上海SNH48映画制作中止で運営が敗訴した判決書がネタとして面白い件

上海SNH48の映像制作子会社「Studio48」が民事訴訟で訴えられたネタが面白かったので拾ってみる。外注先の監督と映像制作会社とどれくらいの予算で映像作品を作っているのか、何となく想像できそうなので。

2017/10/20上海市虹口区人民法廷の民事訴訟2件。被告はどちらもStudio48で、1件は監督が原告、1件は外注先映像制作会社が原告。

訴訟になった原因はとっても下らない。主演のテテちゃん(黃婷婷)が別のドラマ撮影があったから。つまりSNH48運営会社のスケジュール調整ミス。

判決書のリンクは下記。

上海市虹口区人民法院 民事判決書 案号:(2017)沪0109民初9246号
上海市虹口区人民法院 民事判決書 案号:(2017)沪0109民初9247号

判決書は長すぎるので、以下ポイントだけ書く。ちなみに問題の映画は『那時、可愛的她們』でSNH48運営会社から正式なアナウンスはあったが、結局撮影されずに終わった。

まず女性監督・林氏の訴え。Studio48と2016/07/15締結した契約で…

・報酬総額は140万元。
・うち、主演女性俳優が決定したら、第一期報酬として40万元。
・契約に定めのある違約金は140万元。
・上映後、興行収入が3億元を超えたら奨励金200万元。

しかしStudio48が一方的に契約を解除したので、林氏は第一期の報酬40万元、奨励金200万元、違約金140万元、その他、弁護士費用、交通費、訴訟手数料などを求めてStudio48を訴えた。

映画そのものがなくなって、興行収入が3億元超えるかどうかもわからないのに、奨励金まで請求するとはめちゃくちゃだが、判決はStudio48が違約金として42万元と弁護士費用等を支払うという、まあ妥当な内容になった。

次に外注先制作会社「上海路文影視文化工作室」の訴え。Studio48と同日締結した契約で…

・第一期報酬として120万元。
・第二期報酬としてクランクイン日に120万元。
・第三期報酬としてクランクアップ5日前までに20万元。
・第四期報酬として上映許可取得後5日以内に20万元。
・契約に定めのある違約金は280万元。
・上映後、興行収入が2億元を超えたら奨励金100万元。
・興行収入が3~5億元に達したら、1億元増えるたびに100万元。

しかしStudio48が一方的に契約を解除したので、制作会社は第一期報酬の120万元、興行収入3億元の想定で奨励金200万元、違約金280万元、その他、弁護士費用2.5万元を求めて訴訟を起こした。

こちらも興行収入3億元前提のめちゃくちゃな要求だが、判決は違約金45万元と弁護士費用2.5万元という、こちらもまあ妥当な内容。

2件の訴訟で合計1,000万元弱を要求されたが、最終的に90万元ですんだので、現地ファンは「SNH48運営会社は頑張りました」という感想らしい。

この訴訟で興味深いのは、まず上海SNH48映像制作子会社の「Studio48」がこの種の映画一本の興行収入が2億元を超えるかもしれない想定で契約を結んでいること。

極端な話、映画が完成して興行収入がゼロでも、SNH48運営は監督に140万元、制作会社に280万元で、合計420万元を支払う必要があった。

仮に興行収入が本当に3億元を超えていたら、Studio48は監督に140+200=340万元、制作会社に120+120+20+20+100+100=480万元で、合計で820万元を支払う必要があった。

SNH48運営としてはこの映画一本の制作費のうち、興行収入がゼロでも委託費用部分だけで最低420万元の負担になる。

この委託費用で完全な映画が完成品として納品されるなら、SNH48運営の費用負担は、撮影場所を借りる費用や、衣装代その他諸経費くらいだろうか。出演メンバーへのギャラは制作費用全体からするとごくわずかだろうから。

SNH48運営が自主制作、または外の映像制作会社と組んで制作するこの種の映画は、一本あたり10日間前後という短い期間でクランクアップする。撮影場所の定番、日本の太秦映画村的な「横店」を10日間借りるのにいくらぐらいかかるんだろうか。

いずれにせよ、例えば総選挙などでのファンからの利益だけで、年間数本の映画やドラマの撮影はできそうにない。投資家の資金を入れて、興行収入の一部を還元するんだろうと思う。

ところでこの判決書でネタ的にもっと面白いことがある。

映画撮影が中止になった理由は上述のように上海SNH48二期生テテちゃん(黃婷婷)のスケジュールがバッティングしたからだが、なぜ他のメンバーではなくテテちゃんなのか。

映像制作会社側の判決書から、その部分だけ引用する。筆者は法律の素人なので日本語試訳は間違いだらけだと思うが、だいたいの経緯だけ伝わればいい。分かりやすいように段落分けした。

下記は映像制作会社の判決書から引用しているので、監督の林氏は非当事者になっている。

案外人林某申请对其持有的手机号码为XXXXXXXXXXX注册的微信内容进行证据保全,其中林某表示其在工作中多次与滕华弢沟通、联系工作。林某与王凤商讨女一号演员的表述主要有,2016年10月5日对话,“除了鞠某某,谁最红?可以演方悄悄的”,“黄某某,特别适合”,“跟我想的一样”,“方悄悄是女一呀”,“我知道”;2016年10月11日对话,“杨磊有个逆袭之星途闪耀这个戏,说签黄某某。今天问问黄”,“黄某某要上那个戏?姑娘们都拿到剧本了吗?黄某某、赵粤有拿到剧本吗?意思是说,黄某某也不行了?”,“定不定,不知道。发了电子版了”,“咱们也把她们的合约都签了吧,省得节外生枝”,“我让程凯去办了,好像是只和公司签一份”,“鞠某某是不是没戏了?”,“让这边出演员合同,他们不知道怎么写”,“我觉得还是应该签单独正规的演员合同。第一,其他投资方会需要查合同,还有就是单独的演员合同在法律上更有保障”,“鞠某某是不行了是吧?”,“没定死”;2016年10月12日的对话,“鞠某某还来不?黄某某不能接别的戏,她昨天说还没签,如果签的话,那边要拍到11月底”,“到现在,没人说不来,也没说来”;2016年10月20日,林某称,“听说丝芭的4个女孩都在杨磊的电视剧呢,都签合约了”。2016年10月12日,林某与叶栋的微信记录主要有,林某称,“演员现在都什么情况?黄某某昨天说她有别的戏可能要去!要拍到11月底!”叶栋称,“对方的时间档期我也没得到确切的消息呢”,林某称,“黄某某是电影女一号呀,不能再拍别的戏了”,叶栋称“我知道呢”。
非当事者の林某(訳注:監督のこと)が所有のスマートフォンの番号XXXXXXXXXで登録したWeChatの内容により証拠の保全を行い、その中で林某は何度も滕華弢(訳注:SNH48運営会社スタッフ)と仕事の連絡を取っている。

林某と王鳳(訳注:SNH48運営会社スタッフ)が主演女性俳優について述べている主要な内容は、

2016/10/05の対話:

「鞠某某(訳注:キクちゃん)以外に、誰がいちばん人気がありますか?方悄悄の役を演じられる人で」
「黄某某(訳注:テテちゃん)が、とくに合っています」
「私もそう思います」
「方悄悄という役は主演ですよ」
「知ってますよ」

2016/10/11の対話:

「楊磊は『逆襲之星途璀璨』というドラマで、黄某某と契約したと言っています。今日黄に聞いてみます(訳注:楊磊はこのドラマの監督)」
「黄某某はあのドラマに出るんですか?メンバーたちは脚本をもらってるんですか?黄某某と趙粵(訳注:なぜかAkiraは本名)は脚本をもらってるんですか?要するに、黄某某はダメなんですか?」
「決まったかどうか分かりません。もらった脚本は電子版です」
「私たちは彼女たちと契約しましたよね。余計な問題を起こさないで下さい」
「程凱(訳注:おそらくSNH48運営会社スタッフ)を行かせたんですが、会社と契約しただけのようです」
「鞠某某は撮影がないんじゃありませんか?(訳注:『那時』の監督はキクちゃんを欲しがっている)」
「こちらから出演契約を出す場合、あちらのドラマ撮影班は契約書の書き方を知りませんよ」
「やっぱり単独の正規な出演契約をすべきだと思います。第一に、他の投資家たちは契約をチェックする必要がありますし、単独の出演契約の方が法律上の保障があるからです(訳注:『那時』の監督は早くテテちゃんと契約したがっている)」
「鞠某某はダメなんですよね」
「まだダメと決まったわけじゃありません」

2016/10/12の対話:

「鞠某某はやっぱり来ないんですか?黄某某は別の撮影を受けてはいけません。彼女は昨日まだ契約していないと言っていました。もし契約していたら、あちらの撮影は11月末まであります」
「今までのところ、誰も来ないとも来るとも言ってません」

2016/10/20の対話:

「Star48の4人のメンバーが楊磊のあのドラマの現場にいて、もう契約しているらしいですが」

2016/10/12の林某と叶棟(訳注:SNH48運営のメンバー管理責任者)のWeChat対話記録の重要な点。

林某「メンバーはいま一体どういう状況ですか?黄某某は昨日別のドラマに出るかもしれないと言ってましたよ!11月末まで撮影があるって!」
叶棟「あちらの撮影期間は私も正確な情報を得ていませんよ」
林某「黄某某はこちらの映画の主演なんですよ。別の撮影をしちゃダメです」
叶棟「分かってますよ」

面白いのは『那時~』の監督が「キクちゃんの次に人気があるのは誰?」と質問したら、SNH48運営会社スタッフがテテちゃんと答えている点。2016年当時、第三回総選挙の結果ではキクちゃんの次の第2位はカチューシャ(李藝彤)だ。

さらに実際には制作されなかった『那時~』のプロモーション期間に、同映画の中国ツイッター公式アカウントはこちらの2016/09/23 12:10のツイートのように、主演をカチューシャ(李藝彤)、テテちゃん(黃婷婷)の順に書いている。

そしてカチューシャもドラマ『逆襲之星途璀璨』に出演している。スケジュールのバッティングが訴訟の原因なので、『那時~』の監督はプロモーションで主演第一位のカチューシャの名前を出して、SNH48運営会社にクレームを付けるのが順当なところだが、判決書にはカチューシャの名前はどこにも出てこない。

(なおドラマのタイトルは『逆襲之星途璀璨』が正しい。判決書の『閃耀』は同ドラマの原作であるゲームのタイトル)

ここからは筆者の想像だが、SNH48運営会社は第三回総選挙の結果にもとづいて、『那時~』の主演第一位はカチューシャを推しており、クランクイン前のプロモーションでもカチューシャを優先していた。しかし監督側はキクちゃん、テテちゃんのどちらかを欲しがっていた。

裁判所の事実認定でWeChatのチャット履歴が証拠になるというのも面白いが、客観的な事実認定の中でSNH48運営会社や外注先の監督の意向が透けて見えるのが興味深かったので、ネタとしてご紹介した。

2018/03/20追記:この民事訴訟はどちらも二審の結果が出ているが、原告の上訴を退けて一審どおりの判決となっているので二審の内容はご紹介しない。