SNH48年間230曲以上のオリジナル楽曲創作の秘密

中国ツイッター(新浪微博)の著名音楽批評ブロガー「DK在北京」が、SNH48がなぜ年間230曲ものオリジナル曲を量産できるのか?について、かなりいい感じの音楽評論を書いていたのでご紹介。

たぶん中国でまともな音楽評論家が女性アイドルグループの楽曲をマジメに分析するのはC-POP史上初では?原文はこちら

「大型女性アイドルグループ」のイメージを捨てて、その音楽の本質を語ってみよう

DK在北京 2018-01-27 20:14:05

2018年SNH48第四回リクエストアワーBEST50が行われるに際して、私は興味深いデータを手にした。不完全な統計だが、先日終わった2017年に、SNH48は計4つのオリジナル公演、7枚のオリジナルEP、4枚のグループEP、2枚の派生チームEP、1枚のソロEPをリリースし、オリジナル曲の総数は170曲を超える。

北京BEJ48と広州GNZ48の作品(おおよそ60曲)を加えると、SNH48運営会社は2017年全体で合計230を超えるオリジナル曲をリリースしたことになる。

皆さんがこの数量についてどういう感覚をお持ちかどうかは分からない。一年365日、週末と祝日をのぞくと、平均してSNH48運営会社は毎営業日に1曲新曲を発表していることになる。

現在、中国語の音楽界の創作力は依然として全体としては低迷している。日常的にリリースされる新曲には、オリジナル作品よりもバラエティー番組でカバーされたものの方が多く、完全なアルバムよりもシングル、EPの方が多い。

SNH48運営会社のように一年で200余りの楽曲を発表できる音楽会社は中国語音楽界にはほとんどない。

知っておく必要があるのは、育成系アイドルグループのために書く楽曲は普通の歌手より難しいということだ。

アイドルの音域は広くないだろう?だから高すぎたり低すぎたりする曲は書けない。

アイドルの音程とリズムはそれほど良くないだろう?だからメロディーはすらすら歌えるもので、リズムはあまり複雑すぎてはいけない。

アイドルグループは人数が多いだろう?一人ひとりが歌詞の一部をソロで歌う必要があるだろう?だから楽曲全体とフレーズは十分長くなければならない。

アイドルグループは歌いながらダンスするだろう?だから歌にはパワーと、動きがあって、ダンスに適したものでなければならない。

アイドルグループの観客たちは客席でコールするだろう?だから楽曲のリズムはやはりあまり複雑ではいけないし、編曲にはコールの入り口になる部分をたっぷり残しておく必要がある……

これらの限定条件を考えると、私は作曲者に残された創作の余地はほとんど残っていない感じがした。

しかし奇妙なことに、この200曲余りのオリジナル曲には、とくにいい加減に作った感じのある歌は見当たらない。全体として非常にきめ細かく作られている感じがする。いくつかの曲は相当素晴らしいものだ。

みなさん考えてみてほしい。

メンバーたちの歌唱力はバラバラだが、出来上がった曲を聴いてみるとなかなかのものだ。だとすればその中間には作曲者の非常に高度な技巧がきっとたくさんあるに違いない。

ではそれをどうやって説明すればいいか?弱いチームには神のようなゴールキーパーがいる。だからいったん関心をメンバーの太ももから作曲編曲の技巧に移してみれば、SNH48グループの多くの作品(とりわけメンバー全員で踊るテンポの速い曲)の制作レベルが相当高いことに気づくだろう。

例えば『未完成少女』を聴いてみよう:

楽曲の店舗は190bpm、リズムギターとドラムスが曲全体に活力と躍動感を与え、シンコペーションが絶えず調整され、音楽のリズムに豊かな変化を与えている。

しかし、女性ボーカルの音色とディストーションギターとロック寄りのドラムスが一定の中和をもたらし、曲全体の感じをそれほど爆裂なものでないように見せている。

楽曲のイントロとAメロ部分はCメジャーで、音域はG3~A4(途中に短い一時的な転調もある)。しかしサビはEbメジャーに切り替わり、高音もEb5まで達し、明確なコントラストをなしている。転調の継ぎ目とギターソロなどの部分は非常に精緻に書かれており、典型的な日本系アイドル曲(燃えの中に萌えあり)になっている。

しかし同じように燃えの中に萌えがある『Hot了Day』はパンクポップになっている:

楽曲のテンポはさらに速い210bpm(当然中間では105bpmに切り下げられている。そうでないと最初から最後まで210では踊っている方が死んでしまう)。

ギターの音色はさらに明るくシャカシャカしており、コードもシンプルな三和音のコードを主とし、色彩はさらにシンプルで明快になっている(転調なし、メジャーマイナーの切り替えもなし)。元気満々に響く。

暗さの魅力へ傾斜した『第48区』:

楽器の部分はかなり標準的なロックバンドの配置、メロディーラインには飾りつけに少しブルースの痕跡を残している。

しかし楽曲の途中にはさまれる電子音、とくにサビのボーカルのメロディーとユニゾンで進行するリードの音色は、十分ファッショナブルな感じを与えている。

マイナーコード、強烈なシンコペーションと強力なギターリフで曲全体が一定の攻撃性を持ち、SNH48グループの中で必ずしも主流とは言えない「姉御」気質を表現している(ほとんどの状況ではやはり清純で萌えな方向に作られている)

それからめったにない三拍子曲『Star River』:

SNH48運営会社が三拍子の曲をリリースすることが少ない主な理由は、もともと三拍子のリズムはゆったりとした抑揚があり、SNH48グループの青春のパワーがある育成系アイドルの設定に合わないためだ。

しかしたまたま波打つ大海を航行する汽船X号を表現するために三拍子が使われており、明らかに公演のテーマを表現している。さらにドリアン・スケールを使い、Aメロ、サビの間に転調を入れることで、非常に異国の雰囲気が出ている。

さらに安っぽい舞台美術と特殊効果を加えることで、公演全体が唯美的な神秘感を作り出している。

それと比較すると、ユニット曲は通常それほどきめ細かく作曲されていない。

しかし例外もあって、例えば『春夏秋冬』は、前奏、間奏の中でメロディーを担当しているリードの音色がやや荒っぽい点を除いて、曲全体が二次元の元気さに満ちている。

4人のメンバーが春夏秋冬のそれぞれに対応するというコンセプトも興味深い。もう少しこの方向で改善を進めれば、神曲になるポテンシャルが非常にある。

全体としてみると、SNH48グループの音楽は大部分の編曲がきめ細かく、楽曲の構造は複雑で、コードの色彩も多様で、音楽の要素が豊富といった特長がある。

歌い手のレベルが総体的に限られている状況で、作品は十分なインパクトと感染力がある。これらの作品の編曲の細かな部分や制作手法の多くは、プロが分析して学ぶ価値が大いにある。

この毎年200曲余りの曲はもちろんすべてSNH48運営会社自身が創作したわけではない。しかもSNH48運営会社は自前の音楽チームを持っているが、その人数と作品の生産量には限界があり、自身の需要を完全に満足させることはできない。

SNH48運営会社の大多数の楽曲はサードパーティーのチームによって創作されている。SNH48運営会社は一貫してケチな作風で、楽曲制作費もあまり高くない(それに私がSNH48グループのために楽曲を制作したことのあるミュージシャンに証言を求めたところ、SNH48運営会社のギャラは特別少なく、業界の平均レベルにはるかに及ばないという)。

有限な予算で、できる限りの生産量とそれなりの平均的な品質を維持するために、SNH48運営会社の音楽制作チームには体系化された音楽の品質管理とレベルチェックがあって、それによって作品のクオリティをコントロールしているに違いない。

同時にSNH48運営会社はこのように強力な価格交渉力を獲得しており、彼らの巨大なコンテンツ需要と相関している(だから規模は逆にSNH48運営会社にとって優勢になっているのだ)。

このように非常に大きな需要にもとづいて大規模に音楽を制作するモデルは、他の音楽制作会社やアイドルグループには、ほぼコピー不可能だろう。

もちろんSNH48グループにもさまざまな変化が起こっている。

2016年4月に戦略発表会を行って以降、SNH48グループ全体がコンテンツのオリジナル化路線をますます加速させているだけでなく、モデルの上でも絶えず新陳代謝を進めている。

北京BEJ48、広州GNZ48、瀋陽SHY48、重慶CKG48(地理的な多様化)を続々と結成している他、Color Girls、7SENSESなどの派生チーム(コンセプトの多様化)を結成している。

その中でも取り上げる価値があるのは7SENSESだ。

各チームから選抜された優秀なメンバーにより結成されている。具体的な作品とパフォーマンスの上で、彼女たちのこの派生チームは明らかに他のグループよりも高い総合力を示している。

例えば『Like A Diamond』という曲。

この種のK-POPスタイルのR&BバラードはSNH48グループと違ったスタイルを表現できており、これまであまり現れなかった「精緻さ」が現れている。

その理由は背景に違った運営コンセプトがあるからだ。

この派生チームは韓国式アイドルの運営方式を代表しており、厳しいレッスン、ハイレベルな制作、一人当たりへの投入資源の高さ、一級品への追及などだ。

一方SNH48グループは典型的な育成系モデルで、OJT方式、親しみやすさの強調、作品のコストパフォーマンスの追及である。

例えば7SENSESのこの曲『Like A Diamond』は韓国の第一線のプロデューサ、新沙洞の虎が制作を手がけたもので、しかも振り付け、スタイリング、MVも韓国で完成させ(MVの色調、構図、カット割りがすべて精緻に作られている)、コストは絶対に低くおさえられないに違いない。

この基準は突出した小さな範囲にしか適用できないので、慎重な(ケチ臭い)SNH48運営会社には絶対にグループ全体には応用できないだろう。

なので私たちは表面上は作品を議論してきたが、実際には制作モデルについて議論していたことになる。SNH48運営会社のようにこれだけの規模のコンテンツ生産者は、制作モデルがコンテンツ全体のクオリティを大きく決定する。

異なるモデル間でバランスを取ることができるかどうか、SNH48運営会社の運営の知恵が大いに試され、そのまま音楽のレベルを決定づけることになる。

SNH48運営会社のケチ臭さへの嫌味があちこちに書いてあるが(笑)、非常にすぐれた音楽批評だと思った。