レコードチャイナよりヒドい、フィナンシャル・タイムズ紙の間違いだらけのSNH48記事(爆)

フィナンシャル・タイムズ紙が、本家のAKB48を差し置いてSNH48を取り上げた。2017/06/09の記事。

この記事のことは中国2ちゃんねるで見つけたので、中国版だけかとおもったら、記事の最後に「訳者」とあったので、オリジナルを探したところ、もとの英語記事が見つかった。

英語なので日本語訳は必要ないと思うが、逐語訳しつつツッコミをいれてみたい。

なぜ記事の全文を日本語試訳するだけでなく、いちいちツッコミを入れるのかは、ご承知のように大人の事情です(汗)。

元記事の画面ショットはこちら

記事のタイトルは、「中国のティーンエイジャーは新世代のガールズバンドに踊る」。

英語で「女性アイドルグループ」と書いても読者は分からないのか、SNH48の英語記事はいつも「girl band」になっている。バンドじゃないんだけれど。

見出しは「SNH48は、ITスタートアップ企業のように経営されているポップ・グループで、投資家から1億5,000万ドル以上の資金を得ている」となっている。

写真がいまだに上海SNH48一期生初期メンバーの写真なのが気になるが、たしかにSNH48運営会社は、日本のAKB48運営が秋元康の「個人商店」なのと違って、ITベンチャーに似ている。

記事は次のように続く。

「中国は世界の製造業資本として知られ、全世界で消費されるスマートフォンや太陽光パネルを送り出しているが、エンタメも製造できるだろうか?

上海のSNH48は、中国で成長中のガールズバンドの一つだが、当然製造できると考えている。先月、グループの運営会社は投資家から10億人民元以上(1億5,000万ドル)の出資を受けた。恋愛、プリンセス、海辺の休日についての歌で、10代の少女たちを引きつけ、昨年200万枚のCDを売り上げ、人気を獲得しようと熱心だ」

完全に間違っている。言うまでもなく、SNH48が引きつけているのは10代の少女たちではなく、ほとんどが10代後半から20代後半の男性だ。

「歴史的に、中国のティーンエイジャーは日本や韓国から輸入された音楽に踊っていた。しかし去年、敵対する北朝鮮に対する防御のために、韓国が米国のミサイル防衛システムを装備したことがきっかけで、韓国の音楽が規制され、歌手や情報通の投資家にチャンスが開けた」

『ここ数年、中国のポップミュージック・シーンは、中国自体の豊富な人的資源と大胆な投資で急速に成長しているんです』と、韓国の音楽プロデューサ、ニック・ピョーは語る」

中国語の音楽シーンは、以前から香港、台湾、シンガポール、マレーシアなど、中国大陸以外の中国系アーティストがほとんどで、大陸のアーティストのヒット曲はほとんど「キワモノ」ばかりという悲惨な状況。

ここ数年、その状況が急激に変化しているかというと、違う気がする。

「正規版の販売と、パフォーマーが自分の気持ちを歌うというアイデアの西洋ポップスと違って、SNH48は音楽グループというより、ITスタートアップ企業のように経営されている。日本のグループであるAKB48にインスピレーションを得ているが、取り替えのきく歌手からなるチームをベースに、中心となるグループを経営するのではなく、SNH48の戦略的な経営者は、複数世代にわたる若い女性歌手と、より長続きする収入源を構築できるよう狙っている」

この記者は、SNH48はAKB48の音楽を輸入せず、インスピレーションだけを得ていると思っているようだ。

しかし、SNH48はAKB48の豊富な楽曲群について、中国国内で独占的な権利を持っていたことが、初期の最大の強みだった。中国大陸のポップスのクオリティが低すぎるからだ。

同時に、AKB48の運営方式も引き継いだわけだが、いまだにAKB48運営がSNH48運営とどういう契約を結んでいたのか、明らかになっていない。

ちょうど一年前、2016/06/10に両者が決裂したとき、北京と広州の姉妹グループ展開が契約違反だと発表されたが、その詳細はいまだに公表されていない。

また、この記者は、日本のAKB48は「a core group it runs on teams of interchangeable singers」だとあるが、SNH48グループも、取り替えのきく歌手からなるチームをベースに、中心になるグループを運営している点は同じだ。

欧米ポップスは、アーティストの交換不可能な、圧倒的な個性と才能をベースにしている。

それと違って、48系グループのメンバーは突出した才能がなく、取り替え可能であることをベースにしている。そうでないと、ファン投票によって順位が入れ替わるという「総選挙」の仕組み自体が成立しない。

この点、記者の事実認識は間違っていないのだが、SNH48がそのコンセプトから抜け出して、より長続きする収入源を獲得しようとしているのはウソだろう。

SNH48のマネタイズの仕組みは、今のところほぼすべてAKB48そのままだ。

最近になって、自社制作の映像作品に力を入れることで、その作品の権利を動画サイト大手やテレビ局に販売するIPビジネスを起動に載せようとしている。

この点だけは、マスメディアが、新聞社とテレビ局のクロスオーナーシップ制で寡占化状態の日本とは大きく異る。

また、SNH48とAKB48の大きな違いは消費者の母数だ。中国と日本では総人口が違う。

フィナンシャル・タイムズの記者なのに、この記者はなぜそういう経済的に本質的な差異について書いていないのだろうか。

「ファンは彼らの好きなメンバーとチームに投票する。それぞれのメンバーやチームは独自のルックスやサウンドを持っている。根強いファンたちはモバイルアプリで好みのメンバーをフォローし、毎日のオンライン放送を見て、彼女たちに自分のコメントを送る。」

総選挙はSNH48独自の仕組みではない。また、各メンバーやチームが独自のルックスやサウンドを持っているというのは言い過ぎだろう。

むしろ48系グループのメンバーは、欧米アーティストの基準からすると、没個性的だから価値がある。

後半、モバイルアプリについては、たしかにSNH48独自だと思う。

AKB48運営会社は劇場公演は昔からDMMのプラットフォームを借り、メンバー個人のオンライン生放送はShowroomを借りるなどしている。

一方SNH48運営会社の公式アプリは、劇場公演の生放送、各メンバーのオンライン生放送、ファンとの交流コーナーなど、ものすごいスピードで機能を充実させている。

「投資会社・創新工場の役員、アニタ・フアンは、SNH48のもっとも初期の投資家だが、従来の著名人中心のビジネスは、タレント個人に依存していたと話す。『一人、二人、三人の人物がしばらく人気者になりますが、そうでなくなると、ビジネスは死ぬというものでした』」

これはそのとおり。中国大陸の芸能界は打ち上げ花火式で、一時期ドカーンと人気が出るが、あっという間に過去の人になる。するとまた別のタレントがドカーンと人気が出る、という感じ。

中国大陸で継続して人気があるのは、すべて台湾、香港、シンガポール、マレーシアなどを基盤に活躍しているタレントやアーティストだ。

「新しいチームはSNH48運営によって注意深く育成され、毎年導入される。『Sチームがより古くて、より陽気でにぎやかです。一方Hチームはよりカッチリしています』、上海絲芭伝媒文化グループのCEO・陶鶯はそう語る。同社はSNH48の運営会社だ。『Nチームはよりキュートな雰囲気で、みんな背が高くないのでそのほうが向いています』」

英語で「S team」「N team」「H team」となっているのは、現地の中国語でのチームの通称「S隊」「N隊」「H隊」をそのまま英訳したのだと思う。中国語でインタビューしたということになる。

Team HIIが本当に「strait-laced」なのだとすると、それはきっとダンスの馬先生のおかげだろう(笑)。とても厳しいけれど、決して暴力で指導することはなく、メンバーからも慕われているダンス教師。

「いまだに激しい海賊版のため、中国の音楽市場は厳しい。国際レコード・ビデオ製作者連盟(International Federation of the Phonographic Industry)によると、その規模にもかかわらず、世界で19番目の市場でしかない。音楽産業の収入は2015年、たったの1億7,000万ドルだ。」

中国大陸で活動するミュージシャンの収入は、CDじゃなくて、コンサートのチケットと、番組出演のギャラで成り立っているらしい。

「SNH48は他のアプリやストリーミング・プラットフォームに音楽を販売させたり演奏させたりしない。昨年はアルバム売上が1,200万ドルあった。

CEO陶鶯は『まず中国でさまざまなことを一度にやりたいと思います。しかしもちろん異なる市場への参入も考えています』

SNH48は最大のティーンバンドの一つだが、中国企業が少女や少年グループでチャートになだれ込むにつれて、国内市場の領域はますます混雑して競争が激化している。

競合相手にはAcrushという男性バンドがいて、じっさいには男性的な女性がメンバーである」

女性、男性のグループが増えているのは増えているのは確かだが、まだチャートが「flood」するには程遠い。やや不正確だと思う。

またAcrushなんて初めて聞いたが、中国ツイッター(新浪微博)の公式アカウントよりも応援会のフォロワーの方がはるかに多く、71万人。ファン層の規模は、SNH48グループとは比較にならないほど少ない。

この記者、いったい上海で何を見ているんだろうか。エンタメ業界については素人なんだろうと思う。

SNH48は毎週5日間、上海市街の端にある350席の劇場でライブパフォーマンスを行っている。そして中国全土で握手会イベントを行っている。先月のライブパフォーマンスで、ファンは好きなメンバーに向かってペンダントを振って、彼女たちを称える詩を朗読した

『他のファンたちといっしょに、ただ劇場にやって来て遊ぶのが好きなんです』と、21歳のShi Jinhongは話す。『ここは第二の自宅みたいなもんです』」

「pendant」って「pennant」の意味で使っているんだろうか。「chanted adoring poems to them」は、メンバーが自己紹介した後、客席のファンが決まって叫ぶ、韻を踏んだ声援のことだと思う。

おそらくこの記者にとって、SNH48星夢劇院で起こっていることは理解不能なんだろう。

ということで、何一つ深みのない、とりあえず何人かに取材して適当にまとめましたという記事。

フィナンシャル・タイムズ紙が48系グループについて書くと、このブログでいくつかご紹介している中国国内の新聞よりも、はるかに中身のない、カスみたいな内容になる、ということが分かった。