上海SNH48チームSII全曲オリジナル公演第二弾『第48区』の本当に重要な意味について

上海SNH48チームSIIとして2つめの全曲オリジナル公演『第48区』が昨日2017/06/30(金)初日を迎えた。

例によって好き勝手コメントしようと思ったのだが、予想以上に48系グループ公演の枠組みを飛び越えていたので、この公演全体の意義みたいなものについて、好き勝手書いてみたい。

この公演は、48系グループのファンではなく、一般の観客が見てはじめて正当な評価を受けられると思う。

こう言っては申し訳ないけれど、48系グループのコアなファンで、アイドルポップス以外のジャンルの音楽をあまり聴いたことがない観客には、この公演のクオリティの高さは本当には分からないと思う。

初日のオンライン生放送の完全版録画はこちら。

上海SNH48チームHIIの全曲オリジナル公演『Beautiful World』と同じように、重厚な編曲のロックやEDMが多い。とくに自己紹介MC前の4曲は、『Beautiful World』同様のかなり重めの構成になっている。

ただ、K-POPスタイルの派生グループ「7SENSES」の成果が、これほど見事に定期公演に反映されるとは思わなかった。

チームSIIには「7SENSES」のメンバーが、タコちゃん(張語格)、ダイモン(戴萌)、キキ(許佳琪)、Bちゃん(孔肖吟)と4人もそろっている。4人とも上海SNH48の一期生で、今のSNH48グループの基礎を作ってきたメンバーだ。

さすが一期生と思わせたのは、当然、この4人だけではない。

M05.MAD WORLDでの、チームSIIの歌姫CC(徐晨辰)のR&Bと、マオマオ(李宇琪)のRAPのコラボが最高にクール(と書くのも恥ずかしいくらいクール)。

M07.愛未央は、ダイモン(戴萌)、キキ(許佳琪)のデュエット曲で、この2人のダンスパフォーマンスも振付けのシンクロが完璧で素晴らしい。

そして、48系の公演曲の範囲内から完全にメーターが振り切れていたのが、M10.寒夜という曲。一期生momo(莫寒)のソロ曲だ。

4ビートっぽいバラードで最後までしっとり聴かせてくれるのかと思ったら、まさかコートを脱いでキャミソールだけ(もちろん「安全褲」をはいているけれど)というセクシーな演出になっている。

いままでのSNH48オリジナル公演や、AKB48公演のカバーで、ここまで振り切った「大人」の演出はなかった。

そしてタコちゃん(張語格)のダンスは、細い手脚を大きく見せて、それでも最初から最後までしなやか、かつ、優雅で、全員曲の全体の動きをつねに中央に近いポジションで引き締めている。

これら一期生のパフォーマンスは、SNH48グループの他のどのチームもマネできないレベルだろう。

一般的なJ-POPスタイルの楽曲として、この公演の中でいちばん素晴らしいのは、間違いなくアンコール前のM13.廃墟紀元だ。

Bメロは8小節しかないのだが、この部分の伴奏が鳥肌が立つほど素晴らしい。曲全体はタイトルどおり、壮大な廃墟と化した世界の悲壮感が正確に表現されている。

ツーコーラス目のBメロ部分で、キキ(許佳琪)がバレエの経験を活かした、美しいスピンを見せているが、初日では残念ながら劇場のカメラが追いついていない。

こうしたダンスパフォーマンスの細かいアクセントまで含めて、この公演のクオリティは実に高い。

そして公演の最終曲について。

チームSII初の全曲オリジナル公演『心の旅程(心的旅程)』では、最後のM16.私の舞台(我的舞台)がこれ以上ない素晴らしいエンディング曲になっていた。

それに比べると、残念ながらこの『第48区』の最終曲、M16.無尽の世界(無尽的世界)は、楽曲の完成度でアンコール前の、M13.廃墟紀元のレベルに達していない。やや凡庸なアンセムっぽく聴こえる。

ただし、このM16.無尽の世界の最後の舞台演出が、公演全体のテーマに対するエンディングとしてこれ以上ないほど素晴らしい。

最後の部分でmomo(莫寒)が舞台に一人とり残されるが、ダイモン(戴萌)が立ち去りぎわにその肩をたたく。

それをきっかけにmomo(莫寒)が夢から目覚めさせる。

第48区が廃墟と化した壮大な争いや、楽園がじつは幻でしかなかったといった絶望感などが、すべて一人の少女が見ていた夢にすぎなかった。

その夢から目覚めた少女が、立ち上がり、まっすぐ前を見つめながらソロで歌う。

時間は円を描きながら
何度も過ぎ去っていき

私がすべての運を
使い尽くすところまで来ても
あなたはやっぱり
そばにいてくれる

この約束を守って
永遠に信念を捨てず
陽の差す方へと
私たちはともに歩む

果てない世界へ

そしてまさかの展開。このmomo(莫寒)のソロのまま、公演全体が終わるのだ。

momo(莫寒)のソロで公演全体が締めくくられる。

この公演の構成、どこかで見たような気がすると思った。まったく逆の形で。

チームSIIが結成後、2つめのAKB48のお下がり公演として、2013/12/27~2014/05/16の期間上演した『恋愛禁止条例』公演のオープニングだ。

(中国語タイトルは運営の自粛で『永恆之光』に変わっているがM07.恋愛禁止条例そのものは削除されなかった。その結果、SNH48版ではM01.長い光が公演のタイトル曲となった)

この『長い光』は公演全体が、momo(莫寒)の歌う美しいソロで始まる。

momo(莫寒)は、こういう曲のソロでは、CC(徐晨辰)のようなR&Bスタイルの歌唱法でもなく、ヘンに甘えた声でもなく、まっすぐで透明な声になる。

夢から醒めて、遠くどこまでも続く、おそらく形容もしようのない美しく果てしない世界の彼方を見つめる歌声として、これほどふさわしい声はない。

この公演について、SNH48の音楽プロデューサ自身、アイドルグループの劇場公演というより、コンサートとして鑑賞に耐えるものを目指したと語っている。

それだけ品質の高い公演だということは、一曲目、M01.第48区のイントロを少し聴いただけで感じ取れる。

本当の問題はここからだ。

その一曲目のイントロという、公演全体で最も重要な部分で、驚くべきことに観客がタコちゃん(張語格)コールを、しかもリズムを完全に外して叫びはじめたのだ。

筆者はビリビリ動画の生放送でこの初日を観ていたのだが、思わず「黙れ(閉嘴)」とコメントを打ってしまった。

これだけ高品質で、48系グループの公演といわば別物になった公演に、コールやMIXが必要か?ということが本当の問題だと思った。

これは、真面目に考える必要のある問題だと思う。

SNH48が中国で本当にメジャーなグループになるためには、外から見れば奇妙に見える「ムラの中の習俗」をいったん捨てることは避けられない。個人的にはそう思っている。

もしかすると筆者がSNH48チームHIIの全曲オリジナル公演『Beautiful World』に激しい違和感をもって、以降、一度もオンライン生放送を観ていないのは、公演そのものの問題ではないかもしれないと気づいたのだ。

聴衆として純粋に公演を楽しみたいのに、オンライン生放送を観ている限り、そして仮に現場にいればなおさら、MIXやコールといった48系の「習俗」を、無意識のうちにジャマだと思っているのかもしれない。

今回の『第48区』は、なおさらそう思ったのかもしれない。

もうMIXもコールもいらない、と。

MIXやコールで公演に参加することを楽しむスタイルなら、たとえば広州GNZ48チームNIIIの全曲オリジナル公演『第一人称』や、北京BEJ48チームEの全曲オリジナル公演『ティアラ・ファンタジー』を観に行くのが最適だ。

筆者はいまチームNIIIキャプテンのミッフィー(劉力菲)を応援していて、48系のMIXやコールが見事にハマるJ-POPスタイルの楽曲も、さまざまな音楽のスタイルの一つとして好きで、毎回オンライン生放送を観ている。

この2つの公演は48系公演として、これまでのSNH48全曲オリジナル公演の中でベスト2だと思う。

でもたぶん『Beautiful World』や『第48区』は、そういう48系の公演とはすでに別物になっている。

なので批判を覚悟であえて言えば、MIXやコールなしで楽しませてもらえないだろうか。