『かもめの水兵さん』も同じリズムなので『航海の路』という題名にぴったりだが、もしかすると中国にこの『ユーモレスク』のメロディーを使った童謡があるのだろうか?

曲の本編は『ユーモレスク』のスィングとも、原曲の変ト長調とも無関係で、16ビートのBメジャー曲になる。

サビのメロディーは『ユーモレスク』のリズムを改編しただけ。当然、著作権保護期間が終了しており権利上の問題は全くない。

『ユーモレスク』の主題のコード進行がI-IV-I-Vなので、サビもAメロも、コード進行はI-IV-I-V(B⇒E⇒B⇒F#7)となっている。

Aメロの伴奏にバンジョーの音色が使われているが、ウィキペディアによればこの『ユーモレスク』の8曲全体が、同じドヴォルザークの『新世界より』と同じくアメリカを意識して作られているらしいので、バンジョーは妥当な選択なのかもしれない。

Bメロのコード進行はさすがにIV-I-V-Iに変更されている。

Bメロの最後が2小節引き伸ばされ、「Ah~Yeah!」という掛け声の部分で更に2小節引き伸ばされてからサビに入る。コード進行が単純で単調になるおそれのある曲は、こういう構成上の工夫が重要。

間奏なしでツーコーラス目へ。ツーコーラス目はBメロで終わって間奏。

間奏は定番のギターソロだが、最後の2小節が省略されて、Dメロの「one two three 勇敢的讯号」が先行して入って来る。Dメロの後はワンコーラス目の「Ah~Yeah!」の2小節が反復され、直接半音上がってCメジャーに転調する。このあたりの構成も素晴らしい。

そして最後のサビのリフレインだけ「见到你心砰砰跳」(公演初日の字幕に誤りがある)の部分で、違う歌詞、違うメロディーになって終わる。アウトロは標準的な編曲。

12. 魔盒驚奇(マジカルボックス)

サビの歌詞に日本語が登場する「問題」曲。広電局の許可が下りているのかとても心配(笑)。

イントロで半音音階を多用してマジカルな感じを表現。AメロはEマイナー。メロディー構成は単純でA-A-A-Bのパターンを二回反復。

Bメロで「パーンパパン」の定番リズム。コード進行が平行調のGメジャーに変わりCmaj7⇒D⇒Bm7⇒Em7⇒F⇒D7。ここでサブドミナントのCの代わりに、Fが使われている点が良い。細かいコード進行に手抜きがない。

BメロからサビのつなぎでBsus4⇒B7の2小節が追加されている。ここも編曲上の細かい作り込み。

そしてGメジャーのままサビに入るが、ここで日本語「doki doki doki doki」「kira kira kira kira」が登場。

サビの二度目のくり返しに至っては最初の部分が「doki doki doki doki AMAZING」と日本語と英語しかなく、もや完全にJ-POP(笑)。

なお細かいことだが、サビの一度目のくり返しの末尾「一起念吧 爱的咒语/一打开魔盒 发现惊喜」のコード進行にも、Am7⇒D⇒Bm7⇒Em7⇒Fmaj7(Am/F)⇒Dsus7⇒D7とサブドミナントの代わりにFが登場する。

サビの最後に2小節分のキュートなメロディーが追加されている部分も手抜きなし。間奏にはイントロが再登場。

ツーコーラス目のAメロの反復が無いのはお決まりのパターン。そしてBメロからサビのつなぎから2小節の追加が無くなっている。これも編曲上の定番。単純な反復を避け、構成上の細かい変更を加えている点に手抜きがない。

比較して申し訳ないけれど、こういう細かい編曲が『専属派対(僕らだけのパーティー)』には無い。

そして再度、日本語が現れるサビ。

その次の二度目の間奏で、再び驚愕する(笑)。

魔法の箱なので、てっきりオリエンタル・スケールでアラビア風の世界観を表現すると思ったら、琴の音色で完全に和風。コードはGマイナーのワンコード。

伴奏のメロディー、G-A-Bb-D-Eb-G-A-Bb-Dの音階はG-A-Bb-D-Ebのマイナーのペンタトニック。半音の数ではG-(2)-A-(1)-Bb-(4)-D-(1)-Eb-(4)-Gで、「都節音階」と呼ぶらしい。

長二度音程をはさんで「短二度(半音1個)+長三度(半音4個)」の音階。この間奏のメロディーはGから始まるが「都節音階」としてはD-Eb-G-A-Bb-Dで、完全に京都の雰囲気。

そこにライトハンド奏法まで使ったディストーションギターのソロが重なって、和風ハードロックの独特の世界が展開される。まさに魔法の箱を開けてしまった感じ。

最後のサビのくり返しの冒頭でドラムスが無くなるのは定番の編曲。くり返しの最後は更に2小節追加でメロディーが反復される。

そしてアウトロ前に「NA NA NA」でDメロまで現れ、8小節単位で2回くり返される。こういう編曲もアイドルポップとして本当に良質。

編曲の質が極めて高く、しかも日本文化へのオマージュになっている。非常によく考えて作り込まれた曲。

ここでMC3をはさむ。

13. 青春画卷(青春のピクチャーロール)

バラード。Ebメジャー。

Aメロはペンタトニック主体のメロディーで懐かしい感じを表現。Aメロからアウフタクトで直接Bメロへ入る接続部分が良い。

Bメロのメロディーは反復なし。「不停歇」の高音へ上がる部分のメロディーが美しい。

Bメロからサビへのつなぎに1小節追加されている。サビのメロディーに特筆すべき点はないが、ベースが降りていく王道のコード進行で普通に良く出来ている。

ツーコーラス目のAメロ「我会靠你的肩」のメロディーがワンコーラス目と異なっており、こういう箇所も作り込みが細かい。そしてサビの最後でBb7からCへ移行し、間奏がCメジャーへ三度転調する。

最後のサビのくり返しは再びEbメジャーへ三度転調で戻る。全体的にバラードらしい編曲でストリングスが美しい。

あまり取り上げるべき点は多くないけれど、普通に良く出来たバラード。逆に言うと、これだけ作り込まれていても普通に聴こえてしまうほど、この公演全体のクオリティが高い。

ここでアンコール。

14. 征程之楽 ハッピーロード

8ビートのポップ・ロック。Fメジャー。

サビの始まりが4分音符主体のメロディーで、AKB48『GIVE ME FIVE!』のパターンかと思ったら、Aメロの前のイントロがマイナーのブルース・スケールで雰囲気が一変する。

そのままAメロもマイナースケールでバリバリのロック。メロディーのくり返しの最初の部分がドラムスとリズムギターだけになる編曲は、定番と言えば定番だが効果的に使われている。

BメロのCb⇒Eb⇒Ab⇒Fmの進行は同主調のFマイナーへの転調で、Bメロの最後のコードC7もFマイナーのドミナント。サビ前に2小節追加されている。きめ細かい編曲。

サビで再び同主調に転調してFメジャーに戻る。ロックでは同主調間の転調はよくあるけれど、最初から最後までメジャー進行の『GIVE ME FIVE!』のような曲よりははるかに良い。

このサビの後に「BEJ」の掛け声を含むDメロが間奏として入り、ツーコーラス目へ。

ツーコーラス目はワンコーラス目と同じ構成であっさり終わり、その後の間奏はマイナーのブルース・スケールで定番のディストーションギターのソロだが、舞台演出上のサプライズがある。

メンバーがエレキギターを持って舞台に登場。ライチ(李梓)とシェリー(羅雪麗)がエアギターを披露(笑)。

間奏後に再び「BEJ」の掛け声を含むDメロが現れる構成は気持ち良い。

アンコールの後、もう一度劇場全体で盛り上がるにはぴったりの曲。転調やブレイク、舞台演出も手抜きが無くよく出来ている。

15. 亞特蘭蒂斯紀念(アトランティスの記憶)

イントロはスパイ映画風(笑)。Gマイナー。

歌詞の中にちゃんと「紀元前370年にまで遡るプラトン(柏拉图)の哲学」と出て来る。アトランティスはプラトンの『ティマイオス』『クリティアス』で記述した王国であるため(ウィキペディア参照)。

Aメロで平行調のBbメジャーに転調し、8小節単位のメロディーを2回反復。Bメロも8小節単位で前半と後半でメロディーが変わり、サビへのつなぎに2小節追加されている。

サビは主題の「亚特兰蒂斯(アトランティス)」の部分のメロディーが良い。8小節単位の反復で、後半に再び平行調のGマイナーに戻りつつ、3小節が追加されて構成上のアクセントになっている。

ほとんどの曲に4の倍数にならない小節の構成が含まれている点が、この公演全体のクオリティを高めている一因。

間奏にはイントロが再び登場。ツーコーラス目のAメロはワンコーラス目のAメロの後半のみ。これは定番の編曲。Bメロはワンコーラス目と同じく8小節+10小節の構成。

サビの最後は今度は3小節ではなく2小節のみ追加で、スパイ映画風のイントロ4小節が再び登場。間奏のディストーションギター・ソロは、SNH48グループ楽曲でおなじみだが、いつもながらカッコイイ。

そしてこの間奏でSNH48グループの今までの全オリジナル曲の中で、人が演奏しているサキソフォンが初めて登場する。

以前にも書いたけれど、ようやくSNH48グループのオリジナル曲の金管楽器(中国語では銅管)が打ち込みではなく人の演奏になった歴史的楽曲(笑)。今後は生の金管の音がもっと増えて欲しい。

サックスソロの最後に2小節追加、さらに転調のつなぎに2小節追加。F⇒F#と半音上がってBメジャーに転調。

ちなみにサビのコード進行は転調後でいえば、E⇒F#⇒D#m7⇒G#m/E⇒F#⇒D#m7⇒G#m/E⇒F#⇒G#m⇒G#m/E⇒F#⇒G#m⇒G#mとなり、トニックコードのBメジャーが現れないのが特徴。このあたりもカッコイイ。

最後にサビの末尾の4小節が反復され、その後半の2小節にスパイ映画風(笑)のイントロが現れる。最後は平行調のG#マイナーで終わる。

やはりこの曲も構成が非常に良く出来ている。

16. 光芒

公演の最後に最高の名曲。Fメジャー。

サビのメロディーをピアノだけで演奏するイントロから。サビのメロディーはアウフタクト。アウフタクトを除いてこのピアノソロのイントロは本来10小節だが、最後の1小節は3拍で途切れる。

そしてテンポが変わり、2小節追加されてサビのメロディーをメンバーが歌う。この小節数の構成は複雑だが、とても自然に聴こえるのは編曲が素晴らしいからだ。

このサビのメロディーは8小節単位の反復で、後半のメロディーは平行調のDマイナーで始まりベースラインが半音ずつ降りていくクリシェ。

定番の進行だが、ここで使うと同じメロディーに別のコード進行が付くことになるため、非常に効果的。

最初のサビからAメロへのつなぎにイントロが再び2小節だけ現れ、Aメロは平行調のDマイナーに転調。Aメロのメロディーは8小節単位で2回反復。

Bメロは前半と後半に分かれている。前半のメロディーは、4小節単位を2回反復するかと思ったら、2回目のくり返しは2小節で終わり、後半のメロディーになる。

Bメロの後半のメロディーは4小節でサビへ。つまりBメロは4小節+2小節+4小節の構成。

その後のサビと間奏は特筆すべき点はない。

ツーコーラス目のAメロの反復が無くなっているのは定番。Bメロは同じく4小節+2小節+4小節の構成でサビへ。

サビ終わりはFメジャーのままギターソロの間奏。この間奏も4小節単位ではなく、4小節+2小節で最後のサビのリフレインに入る。

最後のサビのくり返しで冒頭でドラムスが無くなるのも定番だが、ここでピアノにアコースティックギターが加わっているのが特徴。

この最後のサビの部分はそのままアコースティックギターがコードを弾き続ける。楽器構成の面で本当に良く出来た編曲。

そして2拍ブレイクがあってアウトロが始まる。このアウトロはカーテンコールになっている。メンバーが二人ずつ舞台前方に出て2小節でパフォーマンスをする。舞台演出として素晴らしい。

観客がメンバーの名前を二人ずつコールするために、特別に準備された部分にもなっている。

ここまで公演全体が見事に構成されたAKB48公演があれば教えて欲しい。

最後のコード進行Db⇒Eb⇒Fもクリシェだが、使われるべき場所で使われている。

以上、北京BEJ48チームE初の全曲オリジナル公演『ティアラ・ファンタジー(奇幻加冕礼)』全曲に逐一コメントを入れてみたが、16曲全体の構成も含めると、過去のSNH48グループで最高の公演かもしれない。

忘れてはいけないのは、北京BEJ48チームEメンバーのダンスが『パジャマドライブ』公演に比べて格段に上達し、非常にキレが出てきている点。特にダンスチューンは決っている。

これからSNH48グループの全曲オリジナル公演のクオリティがどこまで上がるかと考えると、あくまでアイドルポップの領域は死守したまま、新しい世界を切り拓いてしまうかも。